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プロローグ

 プルルルル。

 玄関を開けると家の中に電話の音が響いていた。

 駿しゅんは学校指定の紺色のバックを投げ捨てるとリビングに駆け込み、赤く点滅する電話機から受話器を取った。

「はい。七尾ななおです」

「あ、シュン。母さんは?」

 電話の相手は沖縄に修学旅行に行っている姉の茜だった。

 四日ぶりに聞く声は明るく弾んでいた。セーラー服がまぶしい日差しに輝いている様子が目に見えるようだった。

「ここにはいないけど、家の中にはいると思うよ」

 付けっぱなしのテレビからはワイドショーが流れていた。

「そう。今空港なんだけどこれから帰るから。帰りは予定通りだって言っといて」

 とすれば夕食は家族そろって食べることになる。この4日間、一人欠けるだけで食卓は随分とさびしいものになっていた。

「分かったよ。ところでお土産は買ってくれた?」

「もう送ったわよ。シュンに似合いそうな銃弾のペンダントね」

 たっぷり三秒は間を開けると、声のトーンを下げてぶっきらぼうに言った。

「それ、安かっただけだろ」

 沖縄から米軍が撤退し、払い下げ品が大量に出回っている。そのおかげで値段は下がっているということだった。

「そんなことないわよ。ちゃんと考えてるんだから」

「あんたみたいに虫も殺せないようじゃ、この先思いやられるでしょ。男の子はちょっとワルに見えるくらいでちょうどいいのよ」

 クスクスと笑いながら話す声は、本気とも冗談とも思えなかった。多分両方なんだろう。

 勝負事が好きでなかった駿はたびたび茜から発破をかけられていた。


 反論を試みるため口を開こうとした瞬間、電話口からテレビでしか聞いたことのない炸裂音が響いた。

「何、事故?」

 駿は炎に包まれた飛行機を想像した。

「分かんない。何か爆発したような音だったけど……」

 電話口からは周囲の人が騒ぎ出す声が漏れている。

 その時、付けっぱなしだったテレビから緊急警報を伝えるチャイムが聞こえてきた。振り返ると画面の下に白いテロップが浮かんでいた。

 そのテロップに書かれている言葉は理解できた。だが駿にはその言葉が意味する事実は理解できなかった。

「沖縄本島地方に弾道ミサイル警報だって」

「え?」

 茜にも理解はできなかったのだろう。彼女は沈黙していた。しかし電話口からはたて続けに響く爆発音とサイレン、そして人々の悲鳴が聞こえていた。

「避難しろって言ってる」

 空港の館内放送だろう。本当に弾道ミサイルが降ってきているなら当然だ。だが一方で何処にという疑問も湧く。

 既にテレビの画面は切り替わり、爆炎につつまれる空港が映っていた。

 駿にはかけるべき言葉が分からなかった。

 何が起きているのか理解できていなかったし、どうすることが適切なのかは、なおの事分からなかったからだ。

「とにかく、避難したら電話して」

 だから必要最小限のことを伝えると茜の声を待った。

「うん。後で」

 少し上ずった声が短く響くと、ピッという電子音とともに通話は切れた。

 リビングに佇む駿にできることは、テレビの画面を見ながらただ姉の無事を祈ることだけだった。

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