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第二章 その3

聖夜祭が二日後にまで迫ると、オフィーリアとラトゥナはベルタ街にある宝飾品店で注文したアクセサリーを受け取ってくるようダーラに言いつけられた。オフィーリアはポーチの中に手紙付きのダリアへのプレゼントを入れて、ラトゥナは受け取ったアクセサリーを大事に持っている。オフィーリアはラトゥナを先に北館へ帰し、郵便局へと向かった。ベルタ街の郵便局は大きく、ずらりと並んだカウンターで人々が発送やら何やらの手続きをしている。オフィーリアは長い列に並び、自身の番を待った。職員たちは手慣れていて、すぐに人が捌けていく。オフィーリアの番はすぐにやってきて、カウンターに手紙とプレゼントを置いた。

「クレイヤー領……えっと、ガルスムのクレイヤー家に届けてください」

「はいよ。宛名は?」

「ダリア。ダリアです」

地図を見てクレイヤー領を指し、書類に必要事項を書き込む。ペンを置いて渡された箱にプレゼントと手紙を入れ、手続きを終えて踵を返す。ふと郵便局のカウンターから離れていく見知った背中を見つけて、思わずオフィーリアは駆け寄った。

「ラピスさん!」

「え? ……ああ、オフィーリアさん!」

ラピスはオフィーリアを見つけて驚いたように笑った。

「姪御さんのドレスは選べましたか?」

「ええ、素敵な青いドレスを見つけました。……そうだ、オフィーリアさん。この後、お暇ですか?」

オフィーリアはそう言われてこのあとの予定を思い出す。今日のオフィーリアは聖夜祭のパーティに向けて休みを与えられていて、特に予定はない。

「はい、大丈夫ですよ」

「そうですか。その、姪への聖夜祭のプレゼントを選びたいんですけど。どうも何を贈ればいいのか分からなくて。手伝っていただけませんか?」

「勿論です」

「ありがとうございます!」

ラピスはにっこり笑った。郵便局の外へ出ると、雪が降り出してきていた。二人は歩きながら雑談をする。

「まずは大通りでしょうか。そういえば、ドレスはどこで買ったんですか?」

「駅前にある服飾店です。子供用のドレスが豊富で」

駅前の服飾店は、ヴァイオレットが時々オーダーメードを頼む店だったと記憶している。ラピスの兄が婿入した家というのは、かなり裕福なところらしい。それにしてもドレスを買えるだけの大金を弟に預けられるくらい、信頼関係があるのは少し羨ましい。

「オフィーリアさんと会えてよかったです。明後日にはフェルマオに戻らなければならなかったので……あ、フェルマオには兄が住んでいるんです」

「そうなんですね。フェルマオというと、キャベンディッシュ領でしたっけ」

フェルマオはグレンツィアの北側の街だったと記憶している。ベルタ街より寒くないにしろ、ドレスは寒さ対策があったほうがいい。

「北の方で売っているドレスは、保温魔法がかけられているものが多いらしいですね」

「はい。トワイライト家で着用されているドレスは、保温魔法が必須ですね」

「やはり寒いから?」

「保温魔法がかけられているドレスは高級ですから、財力の誇示という意味でもありますよ」

「なるほど……」

ラピスは感心したようにうなずく。オフィーリアは道路の端に聖夜祭フェアの看板を見つけて、ラピスの腕を叩いた。

「あそこのお店に行ってみましょう」

「はい」

手始めに入った店はアクセサリー店のようで、若者向けの綺羅びやかなアクセサリーが並んでいる。

「例えばこれなんかどうでしょうか? 意匠は派手ですが、石の色が暗めなのでドレスに合うと思いますよ」

「いいですね!」

次に入った店は平民向けから貴族向けまで幅広く商品を展開している香水店だった。

「め、姪御さんは明るい方でしたよね。でしたらシトラスのような柑橘系の香りや、ドレスに合わせてラベンダーの香りなんかも素敵ですね」

「なるほど。では、どちらも買いましょうか」

次に、また次に。そして入った店は貴族向けの雑貨店。

「……普段遣いできるものでもいいんじゃないですか?ハンカチとか、あ、ティーカップなんてのもありますよ」

「ほおお。すみません、これをいただけますか?」

(……どんだけ買う気なの、この人!)

