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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第1章 「波瀾の入学式」
18/64

第1章17話   「人々は竦然と――」

 ――喧騒。

 賑々とした場所へと着いた。

 その名も遊園地。

 人波が出来ている入場口を何とか通り抜け、俺と天はまず、遊園地で何に行くか選んでいた。

 

 「ジェットコースターとかどう? それともお化け屋敷か……」

 「ジェットコースターでいいぞ。それよりも」

 

 俺は周囲の人を見ながら言う。

 周囲の人々は俺と天――いや、どっちかというと天に視線を向けていた。

 

 「天。お前はモデルをしてるんだろ。もしかして、この大衆の視線はそのせいか?」

 「多分そうだね」

 

 にこにこしながら言う天。

 天は屹度、俺と遊園地に来ることが出来たことでご満悦なのだろう。

 だから、周囲の視線などどうでもいいのだろう。

 

 「『天に彼氏が居た』だなんてネット中で騒がれたらどうするつもりだ?」

 「彼氏が居るって、一応ネットで言っておいたから大丈夫だよ」

 

 本当に大丈夫なのか?

 天のファン達から反感を買わないのか?

 俺は隣を歩く天を見つめながら、そう思った。

 そして暫く歩くと、長い列を作ったジェットコースター乗り場へと着いた。

 その最後尾に並んだ俺と天。

 すると、後ろから一人の男が現れた。

 

 「あ、あの、渋谷天さんですか?」

 「そうだよ」

 「あ、あの、サインください!」

 

 男はそう言った。

 天の大ファンなのだろうな。

 すると、男の他に沢山の人が集まった。そして、天にサインをしてくれと頼む。

 天は一人一人に丁寧にサインをし、数十分ほどで終えた。

  

 「凄く沢山のファンが居るんだな。後、俺が気まずい」

 「大丈夫だって。気にしなくていいよ」

 

 そう言って天と俺は手を繋ぐ。

 ファンという名の人々の前で、俺は手を繋いでも大丈夫なのだろうか。

 恨まれたりしないだろうな。

 

 「本当かもしれないな」

 

 周りの女性陣達が俺を見て何かを呟いている。

 

 「凄いね……流石は紅さん。イケメンだから周りの女の人からモテモテだね」

 「そうなのか。後、モテモテなのは天もだろ?」

 「そうだね」

 

 苦笑しながら俺に言う天。

 周りの男性陣達が俺を見て頷いているが、気にしないでおこう。

 

 「俺達の番が来たぞ」

 「そうだね。よし、じゃあ乗ろ?」

 

 俺と天はジェットコースターの座席に座る。

 シートベルトを閉め、俺と天はそれぞれ顔を見合わせて笑う。

 そうして、ジェットコースターは走行を開始した。

 俺は急な坂道を上がったり、下がったりする衝撃に吐き気を覚えた。

 

 「乗り物酔いか……?」

 

 逆さになったり、途轍もなく横に傾いたりしながら、高速で走行するジェットコースター。

 そして暫くした後、やっと乗り場へと戻った。

 俺は立ち眩みと嘔吐感を必死に抑え、天と共にジェットコースターから降りる。

 

 「楽しかったね」

 

 満面の笑みでそう言った天。

 

 「そうか……俺は、きつかったぞ」

 「紅さんって、もしかして絶叫系が苦手なの?」

 「苦手じゃない」

 「そうなんだ。ふーん」

 

 天は俺の顔を覗き込みながら微笑んだ。

 

 「じゃあ、次は――」

 

 天は言う。

 そして、俺は天を見ながら微笑んだ。

 

 ――何か不穏な空気を背後に感じながら。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 ――警告のアナウンスが鳴っている。

 

 『――園内に居ますお客様は、速やかに避難してください――』

 

 その警告の声は、軈て悲鳴へと移ろった。

 俺は天を抱き寄せる。

 現時点、周囲の人々は皆惶惑している。

 アナウンスによると、男が園内で殺戮さつりくし回っているとのことだ。

 

