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第一章 その6

部屋の扉が開きミヨが入ってきた。ミヨはカウチに座るヨウナを見るなりため息をつく。

「ヨウナ、不敬にあたります。足をおろして」

「ちぇー」

「ご無礼をお許しください、皆様。隊長を呼んでまいりました」

ミヨがそう言うか言わないか、後ろから二人の魔法士が入ってきた。片方は赤のサーコートに身を包んだ桜色の髪を持つ、アンリ・ヴェレーナ。もう片方は青のサーコートに身を包んだ空色の髪を持つ、ミナミ・リャベスト。王立魔法師団東隊西隊の隊長だ。そして、このノーザン国で最も強い二人でもある。

「ごきげんよう、クラウン第二王子殿下、ヴァイオレット・トワイライト公爵令嬢様。東隊隊長、アンリ・ヴェレーナと申します。」

「西隊隊長、ミナミ・リャベストです。以降お見知りおきを」

「ゲーム」の一枚絵のように美しい対となった二人に、オフィーリアは目眩がした。もちろん感動のあまりにだ。隊長が来たからか、ヨウナはカウチから足を下ろす。空いた空間にミヨが体を滑り込ませた。早速とばかりにアンリが口を開く。

「出迎えもせず申し訳ありません。南側で暴動の気配がありましたため、鎮圧に向かっておりました」

「構いません。わたくしの依頼については?」

「もちろん引き受けさせていただきます。ご要望などありますか?」

ミナミがアンリの言葉を継ぐ。ヴァイオレットは再び扇で口元を隠し、言葉を溜める。

「……では、そこのヨウナ=グレイスを」

そう口にした。ミナミとアンリが微かに目を見開く。ミヨに至っては口元に手をやり隠していたが、その顔には驚きが浮かんでいた。

「その、ヴァイオレット様。申し上げますが、このヨウナというのは少々礼儀に欠けておりまして」

ミヨがそんな物言いで忠告してくる。

「承知の上ですわ。興味がありますの」

ヨウナを見ると、「よくもまあそんなことを」とでも言いたげな呆れ顔をしていた。ミヨもアンリもミナミも気がついていないのが幸いだ。

「もう一人、社交場慣れしている方をお願いしたいわ」

「……承知いたしました。明日にはお伺いいたします。それと、スカーレット。少し話がある、こっちへ」

ミナミがスカーレットを手招いた。スカーレットは不思議そうな顔をしてミナミについていく。ミヨは暑く思ったのか立ち上がり、窓の閂を抜いて硝子を押して開いた。

風とともに、禍々しい赤色の小鳥が中へ入ってきた。アンリとミヨが息をつまらせる音が聞こえると同時に、小鳥が「ピィーッ」と気の抜けた鳴き声を上げる。

「これが小鳥?」

ヨウナがすぐさまカウチから立ち上がる。ブーツが床を踏み鳴らす。青白い光がヨウナの両手から溢れた。小鳥が魔力に反応し、角度を変えて窓から出ていこうとする。

「逃がすか! 雷魔法トルエノ!」

バリバリバリバリッ!

短い詠唱、呼吸とともに両手の青白い光が色を変え、そこら中に広がる。耳が痛くなるような轟音が響いて、目にも止まらぬ凄まじい速さで雷が小鳥を貫いた。小鳥は「ピィー」とどこか呑気に聞こえる声で鳴き、塵になった。

血相を変えてミナミとスカーレットが応接室に飛び込んでくる。

「何事!?」

「小鳥が出たんだ」

クラウンがミナミに冷静に応じる。スカーレットはあからさまに胸を撫で下ろした。

「ヨウナさん、どうもありがとう」

ヴァイオレットがそういうと、ヨウナは一瞬きょとんとして、「……変なの」と呟いた。不遜な態度だなとオフィーリアが苦笑すると、ミヨがヨウナの頭をぱしんと叩いた。不敬だと言いたいのだろう。

「今のでわかったと思うが、ヴァイオレットはこういうふうに狙われているんだ。だからくれぐれも護衛をよろしく頼むよ」

クラウンがそう締める。アンリは恭しく頷いた。

「かしこまりました」

「ではわたくしたちはこれにて失礼。ああ、今回の報酬は弾みますからね」

応接室をあとにする。オフィーリアはスカーレットに小声で話しかけた。

「隊長様とは何を?」

「魔法についての話と、呪いについての話を伺いました。あとはヴァイオレットお嬢様のご様子を聞かれましたので、当たり障りのない返答を」

そう聞いてほっと胸を撫で下ろす。核心を付かれたわけではない。詰所を出て馬車に乗り込んでも、オフィーリアは計画が露呈するのではとひやひやとした心持ちでいた。






一方、オフィーリアたちが去った後。

詰所の人気のない廊下を歩きながら、アンリはミナミに話しかけた。

「ねえミナミ。あのお嬢様、何を企んでいると思う?」

「さあね。ただ、私欲のために動いてるわけじゃなさそうだけど」

「どうして?」

アンリは笑いながら尋ねる。ミナミは自身の髪を撫で、窓の外に目を向けた。

「あの赤い小鳥。小鳥の気配と別に、何か特別な気配がするでしょ」

「そうね。最近のノーザン王の動きも少し怪しいし、私達の知らぬ場でなにか起きていると考えたほうがいいわ」

「同感。わざわざヨウナを指名したのは?」

「どうせヨウナを金で雇おうとしているのでしょう。とにかく様子見よ」

アンリとミナミは廊下突き当りの一室へ入る。隊長室と書かれたそこは、アンリとミナミのデスクが隣り合って置かれていた。アンリはデスクの後ろの窓を開き、目下の街を見下ろす。ちょうど、トワイライト家の馬車が発車する所だった。その後ろではミナミが、机の上に置かれていた手紙に目を通す。読んだあと、机の上のハンドベルを鳴らすと、扉が開いて一人の青年が入ってきた。青年は黒の王立魔法師団の制服を纏い、紺色の髪に夜空のような深い青の瞳を持っている。青年はミナミとアンリの前に跪いた。

「お呼びですか?」

「トワイライト家及び、クラウン第二王子の調査を。そしてそれを私達、それとミヨに報告して」

「承知いたしました」

「よろしく。あなたなら大丈夫だろうけど、油断はしないようにね。_________ラピス」

ラピスと呼ばれた青年は、頭を上げた。

「必ずや」


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