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海辺シリーズ

海辺の街

作者: 沢木 えりか

この小説は「海辺の街」シリーズの完結編です。申し訳ありませんが、初めての方は第一弾『カレーライス』からお読み下さい。

 僕が小説家としてデビューすることを、父は認めなかった。

 僕に本を教えてくれたのは父自身であるが、どうやらそれは教育の一環としてのものだったらしい。

 街に一つしかないピアノ教室から、父が好んで弾いていた曲が流れていた。

「晴くんおまたせー!」

 学校の帰り道、香ちゃんに会った。また玲さんと喧嘩したらしい。年の若い玲さんと思春期の香ちゃんが喧嘩するのは、結構しょっちゅうだった。

 香ちゃんは僕が帰るのを待ちきれずに、家を飛び出してきたようだ。僕の部屋に来るつもりだが、今日はピアノ教室のレッスン日なので付き合って欲しいと言われ、ついて来た。

「あの、どうだった?」

「上手だ。でも、第十四小節のトリルが苦手みたいだね」

 僕もピアノは大好きだった。父が多趣味な人だったから、その影響で僕も多趣味になったのだ。沢山あった趣味は、家を出てからは小説しか続けていない。

「えっ……晴くんあの曲知ってるんだ?」

「まあね」

 香ちゃんの目が輝く。次の瞬間には、僕が香ちゃんの家に行くことは決定していた。

「ただいまー!」

「こ、こんにちは」

「あらあ、晴くん!」

 玲さんは、今日は香ちゃんが帰って来ないと思っていたらしく、慌てて買い物に行ってしまった。

 僕はと言うと、香ちゃんに手を引かれてピアノが置いてある部屋に連れて行かれてしまった。

 そう言えば、僕は香ちゃんのピアノを聴いたことがない。練習はいつしているのだろうと疑問に思ったが、香ちゃんによるとちょうど高校生が学校から帰っている時間帯に練習していたらしい。

 ピアノが置いてある部屋は、僕の部屋と同じ造りのはずなのに違って見えた。

「ここなんだよー」

 香ちゃんは、少し口を尖らせ、紅の差した頬を膨らませて、楽譜をつつく。数ヶ月間で少し大人っぽくなった気がした。

「このトリルはコツがあるんだ」

 鍵盤に触れるのは久しぶりで、少し指が震えた。弾き終わると、香ちゃんが尊敬の目で僕を見ていた。

「晴くんて実は凄い人!?」

 今までどんな人だと思っていたのだろう。そう言いたくなる物言いだ。僕は声を出して笑っていた。

「くくっ」

「わっ」

「どうしたの?」

 香ちゃんが凄く驚いたから、僕も驚いた。何か変なことでもしてしまったのだろうか。そう思ったのは一瞬で、次の瞬間には僕は、拍子抜けした。

「晴くんが笑ったあ……」

 香ちゃんは頬を上気させて見つめてくる。僕は急に、香ちゃんが来年には高校生になることを思い出した。何だか微妙な雰囲気だ。

「晴くーん、香ー! ただいまぁ!」

「玲さん、手伝いますよ」

「私もー!」

 玲さんの声で意識が戻って来る。僕は、妙に悪いことをしたような気がして、慌てて玲さんの元へ走っていった。

「今日はピーマンの白和えと、タコと玉ねぎのカルパッチョです」

「わーいっ」

「楽しみだね」

 どちらも僕の好物だった。

 東京の編集部からエッセーの依頼が来たのは、一ヶ月前だ。連載が好評だったために、コラムとして毎回エッセーを書いて欲しいとのことだった。

「あの……八坂さん。僕が小説以外は全くダメなの知ってますよね?」

 編集担当の八坂さんは、赤いスーツやブランド品の似合う、強気な女性だ。彼女は当然のことのようにこう言った。

『世間があなたのエッセーを求めているのよ。書けない訳ないじゃない』

「でも」

『あら、今回実験的に書いた“温かい話”の連載だって今の所好評よ』

「ですが」

『あなた、これから一年本出せなくてもいいの?』

「ごめんなさい」

 依頼を受けるしかなかった。僕は、理由あって生活費を出版した本の印税で賄っている。

「エッセーってだいたい何なんだ?」

 執筆の際に常備している広辞苑を開くと、次のように書いてあった。

 エッセー【essay】とは、随筆。自由な形式で書かれた、思索性をもつ散文。試論。小論。(広辞苑より)

