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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第1章 「波瀾の入学式」
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第1章4話   「部活説明会」

 ――時は昼休み。

 クラス中は部活の話で持ち切りだ。

 

 「ねえ、紅君は部活に興味ない?」

 

 俺はクラスの一番人気のある男子――鼓崇柚暉に声をかけられた。

 当然、部活になど興味はない。

 今日は特に無理だ。声をかけるならせめて明日くらいにしてくれ。

 

 「興味はないが、見学くらいになら行こうと思う」

 「そうかい、じゃあ一緒に行かないかい?」

 

 俺はイケメンに誘われた。

 俺が女子だったら「行く!」と即答してただろう。

 だがまずは、あいつらに聞かなければな。

 

 「おーい! 凛音と明理はどうするか?」

 

 俺は明理と凛音に声をかける。

 すると二人共俺の近くに集まって、

 

 「私達は紅さんの傍にいないといけませんので、行くしかないでしょう」

 「確かに、く善く考えればそうだね」

 

 二人は話し合いの末、着いて来ることになった。

 

 「じゃあ、二人共オーケーということだから柚暉、一緒に行けるぞ」

 「ありがとう。それじゃあ、放課後だね」

 「ああ、また後でな」

 

 柚暉はクラスの男子と女子のグループの端に行き、そして中心となった。

 俺は柚暉のコミュニュケーション能力の高さに驚いた反面、羨ましくも思った。

 

 「まったく、本当なら私は行きたくないんですけどね」

 「こら、そんなこと言うなよ。折角柚暉が誘ってくれたのに」

 「私は紅さんと明理さんとしか行きたくないんですよ」

 「我儘わがまま言うなよ。柚暉と居ると自然と人と関わることが出来ると思うんだよ。それに俺は犯人を学校内の誰かだと推測してる。だから犯人捜しと友達作りが出来て一石二鳥だ」

 「そういうことですか」

 

 俺の考えに納得したのか、凛音は頷く。

 明理も同様、乗り気みたいだ。

 俺はにやりと笑って、放課後を待った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――


――そして放課後。

 

 「じゃあ行こうか」

 「おい、何で他の奴らがいるんだ」

 

 俺は柚暉の連れてきた三人の男子を見る。

 

 「よう」「ちーっす」「やあ」

 

 三人はそれぞれ挨拶をする。挨拶の順番から紹介する。

 一人は角刈りの男子、黒山鋳杜弥。もう一人は、入学式の時会った金髪のあいつ、内田淳二。最後の一人は眼鏡をかけたイケメン男子、霧宗柾納だ。

 

 「ごめん、ごめん。話しかけたら三人とも説明会に行く予定だったらしいから、つい誘っちゃった」

 

 ここは怒るべきだろうか。

 

 「あ、いや、別にいいけど」

 

 ああ、怒れなかったな。

 そんなに爽やかに言われると、怒りづらいだろうが!

 だが、そんな俺とは反対に、

 

 「ちょっと、話が違いますよ」

 

 後ろから俺に囁いてくる凛音がいた。

 

 「我慢してくれ」

 

 俺はそう一言だけ言って、前を向く。

 途端、柚暉が立っている廊下の奥の方から二人の女子が現れた。

 

 「嫌な予感がする……」

 

 俺の悪寒おかんは見事に的中。

 二人の女子は柚暉に近づいてきた。

 

 「やっほー柚暉君。あたしらも着いて行っていい?」

 

 ギャル風の口調で話す女子――泉海菊が、柚暉に声をかける。

 優しい最強イケメン男子の柚暉は勿論もちろん「いいよ」と言ってしまった。

 

 「ええと、私も着いて行っていいですか……?」

 

 薄紫の髪を持ち、眼鏡をかけて弱々しく言う少女――玲瓏未來。

 結局柚暉は二人を入れて、俺達は合計九人の大グループと化した。

 俺は気張って嫌悪感を隠し、「ぶ、部活の説明会に行こうぜ!」と言った。

 俺は人が多い所は苦手だ。だから声が震えてしまった。

 

 「そうだね、じゃあ体育館へ行こう」

 

 柚暉がそう言って、九人は進む。

 

 「俺な、昨日腹筋千回やったら筋肉痛なっちった。今も痛ぇぜ」

 「え、まじで、凄くない? ちょっと筋肉見せてよ」

 鋳杜弥と菊の会話。

 「こんにちは。お嬢さんはどうして部活の説明会へ?」

 「え、ええと、私は絵を描くのが好きなので、絵を描く部活があるか見に行くんです……」

 柾納と未來の会話。

 「柚暉っちは、部活何に入るんすか? サッカーすか? それともバスケ?」

 「ああ、僕はサッカーが好きだからサッカー部に入るよ」

 柚暉と淳二の会話。

 一方俺と凛音と明理の三人は、

 

 「ねえ、紅君の好きな食べ物って何?」

 何で部活の説明会に行くのに、好きな食べ物の話なんだよ。部活の話をしてくれ。

 

