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宵越しのコンフレーク

 僕を夢の世界から引きずり出したのは,聞きなれた機械音だった。ピピピピと不快な音が耳から脳みそを突き刺すように入ってくる。そして、頭は、現実世界は目覚ましの鳴る世界ということを思い出す。


「いいところだったのに」


 目覚まし時計を鳴り止ませようと手を机の上に伸ばしながら、ぼそりと呟いた。目覚ましを止める手は、何回かはずれを引いたが、目覚まし時計の音の代わりに、蝉の声大きくが聞こえ始めて、当たりを引いたことを理解した。


 蝉は僕より早起きなんだなとかすかに思いながら、二度寝をしようと考えていた。そもそも、今は夏休みの真っ最中で、早く起きる必要はない。それなのに、なぜ目覚ましに起こされないといけないんだ。学校もないのに。そう、学校もないのに。学校。学校。


 …………登校日じゃないか! 


 危うく夢の続きに向かってしまうところだった。重力に従う手足を少しずつ動かし、カーテンの端からやんわりと出ている太陽の光で目を慣らして、目を少しずつ開いていく。目覚まし時計に目を向けると、時刻は7時1分になろうとしていた。


 ベットからゆっくりと立ち上がり、カーテンを開いた。すると、せっかく開けた目をもう一度閉じてしまう程のまばゆい朝日が部屋の中に入ってきた。八月の朝日はいつもより眩しい気がする。


 やはり、太陽と地球の距離が近いからであろうか。それとも、日の出が早いからであろうか。そのどちらの影響もあるかもしれない。まあ、どうでもよいことだ。と思いながら、大きなあくびをした。パジャマを制服に着替えて、朝食が用意されているであろう一階に向かった。


「コーンフレークできてるわよ。」


 そういうと、エプロンを身に着けた姉は一仕事終えた顔で、牛乳がすでにかけられたコーンフレークを指さした。


「五秒で作れるもんにエプロンを使うな。」


「違うのだなあ、弟くん。お姉ちゃんが弟のために早起きして、朝食を作るのですぞ。このシチュエーションにぴったりな服装はエプロンしかないでしょうが。


 それにこのエプロンは猫の刺繍のついた手作りエプロン。つまり、手作りという点で家庭的でしっかり者の雰囲気を出しながら、猫を刺繍で入れることで幼くて可愛い雰囲気も出していく。我ながら完璧な女の子ね。」


「そのエプロン作ったの僕だし、あんたのつけた福笑いみたいな猫は可愛くないどころかちょっと怖いまであるぞ。」


 このエプロンは家庭科の時間に作ったもので、先生に犬の刺繍がとてもうまくできていると褒められた。だが、このエプロンを自慢しようと姉に見せると、もっと可愛くしてあげると言って、自分の犬の刺繍の上に鼻と口の間に目がある怪物の刺繍をされたのだった。


「ひどーい。せっかく作ったコーンフレーク食べさせてあげないわよ。」

「コーンフレークなら自分で作るし、牛乳かけて時間経ったコーンフレークふやけて嫌いなんだよ。」

「ふやけたコーンフレークがいいんじゃない。飲み物みたいに食べられて、牛乳も甘くなって美味しいわよ。実際このコーンフレークも昨日から浸しているのよ。」


「コーンフレークが夜を超すな。夜を超していい料理はカレーだけ。」

「じゃあ、いいわよ。勝手に作って食べれば。」


 そう言って、姉は両手でスプーンを持って、二つのコーンフレークを交互に食べていた。この幼稚な思考回路でも立派な大学生である。学業の方はとても優秀らしい。逆に、こういうことをする人間ほど頭がいいのかもしれないな。


 そう思いながら、コーンフレークの袋を開けてみると、中には何も入っていなかった。


「コーンフレークは?」

「ん、これで最後だけど。」


 中身のないもん捨てとけよと怒号を浴びせようかと口を大きく開けたが、めんどくさそうなのでゆっくりと口を閉じた。


「確か、食パン残っていたから焼いて食べたら」


 両手にスプーンを持ちながら、アホな行動のまま言われるとなんか腹が立つが、その提案に乗ることにした。


 食パンは確かに一枚残っていた。他の一品を作る時間もないので、食パン一枚を朝食にすることにした。食パンをオーブントースターに入れて、マーガリンを冷蔵庫から取り出した。食パンの袋を捨てて、皿とバターナイフを用意する。


 用意が終わると、トーストをオーブンから取り出し、皿に乗せた。そのトーストの乗った皿とバターナイフを乗せたマーガリンをリビングの机に持っていった。バターナイフを使って、マーガリンを薄くトーストに塗った。


「そんな薄く塗ったら、マーガリンの味しないでしょう?もっと塗りな。」

「これ以上塗ったら、パン食ってんのか、マーガリン食ってんのか分かんなくなるだろうが。」

「パンはマーガリン食べるものでしょう?」


 やはり、姉と話していると、姉弟とは思えない程、価値観が違う。これ以上話し合っても、不毛だなと思ったので、黙って食パンをかじった。


 こんな人間とは、家族じゃなきゃ、関わりたくねえな。

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