「……」

 本来、小説家は自作品の構成や執筆に忙しく、エッセーなんかはアルバイト的な感覚で書いていると言う評論を読んだことがある。

 僕には関係ないことだと思っていたが、実際にエッセーを書くとなると僕だってそうだった。二週間で小説の原稿を仕上げた僕は、次の連載まであと二週間でエッセーの原稿を仕上げなくてはならなかった。

「晴くん元気?」

 どうやらまた完徹してしまったらしい。目が覚めると、僕の部屋のはずなのに、香ちゃんが顔を覗き込む様にして立っていた。

 そう言えば玲さんはアパートに住ながら管理もしていたっけ、何てぼんやりと頭に浮かぶ。

「も、無理っぽい」

「晴くん、とても高校生には見えないよ。珍しいね、行き詰まってない?」

 香ちゃんが見ているのは真っ白のエッセーの原稿だった。タイトルだけ『冷血人間ナキザワハルのエッセー』と書き込んである。

「エッセー?」

「うん。なんか編集部から依頼があって……断ったんだけど。連載作品のコラム的に書いて欲しいらしいんだ」

「あっ。この前の雑誌の連載でしょ。読んだよ。凄く良かった!」

 机の上で携帯のバイブレータが鳴る。里山からだった。

『お前また学校サボったろ! あと、連載俺は好きだぞ。里山』

 ナキザワハルの新連載は、これまでの作風とは大幅に違っていたので、ワイドショーなどでも色んな意味で話題になった。具体的に言うならば、編集部の作戦であるとか、ナキザワハルに恋人ができたのではないかとか、そう言うことだ。

 里山は多分、そのことが言いたいんだろう。

「誰から?」

「里山……友達」

 香ちゃんが携帯を覗き込む。僕は返事を打った。

『仕事がたまってるんだ』

 送信。何だか久しぶりに返信できた気がする。

「ねえ、晴くん。香は思いつきました」

 香ちゃんはピシッと背筋を伸ばした。いつかの日本兵が余程気に入ったらしい。

 彼女のそのような仕草は笑いを誘うのだが、香ちゃんが一体何を思いついたのかが気になり、何だか僕は複雑な表情になってしまった。

「エッセーの内容だよ!」

 またまた拍子抜けだ。何を言い出すかと思えば、エッセーのことについて、真剣に考えてくれていたらしい。

「うん。それで?」

「はい、先生。私は先生の一ファンとして、この間の連載を読んで、先生の素顔が知りたくなりました」

 香ちゃんは、更に背筋を伸ばし、一度深呼吸をしたあと、優しい笑顔でこう言った。

「先生……晴くんの日常で良いんじゃないかな。どういう経緯で連載作品を思いつくに至ったのかとか、いつもどんなことを考えて生きているのかとか」

 香ちゃんはそこでまた、言葉を切った。僕は無言で先を促す。

「晴くんの、過去のこととか」

 僕は、その瞬間なぜか心拍数が上がるのを感じた。正直これまでになく、焦っていた。

 なぜか、香ちゃんと目を合わせることができなかった。僕の気持ちを汲み取られそうで、怖かった。

「僕の日常は採用」

「えっ」

 まだ何か言いそうな香ちゃんの言葉を遮るように言葉を投げつける。

「さ、僕は忙しいから帰って」

 今まで、どんなに忙しくても香ちゃんを追い出すことはなかった。

「でも……」

「黙って来たんだろ。玲さんが心配する」

 つい、キツい言い方をしてしまう。そんな自分に僕自身がビックリしたが、香ちゃんはショックだったらしい。無言で出て行ってしまった。

「何、やってるんだろうな。僕」

 机の上では、携帯に里山からのメールが届いたらしく、バイブレータが鳴っていたが、僕は酷く煩く感じて、気づけば叩き付けるようにして携帯の電源を切っていた。

 山と山の間にあるこの街は、ちょうど真ん中が一番低く、左右対称に段々高くなっている。

 僕は、もう生活の一部となっている例の古本屋へ向かっていた。

 古本屋へ行く途中には、必ずあのポストがある場所を通らなくてはならない。

 いつもは人っ子一人いないその場所に、二人の中学生の姿があるのを坂の下からでも確認できた。 どうやら、香ちゃんの通う海辺中学の生徒らしい。僕は、あれ以来会えていない可憐な少女のことを思い出し、もどかしくなった。

