あくる日を、君と
ピッピッピッピッピッピッ
いつもの目覚まし時計のような機械音だった。自然とその音を止めようと、目を開けずに手をいつも目覚まし時計のある所に置こうとする。すると、鉄のようなものに手がかかった。僕はおかしいなと思いながら、重いまぶたをゆっくりと開けて、手に当たったものを確認しようとした。
目を開けると、見覚えのない明るく白い天井が見えた。そして、僕が目覚ましだと思って止めようとしたものは、テレビのようなものに、波のようなものと数字が映し出されている。そして、体中を見てみると、浴衣のような服の中に線や管が多く入り込んでいる。
僕はその線や管を取り外そうとして、服をずらしてみると、僕の体には左半身全体に渡る大きな傷の跡があった。
「まさか……。」
「そのまさかよ。」
その声のする方に振り向いた。すると、隣のベットに腰かける明日希がいた。明日希も同じように浴衣のような服に、線や管を貼り付けていた。
「先に起きた私が今の状況を説明してあげる。
私達はあのマンションの屋上から飛び降りた。あの高さから飛び降りたのならば、即死でしょう。
でもね。私たちは屋上から落ちて、どういうわけか五階のベランダに叩きつけられたの。
その時の風だったり、落ちる場所だったりが上手くいって、偶然そうなったらしいわね。だから、私たちはすぐ死ぬことはなかった。それでも病院に運ばれてから、しばらく意識を失っていた。
そのしばらくって言うのは、大体一日。」
「じゃあ、今は明日ってことなのか。」
「そう、もう繰り返す今日は明けたの。今日は明日。私たちが追い求めた明日なの。」
明日希は目から一筋の涙を流した。僕はまだ繰り返しを超えた実感を感じることができなかった。でも、体は痛むから夢ではないし、病室に置かれた電子時計には、八月三日の数字が表示されている。だんだんと僕たちは繰り返しの一日を抜け出したのだと実感するようになった。
「なぜ、私たちが明日を迎えることができたかは分からない。私達二人ともが自殺したからかもしれない、神様の気まぐれだったのかもしれない。でも、永遠に開かれることがないと思っていた時間の鳥籠から私たちは逃げ出すことができた。
……もう、自由に生きていいのよね?」
明日希はぼろぼろと大粒の涙を落としながら、僕に聞いてきた。
「明日希は覚えていないだろうが、君は僕に生きることは無意味だって言ったんだ。僕はその言葉を心から否定することができなかった。
でも、今ならきっとこう言える。
僕たちの送っている日常は、どうしようもなくて、意味がないかもしれない。でも、そんなどうしようもなく、意味のない日常を生きることに意味があるんだ。
だから、生きよう。この幸せな日常を。」
そう言うと、病室の窓の外から雲に隠れていた朝日の明るい光が差し込んできた。その光は僕たちの明るい未来を照らしているようだった。