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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第1章 「波瀾の入学式」
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第1章5話   「風呂場の戦慄」

 ――夜。

 やっとバスから降りることが出来、一同は深呼吸をする。

 

 「ふう、やっと着いたぞ。ここから少し行けば俺の家だ」

 「楽しみだなぁ」

 

 俺と明理と凛音は俺の自宅へと向かって歩く。

 ひんやりとした空気が、俺をより一層不安にさせる。

 

 ――明理と凛音が死んでしまえば、元も子もない。

 

 俺にとって明理と凛音は、唯一の親友だ。

 幼馴染と両親を惨殺された俺にとっての、かけがえのない大切な存在。

 

 「――絶対に、失いたくはない」

 

 俺は両隣をそれぞれ歩く二人を見て言う。

 二人は楽しそうに、俺を挟んで会話をしている。

 嬉笑きしょうして、声高こわだかに話している。

 その光景を、ずっと見ていたい。

 しばらく歩き、やっとのことで俺の家へと到着した。

 

 「ここが俺の家だ。凛音の屋敷に比べるとかなり小さいが、気にしないでくれ」

 「いや、十分広いよ……」

 

 明理が俺の家を見て呟く。

 そして家の鍵を開けて全員は靴を脱ぐ。そしてリビングへと上がった。

 

 「断然、私の屋敷並に広いですよ……」

 

 凛音は家中を見てそう言った。

 そうして二人はリビングにあるソファに座る。

 

 「ちゃんと処理してくれてるな……」

 

 俺はリビングの壁と、机を見て言う。

 何ということでしょう! 血塗ちまみれだった壁は純白じゅんぱくに輝き、机は鮮麗せんれいな木材が光を取り戻しています!

 という様な茶番はさておき。

 見慣れた俺の部屋。

 ラノベだらけの本棚に、適当に並べられたその他の家具の数々。

 ベッドの周りに机と、ミニテーブルが置いてあり、その上には勉強用具とアニメキャラクターのフィギュアでいっぱいだ。

 

 「ここが紅君の部屋なんだ……えいっ!」

 

 後ろで明理がつぶやいた途端、彼女は俺のベッドに飛び込んだ。

 

 「何してんだよ」

 

 俺は明理の頭に軽くチョップをお見舞いする。

 ごめん、と頭に手を置いて明理は謝る。

 よし。可愛いから許そう。

 

 「へえ、紅さんの部屋ってこんな感じなんですか……」

 「むむ、もしかして俺の部屋が変なのか?」

 「え、いや、ちが……」

 「そんなに変か? 俺の部屋は一般男子諸君らの内装に近いと思うんだが……もしかして家具をうまく設置出来てないのか? そりゃ適当に並べてしまったからそうかもしれないな。それとも家具が少ないのか、逆に多すぎるのか。もしや部屋が狭すぎて部屋が荷物いっぱいに見えて部屋が汚く感じられたのか? 俺的には間取りをちゃんと把握して家具を設置したつもりだったのだが……もしかして俺の嗜好しこうが変なのか? ラノベが好きなこととアニメのキャラクターが置いてあることに関しては問題ないと思うが、フィギュアのセンスが悪いのか? ラノベの並べ方が変か? 綺麗に見えない並べ方だったのか? もしや、凛音の好みにそぐわない形の部屋だったのか? 原因は何だ? 今のところはわからないな……」

 

 考えに考え、俺は饒舌じょうぜつに述べる。

 

 「いやいや、違いますよ。私はただ、紅さんの部屋が綺麗だったから正直驚いたんですよ。普通の男子は投げやりで、掃除はほとんどしないと思っていたのでしたが……紅さんはきちんと整頓出来ていて凄いなーって感心したんですよ」

 「そうだったのか。勘違いしてすまない。俺としたことが、ついつい本気になってしまった」

 

 俺は謝辞と感謝を込めて凛音に言う。

 凛音はにこにこと微笑みながら、ラノベの並べられた棚を見ている。

 すると後ろから、つんつんと明理の指が俺の肩を小突いたのに気付いた。

 後ろで明理と目が合い、俺に明理は微笑を返す。

 

 「お風呂って、入ってきていいかな?」

 「風呂か……ああ、入っていいぞ。でも入浴時は無防備だから、一応気を付けておくんだぞ」

 「うん、わかった。じゃあ入ってくるね」

 

 スキップをしながら明理は部屋を出ていった。

 俺は少し不安に思いながら見送った。そしてラノベ棚を見つめている凛音を見やる。

 

 「凄いですね……一体何冊持っているんですか?」

 「百冊は中学生の時に越えたし、自分でも詳しくはわからないが、屹度五百冊くらいだろ」

 「ご、五百!?」

 

 凛音は驚いて大声を出す。

 

 「ところで、凛音はラノベ、何が好きなんだ? 因みに俺は『堕天使の憐憫』だ」

 「私はあまり文庫本を読まないのですが……紅さんが好きなものは私も気になります。読ませてください!」

 「そうだな。あれは面白いぞ。俺は一発で嵌ったな。読んでいいぞ」

 「はい!」

 

 凛音は嬉笑を浮かべて、『堕天使の憐憫』を手に取る。

 面白そうにページを読み進めていく凛音。

 俺はただ、呆然と凛音の横顔を眺めていた。

 

 ――何だかずっと見ていられる光景だな。

 

 いつもは凛々しい彼女のその口元が、今はほころんでいる。

 俺は思わず見惚れてしまいそうだった。

 朝が弱いという点に続き、本当に可愛い一面もあるんだな。

 あ、そういえば、俺の買った高級シャンプーは?

 風呂に置いてたな。

 

 「げっ! 俺の高級シャンプー使われてないかな? ちょっと見てくる」

 

 凛音にそう言って俺は風呂場へと向かう。

 閉ざされた風呂場の扉をノックし、俺は呼びかける。

 

 「おーい。明理、ちょっといいか?」

 

 するとすぐに扉が開き、裸の明理が現れた。

 

 「どうしたの紅君?」

 「お前には羞恥心しゅうちしんがあるのかないのか、わからないな……」

 「羞恥心? ああ、私混浴とかでも全然気にしないからいいよ。まだ私はお風呂に入ってるけど、紅君も一緒に入るの?」

 「いや、俺専用の高級シャンプーを間違えて明理が使ってないか確認しに来ただけだ。ていうか、そもそも出逢って二日目のお前と風呂になんて入る気にはならない」

 「ああ、これね……ごめん、使っちゃった」

 

 あはは、と苦笑する明理。

 

 「まったく。まあ、もう使ってしまったのならしょうがない。俺が先に注意してなかったしな。じゃあ」

 

 俺は風呂場から去ろうと、背を向けた。

 

 「待って!」

 

 俺は明理に手を掴まれた。

 明理は俺を見ながら赤面している。

 

 「何だよ、俺は女子と入るのは趣味じゃないからやめておくぞ……」

 「お願い。一緒に入ろうよ、ね? いいでしょ。一回くらい――私はまだ、紅君のこと独り占め出来てないから」

 

 最後の一言は俺の鼓膜には届かなかった。

 だが、何かやばいことを言ったことだけは俺でも悟った。

 はあ、と溜め息を吐き、俺は明理と向き直る。

 

 「無理なもんは無理だ。俺はお前とは入らない」

 「どうして? 私と入るのが嫌なの?」

 「いいや違う。明理の前で俺は全裸になるわけにはいかないだろ? まだ彼女とかだったらわかるけども、お前はただの友人だ」

 

 俺は明理の腕を振り解いて風呂場から去った。

 後ろでは、明理が俺をにらんでいたことにも気づかずに。

 

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