 ポストに近づくにつれて、中学生達の声が聞こえてくる。僕は瞬時に、中学生の一人が、香ちゃんであるとわかった。

 この前のことが思い起こされ、僕は何だか決まり悪く感じた。

 僕はとりあえず、二人の邪魔はしないように、そそくさと古本屋への階段を上った。

 ところが、古本屋への階段を上っている間、香ちゃんのことがずっと頭から離れない。確かに、たまたまとは言え、あの場所に香ちゃんがいるのは驚いた。

 だが香ちゃんのことが頭から離れないのはは、何か別の理由がある気がしていた。

 香ちゃんは、あれ以来僕の部屋に来ることはなかった。僕のエッセーは、あまり反響はなかったけれど、一部のコアなファンには受けが良かったらしい。

 次の連載の原稿の期限が一ヶ月後に迫っていた。

 学校帰り、前に約束していた里山の用事に付き合うことになった。

「どこに行くんだ?」

「じいちゃんち」

 どうやら里山の祖父は店を経営しているらしく、里山もたまに手伝いに行っているらしい。

「で、それを僕にも手伝わせようと」

「まーな」

 里山は綺麗に揃った白い歯を見せて笑った。

 しぶしぶ里山について歩いていくと、どうやらあのポストがある場所に向かっているみたいだ。

 ここから行けるのは、香ちゃんが通う海辺中学か、僕の行き着けである古本屋だけだ。

「里山……お前のおじいさんってもしかして」

 古本屋の店主の顔が浮かぶ。ところが、里山からは意外な答えが返って来た。

「ナキザワハルの大ファンだぞ」

「なっ」

 里山が指差していたのは、やはりあの古本屋だった。

 今更だけど、ここの常連客であることを伝えた方が良いだろう。

「あのさ、僕ここ……」

「常連客なんだろ?」

「知ってたのか」

 どうやら里山は彼の祖父から熱心な常連客がいると聞いていたらしい。あるとき里山が僕の話をすると、里山の祖父が容姿などの特徴から常連客と同一人物ではないかと気付いたと言う。

「しっかしすげーよな。じいちゃんが好きな作家が店の常連客で、しかも俺の友達だなんてさ!」

「ちょっと、普通じゃ考えられないね」

 僕は素直にそう思ったのだが、里山によると高校生がこんな所で普通に売れっ子作家をしている方が余程普通じゃないらしい。確かにそうかもしれないな、と自分のことながら思った。

