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第三章

「あなたがヴァイオレット様の使いね?」

………どうして、こうなったのだろうか。

オフィーリアの眼前には美少女、アルティカル・アイシア・ヘンシークス。朗らかとはいいがたい悪い笑みを浮かべ、足を組んで木組みの椅子に座っている。その横には、なぜかスカーレットの姿。

「オフィーリア・スフィーと申します。よろしくお願いします」

臆する自分を叱咤しつつ、頭を下げた。

「知ってると思うけど、私はアルティカル・アイシア・ヘンシークス。伯爵令嬢よ」

「存じ上げております、ヘンシークス様」

「アイシアでいい。私がヘンシークス家の人間であることは、内密に」

言っていることの真意がわからず、きょとんとする。そんなオフィーリアの様子を見て、アイシアはため息をついた。そしてオフィーリアの後ろにいたミヨをじろりと睨む。

「ちょっとミヨ、説明しなかったの?」

「ごめんなさいね?」

ミヨはアイシアの視線に悪びれない様子で答える。

「お知り合いなのですか?」

オフィーリアはびっくりしてミヨに聞く。そういえばアイシアは元魔法士団だったと思い出したのは聞いた後だった。

「昔は同じ魔法士団員だったのですよ、彼女は」

「説明しといてって言ったのに。怠慢よ、怠慢」

アイシアが口を尖らせ野次を飛ばした。ミヨはそれを軽々しく微笑みを持って流す。

「では、なぜ私はここに?」

「……聖夜祭。ジェッタ・スタラミーが入国しているって言ったでしょ。」

「はい、存じ上げております。」

オフィーリアは頷く。聖夜祭の始まる前、中庭で交わした密談が思い起こされた。

「あの日から、スタラミー家の娘クリスティーナとどうにか連絡しようとしてたの。そしたら、掴んだわ。クリスティーナの側近の男が、国内で捕らえられていた」

「捕らえられていた……?」

アイシアは肯定の意を示した。オフィーリアが呆気に取られていると、アイシアは机の上の羊皮紙に手を伸ばす。

「側近の男の名前はキラ。クリスティーナに幼い頃から仕えていて、クリスティーナが信頼を置くただ一人の人間なの」

「その男が囚われているのは、クリスティーナ嬢に対する人質というわけです。彼を救出し、クリスティーナ嬢をこちら側の味方にしたい」

ミヨがアイシアを引き継いだ。オフィーリアはミヨの眼鏡に隠された黒曜を見る。

あの日、契約してからのミヨは行動が早かった。素早くヴァイオレットに忠誠の意を示し、ヨウナをヴァイオレットに追従させ、ヴァイオレットの第一の目的は無事に果たされることとなった。しかしそれだけでは、アンリとミナミを引き込むのに手札が足りない。そこでミヨが掘り起こしたのが、彼女たち二人の学生時代の記録だった。

ノーザン国は世界でも有数の魔法大国として有名だ。しかし、その技術の殆どは他国からもたらされたものだった。アンリやミナミを始めとした、世界でも類を見ない優秀な魔法士を要請する学校があった。その魔法学院で、アンリ、ミナミと切磋琢磨してきたのが、ハーマイオニー・エルスコフ。

「ね、ミヨ。ハーマイオニー・エルスコフが、クリスティーナであることは確かなの?」

「ええ、恐らくは。」

ハーマイオニー・エルスコフの名を、オフィーリアは聞いたことがある。しかしそれは「ゲーム」ではなく、オフィーリアの人生の中で、だ。ハーマイオニー・エルスコフはノーザン国の高名な魔法学者である。エルスコフ論と呼ばれる論理を提唱し、たった二年でその謎を全て解明したという誰もが知る魔法学者だった。

「……ミヨ副隊長。どうしてエルスコフ女史がクリスティーナ様であると?」

「まあ、いろいろと。私の隊長は割と詰めの甘いところがありますから」

ミヨがうっとりとするような微笑みを浮かべた。天上の美姫もかくやと言いたいところだが、内容に気を取られオフィーリアは一歩後ずさった。その掛け合いを見ていたアイシアがひとつ咳払いをする。

「……まあ、とにかく。これからその側近の救出作戦を始めたいの」

「ヴァイオレット様たちを、呼ばないのですか?」

「今回はあくまでひっそりと行きたいの。派手にやって国民たちに見つかっては告発の恐れがあるから、伝えるのは最小限」

ぱん、と音を立てて、アイシアが羊皮紙に掌を叩きつけた。

「今回の目的は二人。一つはクリスティーナの引き入れ。もう一つは、本当に王宮とスタラミー家が繋がっているのかを確認したい」

「どうやって?」

「内部で騒ぎを起こす。国王の命を狙う者の一派と見せかけることで、スタラミー家に圧を与える」

オフィーリアはもう一度アイシアの目を見た。アイシアは自信満々に、爛々とその深紅を輝かせている。オフィーリアはひとつ嘆息して、机の上の羊皮紙に目を落とした。

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