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第二章




夜が明け、日が昇り始める前。いつもよりも何時間も早い朝会に、オフィーリアは抑えきれなかったあくびをなんとか噛み殺した。けたたましい鐘の音とともに叩き起こされ、なにかの魔法が使われて、朝会の時間が早まる旨を記した手紙が自らこちらに赴いてきた。隣のラトゥナも半目で今にも寝そうにしていた。

「おはようございます。皆様に、ヴァイオレットお嬢様より特別な、お話がございます。心して聞くように」

ダーラがそう言った。オフィーリアは瞬時に、革命のことだと理解する。壇上にヴァイオレットが上がり、仁王立ちで堂々と腕組みをした。集められた侍女たちが頭を下げる。

「頭を上げなさい。皆様にはこれからお話がございます。初めにいいますが、この話には箝口令を敷きます。もしも外部に洩らした場合、何かしらの罰を受けていただくことになりますわ」

ざわ、とその場の空気が揺らめいた。侍女たちの動揺がありありと伝わってくる。ふとヴァイオレットの後方に目を向けると、そこにはスカーレットの姿。オフィーリアと目が合うと、手招きをしてきた。ダーラの目につかないよう小走りでスカーレットに近づく。

「スカーレット様、おはようございます」

「おはようございます、オフィーリアさん」

挨拶を交わすと、スカーレットはヴァイオレットを見るよう示す。オフィーリアがそちらに目を向けると、雲の隙間から差し込む朝日がヴァイオレットを照らし出し、女神像のような神々しい雰囲気に拍車をかけている。オフィーリアは思わず心のなかで祈った。

「わたくしヴァイオレット・トワイライト、及びこのトワイライト公爵家は、現ノーザン王に対し。第二王子クラウン・ノーザンを祭り上げ、反旗を翻すことといたしました」

そうヴァイオレットが言い切ると、侍女たちの間に動揺が走る。どよめきが波のように広がり、中庭がさざめくような声に包まれた。

「これは命令です。逆らうことは許しませんわ。わたくしたちの手となり足となり、革命を成功させるのですわ! ……国のためにね」

オフィーリアはその堂々たる姿に感嘆の息を吐いた。これが自らの主だと思うと、歓喜のあまり小躍りしたくなる。そんなヴァイオレットの勇ましい姿に感化されてか、侍女たちも不安が残りはする顔で従う意を示した。ヴァイオレットは満足げに二度頷いて、壇上を降りる。その目にスカーレットとオフィーリアの姿を認めて、「行きますわよ」と北館に戻って行く。オフィーリアは自身も呼ばれたことに気が付き、慌てて二人の背を追いかけた。






ヴァイオレット、スカーレットと共に執務室まで戻ると、ヴァイオレットは文机の椅子に腰掛け、スカーレットとオフィーリアの顔を交互に見た。

「これで、もう後戻りはできない」

重々しくそう口にしたあと、オフィーリアに紅茶を出すよう言いつける。オフィーリアは紅茶を淹れるため、執務室を出た。その背中を見送ったスカーレットは、ヴァイオレットに向き直る。

「ヴァイオレットお嬢様。もし、王立魔法士団を取り込むのに失敗したら、どうしますか?」

「それでも戦うしかありませんわ。やるしかない」

手の甲を額に当て、頭を冷やすように目を閉じる。先程まで気を張っていたせいか、少し疲れてしまった。このあとは護衛となる魔法士たちを迎えねばならぬのだから、気が抜けない。

「スカーレットさん、アイシアさんから返事は来まして?」

「はい。『万事滞りなく進んでいる』とのことです。スタラミー家に関しても、進展があったみたいです」

「そう。わざわざこれだけの用事で呼び出して申し訳ありませんわ」

「いえ、そんなことは。革命の成功は私達の悲願です。必ず成功させましょう」

スカーレットは闘志の籠もった瞳でヴァイオレットを見据える。ヴァイオレットもそれに頷いた。スカーレットが部屋を出ていく。入れ違いにダーラが顔を出した。その後ろにはオフィーリアの姿も見える。

「お嬢様、王立魔法士団の方々がご到着いたしました」

「ありがとう。迎えに出ますわよ、オフィーリア」

「かしこまりました」



階下まで降りて正門に立ちはだかる。オフィーリアが目を凝らすと、遠くより二匹の馬が人影を乗せてやってきたのが見える。 片方はヨウナだった。もう片方はフードを被っていて顔が見えない。二人は正門前で馬から降り、深々とヴァイオレットに例をした。

