第1章3話 「学級委員長と謎のカード」
――目が覚めれば、強い光が視界に入り込んできた。
徐々に目が慣れてきて、俺は身体を起こす。
俺が転がっていたのは白いベッド。お高いだろうな。
俺は床に足を付け、現状を調べる。
記憶を漁り、辿り着いた答えは――、
「急に倒れた俺を、凛音がこのベッドに寝かせた。というところか」
有り得る答えを述べる。
「もう朝か……。確か今日も学校だが。さて、制服はどこだろうか」
そして部屋の机に乗せられている綺麗な制服に着替え、俺は鞄を持つ。
俺はそのまま部屋を出て、少し廊下を散策する。
すると、俺がいた部屋の隣から物音が聞こえた。
隣の部屋の扉が開き、そこから寝癖が凄い凛音が出てきた。彼女は桃色のパジャマを着ている。
途端欠伸をし、もう一度凛音は部屋に戻ろうとした。
「凛音。昨日はありがとな」
「あれ? 紅さん? ――って、ひゃあぁああぁあああぁあああ! 私は人前でなんて姿を……」
戻ろうとするのを呼び止めた俺の声に、凛音は振り返った。
そして刹那の間に愧赧し、凛音は叫ぶ。
俺は苦笑して凛音を見る。
俺はその時、凛音って可愛い所もあるんだな。と、思った瞬間だった。
――――――――――――――――――――――――――――――
「――今朝のことは忘れてください!」
「忘れようとしても、あまりに衝撃的すぎて忘れられないな」
俺は即答する。
凛音は今朝、寝起きの姿を俺に見られてしまった。まだそのことを根に持っている。
凛音は頬を赤くさせたまま、そっぽを向いている。
因みに今、学校に向かっている最中だ。
昨日とは違い、凛音の車で移動してるから、遅刻はしなさそうだな。
車から降り、俺と凛音は校門を潜った。
「あれ? 二人共一緒なの?」
突然、後ろから声をかけられた。
俺と凛音は声の主の方を振り向いた。
声の主は――許宮明理。可憐な黒髪美少女だ。
「何ですか? 私は今紅さんと登校してる途中なのですけれど」
「そうなんだ。じゃあ私もご一緒させてもらいまーす!!」
明理は元気よく言って、俺の左隣を歩く。
凛音は右隣を歩いたまま、何だか不満そうにしていた。
「そういえば昨日、紅君を起こしてやれなくてごめんね。私お父さんとお母さんと一緒に帰ることになってたから」
「ああ、そうだったのか。別にお前が謝る必要性は微塵も存在しないぞ。ただ俺の不注意で転寝をしてしまっただけだからな。待たなくても、悪くない」
俺は真顔で歩く。
「そういえば、二人は何で一緒に登校してたの? もしかして……恋人同士?」
「ち、違います! 私はただ、紅さんを私の屋敷に泊めただけです!」
「説明不足だな凛音。別に恋人同士などと流言飛語を漂わされても俺は気にしないからいいが、明理は明理で俺と凛音が恋人同士などと嘘の噂を広めようとしないでくれ。まあ、俺は気にしないが」
「絶対気にしてるじゃん……」
頬を膨らました明理を余所に、俺と凛音は激しく否定する。
「実を言うと、昨日は俺の母さんと父さんが殺されたんだ。それで、危険だから俺のために凛音が屋敷に泊めさせてくれた。丁度登校する時間が同じだったから一緒に登校してる。それで今の状況に」
「殺された……?」
最初の一言に、明理は物凄く反応した。
そりゃそうか。両親が殺されただなんていきなり言い出すからな。
「紅さんの言った通りです。だから私が屋敷に泊めさせたんですよ。仕方なく」
「なんかごめんね。私何にも知らなかったのに、変に揶揄って」
「謝るのは俺達の方だ。説明不足で、明理が勘違いしてしまったからな」
明理は下を向いて憂う。
凛音は教室の鍵を開け、中へと入る。
各々席へと着き、荷物を鞄から取り出す。