 「紅さん……」

 

 不安そうに、隣で呟く天。

 俺は「大丈夫だ」と、天を窘める様に言う。

 すると、周囲に居た人々が悲鳴を上げ始めた。

 

 「オラオラオラァァァアァァ!! ほらほら、泣き喚け逃げ惑えぇ!」

 

 男の喊声かんせいが耳に入った。

 ときの声を発する男は拳銃を乱射している。

 そして次々と血飛沫を上げて、人々はたおれていく。

 次に男は、俺に銃弾を放った。

 だが――、

 

 「な、何ッ!?」

 

 驚嘆して叫ぶ男。

 俺は人指し指と中指の間で銃弾を掴んでいた。

 それを見て男は一歩後退りする。

 そして、男は今度、天に向けて引き金を引いた。

 だが、俺は男の行動よりも早く動いていた。

 俺は男の腹を力強く殴った。

 すると、男は軽々と飛んで行った。

 園内の硬い地面を転がりに転がって。

 男は血反吐を吐きながら、俺を一瞥する。

 

 「どうした? そんなものか?」

 

 俺は男の頭を掴んで言う。

 そして俺は男の持っていた銃を奪い取り、握り潰した。

 男は、俺が銃を潰したことに瞠目する。

 俺は容赦なく男の顔を蹴る。

 つい強く蹴り過ぎてしまい、男は気絶した。

 血塗ちみどろの男を後に、俺は天の所へと戻った。

 そして数十分ほど経って警察官が駆け付けた。

 俺と天は警察官に話をし、男を取り押さえてもらった。

 警官たちから礼をされた俺と天は、軽く御辞儀を返した。

 

 「天、怪我はないか?」

 「私は大丈夫だよ」

 

 あまりにも早く男を倒してしまった俺。

 三十秒程度で男を気絶させた。

 そして俺と天は急いで家に帰った。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 「――ということがあってな。今日は早く帰ってきた」

 

 俺は家に居る杏子に話を終えた。

 

 「お兄ちゃんって力強いんだね……」

 「まあ、銃を簡単に潰せるくらいの握力はあるぞ」

 

 俺は自分の細い手を見て言う。

 こんな細い腕で、よく銃を潰せるものだ。

 

 「それで、お兄ちゃんと天ちゃんはデートをしたってことだよね?」

 「そうだな。そういうことになるな」

 

 俺の人生上、初めてのデート……いや違うな。

 デートと言うものは男女が二人で出かけることなのだろう?

 だとしたら……、

 

 「――俺はよく杏子とデートをしてるってことだな」

 「お兄ちゃんと、デート……!?」

 

 赤面する杏子。

 

 「お、お兄ちゃんの馬鹿!」

 

 何か俺は変なことでも言ったのだろうか。

 それに、デートしたことは恥ずかしいより嬉しい物じゃないのか?

 わからん。

 

 「あ、紅さん。これ食べていいですか?」

 

 風呂から上がった天が、冷蔵庫を覗きながら言った。

 手にはプリンがある。

 

 「それは杏子の――」

 「おに……ちゃん、食べて、いいよ」

 「食べていいぞ」

 

 杏子が食べていいと言ってるので俺はそう答えた。

 杏子もいいと頷いているし、大丈夫だろう。

 俺は頷いている杏子を見ながら思った。

 だが、杏子は頷いているのではなくて、微睡に打たれていたのだった。

 

 「おに、いちゃんの、馬鹿……本当に、可愛いんだから……」

 

 杏子は寝言を呟きながら眠っている。

 何やら変なことを言っていた様な気がしたが、あまり気にしないでおこう。

 俺は杏子をソファに横にして、布団を掛けてやる。

 

 「杏子ちゃん寝ちゃったの?」

 「そうみたいだな」

 

 俺は杏子の頭を撫でながら言った。

 

 「じゃあ俺達も寝るか」

 「うん。じゃあ私はプリンを食べ終わったら寝るよ」

 「じゃあ俺は天がプリンを食べ終わるまで寝ないな」

 「え!?」

 