 店に入ると、いつものように店主が座っていた。今日は新聞を読んでいない。

「じいちゃん! ほら、梛木沢連れてきたぞ」

「こんにちは」

 里山の祖父は老眼鏡を外し、僕を手招きする。

「いやあ、確かにアンタはいつもの学生さんだね」

「いつもお世話になってます」

 僕は軽く頭を下げた。里山の祖父からも僕は印税をもらって生活しているのだと思うと、何だか申し訳なくなった。

 顔を上げると、里山の祖父が握手を求めてきた。店に来る途中に、この店主が僕の作品の大ファンだと聞かされたことを思い出して、ちょっと照れくさくなる。

 職業上、身近に読者がいるかもしれないことを考えたことはあったが、こうしてお世話になっている店の店主がそうだとは夢にも思ってなかった。

「サインをもらえるかね?」

「はい……」

 渡されたサインペンを慣れた手つきで操る。サイン色紙の代わりに渡されたのは僕のデビュー作だった。

「この前の連載だが」

 里山の祖父は僕のサインを満足気に見つめると、徐に口を開いた。

「は、はい」

 あの作品は、僕としては初ジャンルだったために、感想を聞くのが少し怖かった。

「なかなか良かったぞ。あのエッセーも」

「ありがとうございます」

「だが」

 ホッとしたのも束の間に、里山の祖父はこう言った。

「あのエッセー、一般読者が求めてるのはお前の過去のこととかじゃないのか?」

「そんなの」

 心臓が一瞬止まった。そのくらい、僕が再び息をするまでに時間がかかった。

「そんなのムリなんだ!」

 脳裏には笑顔の香ちゃんがいた。

 僕の部屋を出て行く前の寂しそうな顔。日本兵の真似をして、背筋を伸ばした姿。玲さんと喧嘩したときの、いじけた顔。笑顔。カレーライスの匂いがした。

「里山のおじいさん。僕の前回のエッセー読んで下さっているなら、香ちゃんのことは知ってますよね」

 今回、実験的に温かいものを書いたのも、もとはと言えば香ちゃんに読んで欲しかったからだ。僕は彼女を近所の中学生“コウちゃん”としてエッセーに登場させていた。

「彼女には……僕は自分の一番情けない部分を見せたくないんですよ」

 気が付けば僕は、香ちゃんにも話したことのない、僕の家族のことを洗いざらい話していた。

「僕は、ひとりっ子で母は僕を産むときに亡くなったそうです。だから、父が一人で僕を育ててくれました。父は色んな趣味があって、本を教えてくれたのも父です。でも、僕はそれでは物足りなくて、いつの頃からか自ら物語を書き出した。そして、十六歳のときに、やはり小説好きの叔父が僕の作品をたまたま見つけて、勝手にあの賞に応募したんです。僕は叔父を怒ったけれど、内心嬉しかった。でも、父は僕が小説家としてデビューするのを許さなかった。でも僕はどうしても小説家になりたくて、家を出て叔父の家に居候しました。デビューしてからは兎に角忙しくて、全く父と連絡を取っていませんでした。そしたら、去年の冬に病院から連絡があって……行ってみたらもう父は危篤状態で。ちょうど僕が家を出た後に癌が発覚したそうです。僕はなぜ知らせなかったのかと叔父を責めました。すると、叔父は僕の父に、僕の仕事の邪魔になるから言うなと言われていて……。僕は父の延命は望まなかった。でもそれは僕が父を殺したような……気がして」