 「何か寒くないですか……気のせいですかね……」

 おい、今は春だから暖かいだろ。どうして寒いんだよ。

 はあ。と、溜め息を吐いて俺は体育館へと入る。

 今現在、まだ説明会は始まっていないものの何人もの生徒がいる。

 九人は並べられた椅子に腰かけて、部活の説明会が始まるのを待つ。

 俺は椅子に腰かけた後、前を向く。

 

 ――何だか視線を感じる。

 

 俺は辺りを見回す。

 だが、俺をじっと見つめている様な人物は居なかった。

 不穏な空気に、俺は喉が詰まりそうになる。

 俺は深呼吸をして気を和らげ、咄嗟とっさに視界に映り込んだものに目を見開く。

 そう、俺は完全に見られていた。

 瞠目どうもくし、俺はその視線の方を向く。

 その方向には、白い髪をした少女の姿があった。

 その少女は俺を遠くからずっと見つめている。

 途端、目が合った。

 咄嗟に俺は視線を逸らしたが、少女は微笑みながら俺をずっと見ている。

 

 ――何で俺を見ているんだ。

 

 俺は疑問しか浮かばなかった。

 

 「どうかしたんですか?」

 「あ、いや、何でもない」

 

 凛音の声に醒悟せいごし、俺ははっとする。

 そしてもう一度、あの少女の方を見たが、しかしながらそこには誰も居なかった。

 翡翠ひすい双眸そうぼうを持ち、雪の様に白い肌と髪。一体誰なのだろうか。

 まさか……吹雪か?

 あまり居心地のよくない気分になった俺は、明理を見る。

 凛音の右隣に座っている明理が楽しそうにはしゃいでいた。

 

 「やっぱり、何かあったんですか?」

 「いや、ずっと俺を見ている奴が居たんだ。もう消えたが」

 

 沫雪あわゆきが溶けてなくなる様に、あの少女もまた、姿を消した。

 『では今から説明会を開始致します』

 マイクを持って司会が言う。

 多分三年生だろうか。

 『どうも皆様こんにちは。サッカー部です!』

 という様に、様々な部活の紹介が始まり、軈ては終わる。

 そして一時間ほど経って、説明会は終了した。

 体育館を九人は出て、それぞれ解散となった。

 俺は明理と凛音以外の六人に別れを告げ、帰宅を始める。

 

 「陸上部とかよくないですか?」

 「確かにいいね。紅君はどう思う?」

 

 突然俺に話のバトンが渡った。

 

 「入りたいなら入ればいい。俺は足が速くも遅くもないから陸上部など興味ない」

 「えー、因みに五十メートル走は何秒台?」

 

 はあ、と溜め息を吐き、俺は言う。

 

 「五秒台だよ」

 「「ご、五秒!?」」

 

 俺の発した五文字に、明理と凛音は驚嘆する。

 

 「何で陸上部に入らないんですか!? 入った方が絶対いいですよ!」

 「そうだよそうだよ!」

 「な、何だよ急に……」

 

 二人の熱量に、俺は少し後退りする。

 俺は運動部の粋ではなく、部活には何にも所属するつもりはない。

 何故なら、全てつまらないからだ。

 昔、俺は幼稚園生の時と、小学生の時、かけっこは勿論いつも一位を取っていた。

 そして中学生の時には目立つのが嫌だったので俺はわざと八秒台で走っていた。

 そしたら、最高記録のタイムが五秒七六から五秒九三にも下がってしまった。世界記録は五秒五六。それに比べると遅いだろう。

 明理と凛音の言う通り、陸上部に入って走り回れば、確かに記録は向上するだろう。俺が部活に入らないのは自分の時間が取られるからだ。好きな部活だったならば、時間を無駄にすることはない。だが俺は何の部活に入っても楽しいことなんて一度もなかった。それ以来、部活に入ることはやめた。

 

 「入るつもりはないな」

 

 俺は断固拒否した。

 だが、二人は尊敬と羨望の眼差しで俺を見る。

 

 「何回も言うが、俺は部活に興味がないし、入るつもりもない」

 「頑な……」

 

 珍しく敬語を抜いて話す凛音。

 俺は多少それに驚きながらも拒否するのを繰り返す。

 遂には二人も諦めた。俺は安堵し、胸を撫で下ろす。

 

 「じゃあ、次のバスが最終便だから遅れるなよ。帰れるのは明日になってしまうからな」

 

 俺は二人に呼びかけ、バス停へと向かう。

 二人は後ろでぶつくさと何かを言いながら着いてくる。

 

 「そういえば紅君。私と連絡先交換しようよ」

 「あ、いいけど……」

 

 俺と明理は互いに登録した。

 

 「ありがとう。じゃあ、次は凛音ちゃんも交換しようよ」

 「べ、別にいいですけど……」

 

 凛音は渋々明理を登録する。

 これで全員分登録が完了し、俺は安堵の吐息を漏らす。

 

 「これでいつでも連絡が取れるな。何かあった時も大丈夫だ」

 

 俺は、犯人へ憎悪を向ける。

 紡戯と両親を殺した者へ。更には、明理と凛音を殺そうとする者へ。

 

 「もうこれ以上、誰も死なせはしない。お前を、絶対に捕まえてやる」

 

 そう呟き、俺は不敵に微苦笑びくしょうした。

 そんな俺の行動を、明理は静かに見ていた。

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