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第二章 その5

王都グレンツィアにあるノーザン王城に来るのはこれで二度目。入り口で提示を求められた招待状をきっちりと見せて、ヴァイオレットとオフィーリアは連れたって王宮へと入った。中では絢爛な衣装を身に纏った貴族たちがあちこちで会話を繰り広げている。オフィーリアはその空気に萎縮し、肩を縮こませた。

「大丈夫ですか、オフィーリアさん」

ミヨがそう声をかけてくる。オフィーリアは軽く頷き、強く心を持つために背筋を伸ばした。ヴァイオレットはそんなオフィーリアを気にも留めず、さっさと奥へ歩いていく。どこへ行くのだろう、と思いながらその背中を追いかけていくと、やがて人気のない中庭に出た。空は日が傾き始め、夕陽が地面に呑まれようとしている。ヴァイオレットは周囲の視線を気にするがごとくぐるりと中庭を見回し、そのあと、「ついていらっしゃい」とオフィーリアを促した。その時、ミヨとヨウナに見張りを命じて引き離す。そして、城の影に入って目立たぬ暗いガゼボに連れて行く。

「ヴァイオレット様」

そう声をかけると、ヴァイオレットは振り返って、扇をオフィーリアの唇に押し当てた。

「静かになさい、オフィーリア」

オフィーリアは言われた通り押し黙る。ガゼボの中が見えてくると、三つの人影。そのうち二つは、クラウンとスカーレットだった。もう一人は見知らぬ者。夕陽の中の暗いガゼボでもよく見える金色の髪に、赤い瞳の女。本来ならば見知らぬ姿だが、オフィーリアにはその正体がわかっていた。

(アイシア・ヘンシークス……)

まだ登場していなかった、ヴァイオレットたちの強い味方。宝石商ヘンシークス家の一人娘、アイシア・ヘンシークスだった。

「ごきげんよう、ヴァイオレット様」

アイシアはヴァイオレットの姿を認めるとすぐに立ち上がり、美しい淑女の礼をしてみせた。ヴァイオレットもそれに倣う。

「ごきげんよう、アイシアさん。クラウン様に、スカーレットさんも。お待たせいたしましたわ」

「構わないよ。今日も美しいね、ヴァイオレット」

クラウンがそう声をかけた。ヴァイオレットは口元を扇で隠す。照れているな、と頭の片隅で考えながら、オフィーリアはヴァイオレットをガゼボの中のベンチに座らせた。

「オフィーリアさんも、そのドレス、とても似合っています」

「恐縮です」

スカーレットの褒め言葉にそう返す。アイシアは見慣れぬオフィーリアに胡乱な目を向けていたが、ヴァイオレットから「新たな側近ですわ」と言われ、ひとまず納得したのか視線を外した。

「急にお呼びして申し訳ありません。どうしても、このパーティーの前に知らせなければならないことがあって」

アイシアはせわしなく口火を切る。

「スタラミー家に動きがありました」

「動き?」

スカーレットがそう返す。アイシアは側に控えていた橙色の髪の側近から、羊皮紙とペンを受け取った。そして羊皮紙にさらさらと書きつけていく。

「スタラミー家の娘と、当主が対立していたんです。」

「そんな話、聞いていませんけれど?」

「私も、さっき知ったんです。当主は一人娘のクリスティーナを嫁入りさせて、権威を強めようとしていましたが、クリスティーナは呪法の研究がしたいと反発した」

アイシアは羊皮紙に地図のようなものを書き始めた。

「クリスティーナはスタラミー家から家出して、今、グレンツィア外れの宿屋に滞在しているみたいです。そして、それを追って当主ジェッタ・スタラミーが入国しました」

その場に緊張が走る。

「ジェッタ・スタラミーが入国したってことは、王宮の乗っ取りが加速しているのかも」

「ありえるな。ジェッタ・スタラミーは王宮と対立しているはずだ。いくら娘のためとはいえ、狙われる可能性のある国に戻るはずがない」

スカーレットとクラウンがそれぞれ考察を口にする。オフィーリアは眉間に皺を寄せ、「ゲーム」を思い出していた。本来ならば冬が明けてから、スタラミー家が動き出すはず。あまりにも早すぎる。

「すでにクリスティーナとは連絡を取ってあります。クリスティーナによると、スタラミー家の隠れ家は、ここにあると」

羊皮紙に描かれたグレンツィアの地図、その南。兵士たちが訓練に使う、霧の森の中に丸がつけられた。

「かなり規模の大きな地下施設のようです」

「そう……ありがとう、アイシアさん。必ず役立てるわ」

「はい。では、私はこれで」

初邂逅はあっという間に過ぎ去り、アイシアは側近と連れたってガゼボを隠れるように出た。ヴァイオレットは羊皮紙を靴の中敷きの下に隠す。

「スタラミー家の動向の監視は彼女に任せましょう。今はとにかく、彼女らに集中しなくては」

ヴァイオレットは遠く離れた場所で会話しているミヨとヨウナに目を向けた。二人はこちらの視線に気が付かず、何やら話している。クラウンやスカーレットも、その二人に視線を向けた。

「首尾は?」

スカーレットが聞く。

「上々、とは言い難いですわね。警戒は強いまま」

「では、私に一つ、手をかさせてくださいませんか?」

スカーレットがそう言って笑った。オフィーリアはその笑みに、何やら背筋が冷たくなった。嫌な予感がする。雪の寒さの中に、また別の寒さを感じて、オフィーリアは体を擦った。

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