買い物を済ませ、駅前のレストランでランチをとる間。オフィーリアはラピスの足元にある大量の紙袋に目をやった。どれも先程買ったラピスの姪へのプレゼントだ。オフィーリアが進めるものを片っ端から購入し、このレストランの食事代も奢るという。些か金を使いすぎではないか?と思わなくもないが、オフィーリアもこの間安くない時計を2つも買ったのを思い出してラピスの紙袋から目を逸らした。

「いやあ、助かりました。なかなか私は女性の好みがわからなくて」

「お役に立てたようで何よりです」

オフィーリアは眼の前の皿に盛られたサンドイッチをちぎって食べた。このサンドイッチは北の国の定番料理で、ノーザン国の民からはカウフルと呼ばれている。料理は同じでも名前が違うのは、ゲームの制作会社のこだわりなのだろうか。しばらくそうしてカウフルを食べ続けていると、ふとポタージュを飲み終わったラピスがこちらを見ていることに気がついた。

「どうかしましたか?」

「……あ、いえ。なにも。そうだ、オフィーリアさん。これ、僕からのお礼です」

ラピスはジャケットの内ポケットから小箱を取り出す。最初によったアクセサリー店の名前が書いてあるリボンがついていた。中にネックレスが入っている。

「そんな、貰えませんよ」

「貰ってください。私に付き合ってもらったんですから、これくらいさせてください」

オフィーリアが箱を返すと、ラピスが箱に手を握らせてくる。数分の押し問答の末、オフィーリアはその箱を受け取ることになってしまった。

「オフィーリアさん。お礼ついでに、私と友達になってくれませんか?」

「え? いい、ですけど……なんで?」

「なんで、って。オフィーリアさんが魅力的な女性だと思ったからですよ。」

まるで口説くようなセリフにオフィーリアは狼狽する。そんなこと軽々口にしていいのか、なんてラピスの瞳を見るが、からかいの色はない。オフィーリアはそれに少し冷静になり、椅子に腰を落ち着けた。

「わかりました。いいですよ」

「本当ですか。では、私のことはさん付けせず、ラピスと呼んでください。それが友達というものでしょう?」

「そうなんですかね。じゃあラピスも、私のことはオフィーリアと呼んでください。」

気紛れにそう言うと、ラピスは喜んで「はい、オフィーリア」と笑う。オフィーリアが調子に乗って「あと敬語も外して!」というと、ラピスはくすくす笑い声を上げた。

「わかったよ、オフィーリア。その代わり君も敬語を外してくれる?」

「なんでですか?」

「君だけが敬語だと対等じゃないだろ?」

そういうものなのかとオフィーリアは頭にはてなを浮かべた。カウフルの最後の一口を飲み込んで、オフィーリアとラピスは席を立ち上がる。

「じゃあ、ここは私が払うよ」

「はあ? 待ってください、ラピス。」

「敬語」

「……待ってよ、ラピス。それは対等じゃない。私も払うわ」

ラピスは拍子抜けしたように硬直する。その隙に伝票を取ろうとするが、身長差のせいもあって取れない。

「……わかりました。じゃあここは割り勘ということで」

オフィーリアはラピスの提案にうなずき、袋から貨幣を取り出してラピスにわたす。ラピスはそれを持って支払いを終え、店を出た。

「じゃあ、ここまでで。フェルマオに戻ったら、手紙を書きます」

「またね。ラピス」

「ええ、また。オフィーリア」

駅の方へ歩いていくラピスの背中を見送り、オフィーリアはトワイライト邸に戻るため歩きだす。コートのポケットに入れた小箱を無意識に触っていた。

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