第一章 その3
ヴァイオレットは破り捨てた紙片を魔法で片付けつつ、オフィーリアに不敵な微笑みを向ける。
「協力していただけるとなれば、革命の目的を話しておきませんとね」
「革命の目的ですか」
「ええ。あなた、赤い小鳥の呪いの話は知っていて?」
「はい。その赤い小鳥は、このノーザン王国に降りかかる災いを予言するものと記憶しております」
「ゲーム」で語られていた情報をそのまま口にすると、ヴァイオレットは静かに首を振った。
「公にはそうなされているけれど、実際は違うわ」
「…というと?」
「あの小鳥は、この国の動向を監視している」
「監視、ですか」
ここで知っていると言われると怪しまれかねない。オフィーリアは知らぬ存ぜぬの態度を取った。ヴァイオレットは目頭を押さえ、窓に顔を向ける。オフィーリアが淹れた紅茶の残りが入ったポットが、光を受けて輝いている。
「この国は今、とある貴族によって乗っ取られようとしているのですわ」
「どなたですか?」
「スタラミー家と言うの」
オフィーリアは心の中で「やっぱりか」と呟いた。スタラミー家は小鳥イベントのストーリーでのラスボスの家。スカーレットたちが革命を成功させるにあたって、最後に立ちはだかるのが、そのスタラミー家の当主であるジェッタ・スタラミーだ。戦いの間にもイベントはあり、全てのイベントで正規の選択肢を選ぶことで勝つ事ができる。そしてそのスタラミー家に繋がるのが、ヴァイオレットの数少ない友人である、アイシア・ヘンシークス。
「わたくしの友人に、アイシア・ヘンシークスさんというお方がいるのだけれど」
「ヘンシークス家というと……あの、宝石商の」
「ええ。宝石を創り出し操る不思議な力を代々継承してきた伯爵家。そのヘンシークス家のルーツが、ルヴァンス・イーデル・ドマスニカという魔法師」
初めて聞いた。「ゲーム」では「ヘンシークス家の家元である魔法師の男」と説明されていたのを思い出す。オフィーリアはゲームの裏設定を聞くような感覚になり、上がる口角を押さえつける。
「ルヴァンスには二人の娘、ソレイユとセレーネがいたの。ソレイユはヘンシークス家を、セレーネは……スタラミー家を作った」
「……では、ヴァイオレット様が小鳥の事を知ったのは、ヘンシークス様経由だったのですか?」
「ええ、そう。理解が早くて助かるわ。」
つまりは、ヘンシークス家とスタラミー家は親戚ということになる。設定通りの流れに、オフィーリアはここがゲームの世界だと再確認した。
「スタラミー家はこの世でも珍しい、呪いに長けた魔法師たちが生まれる家。その呪いを解けるのは、スカーレットさんだけなの」
「スカーレット様……“だけ”?」
オフィーリアはそこに疑問を持った。スカーレットの使う魔法は普通の人間にも使えるようなものだ。技量だけで言えば、上の人間は沢山いる。違和感を感じた。
「スカーレットさんには、わたくし達が持たない特別な力を持っている。それこそ、普通の魔法師では手に入らない、先天的な力が」
「そうなんですか」
他人事のような返事をしてしまう。スカーレットが魔法の面で特別扱いされた記憶はなかった。
「わたくしがスカーレットさんと出会った時の話です。彼女はわたくしの前に現れた小鳥を、いともたやすく消し去った。わたくしではできなかったことを、簡単にやったのです」
「それは……」
小鳥イベントのことだろう、とは言えなかった。
「そして、スカーレットさんは言ったわ。『あの小鳥、こちらを見ている』とね」
「気づいたのですか?」
「そう。スカーレットさんはわたくしを守ってくれたわ。わたくしたちは友となり、この小鳥について調べて……スタラミー家のことを突き止めた。そして、スタラミー家は……近年、王宮ときな臭いやり取りがあるの」
「……なるほど。スタラミー家を止めるためには、王宮とのコネクションを断ち切る必要がある……クラウン様とヴァイオレット様の王宮にしてしまう、ということですね」
「ええ、その通り。」
ヴァイオレットは満足げに微笑む。勝ち気な笑みが菫色の釣り眼によく合っていた。
「ですがどのように王宮を落とすのですか? 兵力の確保は難しいと思うのですが」
オフィーリアがそう問うと、ヴァイオレットは「それでこそわたくしの側近」とまたも勝ち気な笑みを見せる。
「主に三つ、案があります。まず一つは、民衆を扇動して数で攻める方法。二つ目、アイシアさんを通じて海外から兵力を集める方法」
「どちらも実現は難しいように聞こえますが」
「夢物語のような計画ですわよね。ですが革命とはそういうもの。三つ目、スカーレットさんを通じて、王立魔法士団や騎士団を抱き込み、相手方の戦力を削ぐ方法」
「!」
オフィーリアは思わず腰を浮かせる。ヴァイオレットが訝しげな目線を向けてきたのに気が付き、すぐに姿勢を戻した。
「スカーレットさんはネパラーゼの人脈で、王立魔法士団の隊長二人に気に入られている。……もうおわかりですわよね?」
「王立魔法士団の隊長二人はその圧倒的な強さから団員たちが忠誠を誓っていると聞いています。その二人を取り込めれば、王宮から強い魔法士がいなくなる」
「正解。明日からはその計画を進めますから、覚悟しておくように。馬車馬のように働いてもらいますわよ」
目を細めたその顔の圧に押される。しかし先二つの案よりも圧倒的に現実的なそれに賛同しない理由もなかった。オフィーリアは頷いて、空になったポットを回収して、「おやすみなさいませ」と声をかけて部屋を出る。吹雪がガタガタと窓を叩いていた。
気まぐれに書いているので、短ければ遅くもなります。ごゆるりお付き合いください。