因みに、凛音の席は俺の二つ前だ。明理は隣。
「そういえば今日の放課後、部活の説明会があるんだったね」
「そうなのか? 知らなかったな。まあ、知っていたとしても俺は部活には入らないし……見学だけしていくか」
俺がそう呟いているのを、明理は不思議そうに見つめる。
「紅君は、部活には入らないの?」
「まあ、運動も勉強も秀でているというわけではないしな。俺の得意なものと言えば……ゲームくらいかな?」
「へえ、運動出来そうな見た目なのにね」
「まあ、見た目はな」
俺はそう言葉を返しながら、机の中に手を入れた。
すると、指先が何やら硬い物に触れた。
俺は感覚を頼りに、指先で硬い物を掴む。意外と薄っぺらいものだった。
そのものを机から出す。
それは、謎のカードだった。
「何だこれ……もしかして」
最悪だ。
予想通り、昨日の手紙と同じ差出人だ。
『――微睡梨絵と微睡生弥を殺したもの』
そう記述されたカードを表にする。
『怪、麗しく凛とした明かりの希望を契る。最終的には両目を潰して潰して生きながら炎の海に浸からせてやる。現。微睡に堕ち』
謎が多いこの文に、俺は驚愕してカードを机に置いた。
そう、俺は何個か気付いたことがあったのだ。
昨日の手紙の記述はこうだ。
『怪、蠢愚な貴様の梨、生を喰らう。そして最終的には内臓を食い散らかし、糞尿を浴びさせて曝してやる。現。微睡に堕ち』――。
ここで注目してほしいポイントは『梨』と『生』だ。母さんの名前が『梨絵』、父さんの名前が『生弥』。これらが共通しているのは名前の頭文字だ。
そういうことで『梨絵』の『梨』。『生弥』の『生』。
だとしたら、カードの記述にも当てはまる。
この手紙に書かれてある『凛』と『明かり』が、凛音と明理になる。
後の脅迫めいた部分はわからない。
「凛音、明理、今日は俺と一緒に居てくれ」
「急に何ですか? また手紙でも……」
凛音が逸早く反応した。明理は俺をじっと見ている。
「そうだ。だが今回は手紙じゃなく、カードだ。そして今度はお前達が殺される可能性が高い」
「私達が殺される? 証拠はあるんですか?」
「それはこのカードと手紙を見比べればわかる」
俺は凛音と明理を近くへ呼び、二つを見せる。
「母さんと父さんの名前に使われている漢字の頭文字が使われていた。実際、昨日の夜に殺害されている。そして今度は凛音と明理の文字が使われているからだ」
「確かに、当てはまるね……」
「もう一度言うが、俺と一緒に居てくれ。何か起こるなら俺が傍にいた方が良いし、犯人だって捕まえることが出来る」
――紡戯、仇は討ってやるからな。
「じゃあ私達は放課後、銘々の自宅ではなくどこにいればいいんですか?」
凛音が尋ねる。
「――俺の家だ」
そう言った途端、凛音と明理の頬を強張らせる。
まあ、それもそうだ。
殺人が二回も行われている家になんて、行きたくもないだろう。事故物件みたいだしな。
――というところを犯人は突いてくるに違いない。
「私、紅君の家にいるよ」
明理がそう言った。
凛音も渋々明理に次いで、
「私もいることにします」
「ああ、ありがとな」
犯人は俺の家ではなく、別の場所で殺人をするつもりだったのだろう。
だが、その作戦は潰えた。俺の家に二人を泊まらせるからだ。
学校にいる時は兎も角、放課後に関してもこの方法だと守り切ることが出来るのではないか? 更に犯人は好き好んで夜に殺人を実行している。この夜に殺人を行うということに確信があるのは、手紙とカードの一番最後に書かれてある言葉『微睡に堕ち』でわかる。最も微睡が人に起きるのが多い時間帯が夜であろう。人間の大半が睡眠をとる時間帯だからな。
――俺は姿を現さない犯人に向けて、嘲笑を送った。