 涙が溢れてきた。この街に来てから、ずっと考えていたことだった。

「僕は冷たい人間だ。父を見放した。忘れようとして海が見えるこの街に来たけれど、海と自分のギャップに毎日苦しくて、僕はもがいているばかりのかっこ悪い人間です」

 里山と里山の祖父は黙って聞いていた。

「お前さん、苦労してんだなあ」

 里山の祖父は僕の背中を叩いてこう言った。

「確かにそりゃ、おんなこには言えねぇはな」

 店を出るときに、看板に“里山書房”と書いてあることに気付いた。なぜ今まで気に止めなかったのかが不思議に思えた。笑いがこみ上げてくる。

「くくっ」

「あっ」

 里山が驚いたような顔をした。

「お前、笑うんだな」

 僕は前に香ちゃんが同じ様なことを言ったことを思い出した。

「じいちゃんはああ言ったけどよ」

 帰り道、あのポストの場所にしばらくいると言ったら、里山が口を開いた。

「あの子に感謝してんだろ? だったら、どうすりゃいいのかお前、わかってるはずたぜ」

「ありがとう」

 それでも、決心するのに時間がかかった。僕が家に帰ったのはもう深夜だった。

 部屋に入ると、恐い顔の玲さんが仁王立ちしていた。

「おっそい!」

 その姿は、まるで般若のようで僕はちょっと腰が引けた。

「……ごめんなさい」

「カレー作っておいたから。これなら、完徹でも温めなおして食べれるでしょ」

 僕のことを考えてくれたと思うと、感謝の気持ちが溢れた。

「ありがとう」

「例ならあの子に言ってあげて」

「あっ」

 カレーを見たら一目でわかった。これは玲さんじゃなくて香ちゃんが作ったんだ。

 玲さんのカレーには必ずヤングコーンが入っていたが、香ちゃんはそれを嫌っていた。

「全く、内緒にしてって言われたんだけど、これじゃあすぐ香が作ったってわかるでしょ? あれであの子も一生懸命なのよ。何があったか知らないけど、食べてあげてね」

「はい……」

 玲さんは後ろ手に手をふって出て行ってしまった。

 僕は小説の原稿を仕上げ、エッセーの原稿に入った。一字一字、香ちゃんに謝りたくて、その想いがこもった。

 徹夜は三日に及んだが、玲さんに言われた通りカレーを温めなおして食べても全く飽きなかった。

「できた……」

 僕はできた原稿を早々と茶封筒に詰め、コンビニへ走った。原稿のコピーをするのは初めてだった。

 朝日が登り、あの場所からは海が輝いて見える。海辺中学の生徒達が通学する時間だ。僕は香ちゃんを待った。

「……晴くん」

 香ちゃんは僕を見るなり、立ち止まった。僕はゆっくりと彼女に近づく。

「この前はごめん。取り乱して」

 香ちゃんは黙って頭を振った。

「これ、僕の気持ち。こんなんで許して貰えるかわかんないけど、これ読んで僕のこと軽蔑しなかったら、また僕の部屋に来て欲しい」

 香ちゃんは黙って原稿を受け取った。僕はそのまま、学校へ向かった。

「それでお前、結局あの子には謝ったのか?」

「原稿渡しといた」

 里山は心配してくれていたらしい。僕はありがとうと言っておいた。

 僕が通う海辺高校は、海辺中学とは反対側にある。僕が学校から出ると門の前に香ちゃんがいた。

「香ちゃん」

「あの……!」

 香ちゃんは僕と目が合うと、駆け寄ってきた。胸には僕が今朝渡した茶封筒が抱かれている。

 里山が手をあげて去っていくのが見えた。彼なりに気を効かせたらしい。

「会いに来てくれたんだ」

 僕はそれだけでもう十分だった。いつの間にか、この年下のはずの彼女が心の支えであったことは言うまでもない。

 香ちゃんは涙ぐんでいた。

「私、ごめん! 晴くんのこと何もわかってなかったよね! なのに……辛い思い出を書かせちゃって……!」

「かっこ悪いだろ」

 僕は実を言うと、父のことは原稿を仕上げた時点でもう吹っ切れていた。

「かっこ悪くないよ。全然……かっこ悪くない」

「……」

 それでも、香ちゃんにそう言ってもらえただけで救われるような気がした。

「だから、会わないとかない。私、晴くんといると楽しいの。玲ちゃんと喧嘩してても素直に謝れるの」

「香ちゃん……」

 いつの頃からか、僕の小説の原点は香ちゃんだった。彼女は広くて深くて穏やかで、海のような人間だ。

「ありがとう」

 そう思った途端に僕の心臓が僅かに規則を乱した。

 僕がそれを恋であると自覚したのは、僕の連載作品が書籍化されてとある有名な賞を取り、彼女がちょうど高校を卒業する頃であった。

長かった梛木沢との付き合いもこれにて終了です。お疲れさまでした!

さて、いかがでしたでしょうか。僕的にもかなりやりきった感がある作品になりました。

今回執筆するにあたり、作品の雰囲気を崩さないように、崩さないようにと気にかけて、かなり魂を削りました。やっぱり作者としては香ちゃんがヒロインなので、恋愛要素を盛り込みたかったのですが、作品の雰囲気を崩さないためにああいった形になりました。さて、ここからは結局作中に出さなかった細かい設定云々を書いていこうと思います。

まず、主人公いがいの登場人物の本名について。結局、主人公梛木沢いがいフルネームが出てこなかったこの作品。

香ちゃん:三間坂香姫【みまさかこうき】

玲さん:【みまさかあきら】(あれ、たしかこんな芸能人いたような)

里山:里山圭一【さとやまけいいち】

八坂さん:八坂まなみ【やさかまなみ】

里山の祖父:里山生弥【さとやまいきや】

とまあ、一応こんな感じのフルネームがついておりました。

梛木沢たちが暮らす海辺の街のモデルは、ちょっと外国になってしまうのですがクロアチアのドフロブニクと言う世界遺産と、長崎の坂が多いのを混ぜた感じ。どちらも海に面しています。

でも、僕は海が苦手です。理由は思い当たらないのですが、梛木沢が海を眺めるのとにているきがします。

まだまだ語りたいことはありますが、長すぎてもなんですので僕はこれにて失礼したく思います。

最後までお付き合いいただき本当に梛木沢も僕もあなたに感謝しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。見事に簡潔しましたね。読んでいて違和感を全く感じませんでした。構文も内容もです。個人的にはどこかの賞に応募したらどうかと思っています。何しろ、前回申し上げた通り、日進月歩なのです…
[一言] 失礼いたします。 きれいなお話ですね。 細かい気配りのされた作品だと思いました。 楽しく読ませていただきました。 ありがとうございます。 それでは失礼いたしました。
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