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魔王が正体を隠して勇者パーティに入ることにした話

作者: 李都



 ――魔王は恐ろしい存在だ。

 数多の魔物を従えて、人間を支配しようと企んでいる。

 だから魔王の森に近付いてはいけないよ。魔王の傀儡にされてしまうからね。



 そんな言い伝えが、とある世界には残っている。








(や、別にそんなことしないけどさ)


 脚色されすぎでしょなんて笑いながら、魔王は真昼間から王都にある冒険者ギルドに居座っていた。


 けれど、魔王が堂々と王都に来ているからと言って、誰も魔王がいると騒いだりはしない。魔王は今、ただの十五、六歳ほどの少女という設定なのである。黒髪で黒い瞳を持つ人間は少々珍しいらしく、控えめに視線を送られてはくるが、本当にそれだけだ。


 魔王はそれを全く気にしていないけれど。ちょっと居心地が悪いな、とは思っていたりする。


 けれど、そんな好奇の目に晒されてまで、魔王がわざわざ街……もとい冒険者ギルドに来たのには、少々複雑な理由がある。


(さあて! ボクを倒す予定の人たちは、一体どんな人間なのかな〜?)


 ――訂正。とても単純な理由だった。


(できればパーティに入りたいんだよねえ。一人だと色々不便だし……)


 予定では、あと十分ほどで魔王討伐の依頼が張り出されるはずだ。

 どんな人が、何人受けても良いとされる超高難易度の討伐依頼。国は、世界は、そうまでして世界の脅威を消し去りたいらしい。


 それを知っても魔王は、少なくとも恨みも憎しみも持っていないし、むしろ『まあそうだよね』くらいの気持ちでいる。


 だからと言って、殺される相手が誰でもいいのかと言えばそうではなくて。殺してもらう相手くらい選ばせてくれたっていいじゃんという軽いノリで、魔王は冒険者ギルドに来ていた。


 要するに、魔王は殺してもらう相手を決めに来たのである。

 何事もなければ、最初に選んで入ったパーティに殺してもらうつもりでいるのだ。


(楽しみだなあ)


 今にも鼻歌を歌い出しそうになった時、時間が来た。


「皆様! お待たせ致しました! 只今より魔王討伐依頼の受注を受け付けます!!」


 時計を見れば、短い針と長い針がピッタリ十二を指していた。

 カウンターに人がどっと押し寄せる。パーティで来た人もいれば、一人の人も、その場でパーティを募っている人もいて、魔王は誰について行こうか悩んでいた。

 無駄に広いギルドに、それでも入り切らなかった人たちが、外にまで溢れ返っている。


(……おや?)


 何気なく。本当に何気なく、窓の外を見た時。三人の人間が目に入った。


 一人目は、細い剣を携えた、おそらく前衛の青年。魔力はそれほど多くないけれど、潜在能力は恐ろしく高い。今はまだ弱かったとしても、磨けばそれほど時を待たずしてその力を発揮するだろう。


 二人目は、ガタイの良い、タンクの役割を果たすだろう壮年の男性。三十も後半に差し掛かったであろう彼は、もう既に熟練者なのだろう。相当強いのではないだろうか。きっと、この場に集まった人間の、誰よりも。


 最後の人間は、二十代くらいの女性だった。杖の魔力と本人の魔力の性質からして、回復魔術師だと当たりをつける。彼女も、今はそれほど魔力を所有していないし、実力も高くはなさそうだ。けれど、彼女もまた磨けば光る逸材であると、魔王には分かる。だって、潜在魔力が物凄いんだもの。


 そしてその三人は偶然が必然か、近くに寄って声をかけあっている。きっとパーティを組むのだろう。


(へえ)


 自分の口角が、自然と上がった気がした。


 彼らがやっとギルドの中に入れた頃、魔王は動いた。



「あの、すみません」



 にっこりと、無害そうな笑顔を引っ提げて。



「よろしければ、ボクもパーティに入れてくださいませんか?」



 けれど溢れ出る自信を絶やさずに。



「ボクはリオン。召喚術師です。きっとお役に立ちますよ」






 ――これは、魔王が正体を隠して勇者パーティに入ることにした話である。


面白ければ、下のお星様をタップしていただけると嬉しみの極みです。

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