 俺の発言に驚いて瞠目する天。

 

 「だから、今日の昼俺は学校で言っただろ。朝昼晩一緒に居てやるって」

 「そ、そうだったね……流石に一緒には寝ないよね……?」

 「寝たいなら一緒に寝てやるが?」

 「あひゃあっ!?」

 

 天は赤面したままプリンを食べる。

 俺は欠伸をして携帯を弄る。

 携帯ゲームをし出す俺。

 そして数分ほど経ち――、

 

 「た、食べ終わって歯磨きも終わったけど……」

 

 俺から視線を逸らし、下を向いてぼそぼそと天は呟く。

 

 「じゃあ寝るか。おやすみ」

 

 俺は天にそう言って、自分の部屋へと入った。

 

 「ま、待って。そ、その……」

 

 天は俺の手を掴んで何かを言いたそうにしている。

 もじもじとしながら、天は俺を見つめる。

 

 「一緒には……寝ないの……?」

 

 首をかしげて、そう尋ねる天。

 俺は天の可愛さのあまり、鼻血が出そうだった。

 どうする、俺。

 

 「私は、紅さんと一緒に寝たいな……」

 「よし、一緒に寝ようか」

 

 俺は即答した。

 

 「じゃあ、紅さんのベッドで寝ようよ」

 「ああ、俺のベッドでか。いいぞ」

 

 俺と天はベッドに寝転ぶ。

 お互いの心音が聞こえそうなほどの静寂と、咫尺。

 

 「紅さんって、やっぱりイケメンですね」

 「なに、天こそ美少女だろうが」

 

 俺と天は言葉を交わす。

 天は優艶ゆうえんに笑った。

 俺は段々と眠くなり、瞼という名の緞帳どんちょうが降りてきた。

 

 「お休み、紅さん」

 

 俺の唇に柔らかいものが触れた様な気がした。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 ――朝。

 今日は土曜日。

 やっと休日だ。

 

 「さてと……」

 

 俺は身体を起こす。

 俺の隣では、可愛らしい寝顔を晒す天が寝ている。

 俺は背伸びをしてベッドから降りる。

 

 「あ、凛音からメールが来てる」

 

 俺は凛音のメールを読む。

 そして、メールに書かれていたのは――、

 

 「『今日、私の家で誕生日会をします。来てください』か」

 

 凛音の誕生日会か。

 そういえば、今日は凛音の誕生日だったな。

 四月二十五日。

 俺は着替え、天と杏子を一瞥しては、朝食を作りにキッチンへと向かった。

 

 「誕生日会か……」

 

 俺は紡戯の誕生日会を思い出した。

 確か三年ほど前のことだったな。

 俺がプレゼントを忘れたのは。

 そんなノスタルジックな光景を偲びながら、俺は料理を作り始める。

 

 「プレゼントを買ってやるか」

 

 俺はそう呟きながら、白い皿に目玉焼きを乗せた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――紅が天と同衾した日の夜、藍の髪を持った兄妹は。

 

 「兄様。主様からメールが届きました」

 「そうか、何が書かれてある?」

 

 タブレットに映る、一つの短い文。

 そのメールには、こう書かれていた。

 

 『私は主の朋友ほうゆう。今、主がどこにいるか知らないか?』

 

 その不思議なメールを見て、少女は己の失態に気付く。

 

 「すみません。主様ではなく、主様の朋友を名乗る者でした」

 「ほう。このメール文からして、現在の朋友ではなさそうだな」

 

 少年はにやりと哄笑を浮かべ――、

 

 「――興味深いな」

 

 まるで、幼子が遊戯をしている時の様な満面の笑みで呟いた。

 

 「もっとその人物のことを詮索するのだ」

 

 少女に命令する少年。

 

 「かしこまりました」

 

 そう一言だけ告げて少女は闇に溶ける様に消えた。

 少年は吐息を零し、瞳を爛々と輝かせて夜空に浮かぶ月を眺めていた。

 そう、三日月を。

 

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