「トワイライト邸にようこそ、王立魔法師団の方々」

「本日はどーも。護衛のヨウナ=グレイスです……」

顔を上げたヨウナは相変わらず不躾な態度で応答する。相手が相手なら処刑もありえるだろう。そう考えていると、フードの魔法士が声を上げた。

「ヨウナ、不敬にあたります」

「……ミヨ、副隊長?」

ヴァイオレットは魔法士の声に反応した。驚いていると、魔法士はくすりと笑って礼をする。

「昨日ぶりでございます、ヴァイオレット・トワイライト様。エミール・レガート・ヨハネ・リアラドです。職務の都合上外ではこのような格好をしなければならず、申し訳ございません。本日よりヨウナとともにヴァイオレット様の護衛任務にあたります」

「そう。それは、よろしいですわ。こちらへ」

ヴァイオレットは動揺していた。しかしそれを押し殺し、北館に護衛の二人を先導する。ミヨは北館の中へ入るとフードを外した。よく手入れされているであろう黒髪がはらりと舞った。ヴァイオレットの執務室へと戻り、ヴァイオレットは用意された席に座る。

「あなたがたにはわたくしの外出時・応接時の警護、それの念の為の北館の見回りをお願いしますわ。見回りの際、気がかりなことがあれば、そちらのオフィーリアか、ラトゥナか、侍女頭のダーラにお願いいたしますわ」

「承知いたしました」

ミヨが恭しく頷いた。オフィーリアはヨウナと視線が合ったのに気が付き頭を下げる。顔を上げるとヨウナはオフィーリアから視線を外していた。その視線の先にはヴァイオレット。

「ラトゥナ。ミヨさんに館内を案内して。ヨウナさんは、お話があります」

「はいはい」

ラトゥナがミヨを連れて出ていき、間もなく扉が閉まる。ヴァイオレットは浮かべていた微笑みをやめ、ヨウナはその顔に深い笑みを見せる。

「どういうつもり?」

「別に。隊長が決めたこと。僕は何も関与してない」

「その言葉を信じてよろしいの?」

ヴァイオレットは鋭い視線でヨウナを見る。ヨウナはそれをものともせず、ヴァイオレットが差し出した小切手をひらひらと見せつけた。

「前金だけでこの額を差し出されちゃったし、なんて言ったって面白そうだ。僕の行動の根源を満たされちゃ、協力しないわけがない」

「答えになっていませんわ」

「……はいはい。信じていいよ、僕は関与していない。もし嘘だとわかったら、僕は殺して構わない。……これでいい?」

ヴァイオレットはため息を付いて、ソファの背もたれに身を預けた。

「よろしいわ。オフィーリア、彼女を案内してあげて」

「かしこまりました」

オフィーリアはヨウナを連れて退出し、北館の廊下をともに歩く。一つ下の階まで来て、十分ヴァイオレットの執務室から離れたのを確認し、オフィーリアは足を止める。

「どうしたの?」

「……ヨウナ副隊長。本当にあなたを信頼していいのですか?」

なんだか都合が良すぎると感じた。ゲームの小鳥イベントルートで、護衛に来るのはヨウナと、攻略対象の一人だった。ミヨではないはずだったのだ。朧気ながら思い出したその記憶を元に、オフィーリアはヨウナに詰め寄る。

「どうして、ミヨ副隊長が来たのでしょう。両隊の副隊長が消えてしまえば、王立魔法師団にとって大打撃ですよ」

「なかなか鋭いじゃん。オフィーリア、だっけ。君さ、何を知ってるの?」

「……いえ、何も」

「教えてくれないの? じゃあ、僕も教えてあげないよ」

ヨウナはそう言うと、手をひらひらと振って笑った。そして階段の方へと戻っていく。その道すがらこちらを振り返った。

「早く案内してよ」

「……はい」

オフィーリアは釈然としないまま、その背中を追った。



「こちらがお二人の客室になります。お荷物は既にお運びしております」

「ありがとうございます。」

ラトゥナという侍女が頭を下げて部屋の扉を閉めた。ミヨはベッドのそばにおいてあったトランクケースを開いて、一番上の紙束を取り出す。そして耳にかかっていた黒髪を払う。耳に接するように、小さな魔法陣が現れた。その魔法陣からは、ヨウナとヴァイオレットの側近の会話が聞こえてくる。ミヨはベッドに座り、紙束をめくる。目当ての書類で手を止めた。

「オフィーリア・スフィー、ですか……気になりますね」

うっそうと微笑むミヨを見るものは誰もいない。耳元の魔法陣が弾けて、魔力となって解けていった。


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