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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第1章 「波瀾の入学式」
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第1章15話   「後日談は彼女達と共に」

 ――鼓崇柚暉が死に、教室はいつもよりも静かだった。

 しかし、その静寂は数日間の間だけであり、既にクラスは賑やかさを取り戻している。

 どうして柚暉が紡戯を殺した犯人の捨て駒とされたのか、未だにわからない。

 そんな謎に苛まれる俺に――、

 

 「――大丈夫だよ! お兄ちゃんには私がいるから」

 

 一人の少女が抱き着いてきた。

 

 「ああ、わかったわかった。お願いだから離れてくれ」

 「え? なんで? 私はお兄ちゃんがこんなに大好きなのに……」

 

 俺は杏子を見た後、隣でやり忘れた昨日の宿題をしている明理を一瞥する。

 そして俺は溜め息を吐いた。

 

 「なんで俺の周りにはまともな奴が凛音と天しかいないんだよ……」

 「む。紅君、私のことを軽蔑したでしょ。でも、なんだか嬉しい……」

 「え? 私は普通だよ! 寧ろ、私の愛を拒絶するお兄ちゃんの方がおかしいんじゃないの?」

 

 ほらな。

 ヤンデレ兼ドMと、ブラコン妹はそう言った。

 俺は頭を掻いて、凛音を見つめる。

 凛音みたいに清楚でしっかりしてて真面目だったらいいのに。

 そう思ってしまう。

 そう思っている俺の近くでは、明理が頬を紅潮させて喜び、頬を膨らまして反論してくる杏子がいる。

 

 「少しは凛音を見習ってほしいものだな……」

 「どうかしましたか?」

 

 俺の呟きが聞こえたのか、凛音が俺に尋ねる。

 俺の席の前で首を傾げる凛音。

 やばい。可愛すぎる。

 

 「本当に純粋な凛音を見習ってほし……あ、待てよ……」

 

 確か凛音は変態だったな。

 俺の持っていた『堕天使の憐憫』のエロシーンを何回も見ていたからな。

 うん、変態だ。

 そうなると、天だけが普通か。いや、違うな。

 

 「今思い出したら全員駄目だったな。もうこのクラスは終わった」

 「――? 本当にどうしたんですか?」

 

 不思議そうにしている凛音。

 まあ、俺が今何を思っているのかは知られなくてよかった。

 

 「もう。無視しないでくださいよ」

 

 頬を膨らまして怒る凛音。

 どうしてもその可愛さが目に焼き付く。

 

 「そうだ。天のところに行ってくる」

 

 俺は席を立って教室を出た。

 何故か凛音と明理と杏子の三人が着いてくるが、俺は構わず『1-B』へと赴く。

 そして天を呼んだ。

 

 「紅さん、おはよう!」

 「天、髪を切ったのか?」

 

 短くなった髪を見て、俺は問う。

 

 「どうかな、似合ってる……?」

 「似合ってるぞ」

 「ありがと」

 

 嬉しそうに笑う天と俺の後ろで、じっとその会話を聞いている三人。

 俺は天に微笑む。

 後ろの三人が何かを呟いているが、俺は無視をする。

 

 「そういえばごめんな。前は遊園地に行くつもりだったのに」

 「うん。じゃあ今日行く?」

 「ああ、そうだな。俺も今日は暇だしな」

 

 そうして一致団結し、俺と天は遊園地に行くと決定……しそうだったが邪魔が入った。

 

 「ちょっと待ってよお兄ちゃん! 遊園地に行くってどういうこと!」

 「そうだよ! 私も行きたいよ!」

 「ゆ、遊園地ですね……」

 

 ちゃんと聞いていやがった。

 俺は無視をして、天と先ほどの話の続きをする。

 

 「お兄ちゃん、無視しないでよ!」

 

 後ろから杏子に抱き着かれた。

 俺は気にも留めず、会話を続ける。

 

 「じゃあ後でメール送っとくから、詳細はメールを見てくれ。じゃあ放課後な」

 「うん、じゃあね」

 

 俺は天に手を振って教室に戻った。

 そして深呼吸をし、杏子を引き剥がす。

 

 「お兄ちゃん、もう無視しないでよ……」

 

 悲しそうに呟く杏子。

 

 「おい、お前ら。遊園地には絶対に着いてくるなよ。邪魔だ」

 

 「「「じゃ、邪魔……!?」」」

 

 三人は驚愕を口にする。

 立ち尽くす三人を置いていき、俺は自分の席へと座った。

 そしてノートを開き、適当に絵を描く。

 落書きに近い絵を描き上げた俺は、手当たり次第に描き直しをする。

 

 「な、何を描いてるの……?」

 

 途切れ途切れの弱々しい声で話しかけてきたのは未來だ。

 俺は未來に絵を見せた。

 すると、未來は瞳を輝かせてノートに目をやる。

 

 「す、凄い……こんなに絵が上手だったんだ……」

 「なんだ? まだ俺は下書きしか描いてないぞ」

 

 俺は二次元美少女をノートに描いていた。

 とは言っても、まだ下書きだ。

 作品として完成はしていない。

 

 「お兄ちゃんって絵も上手なんだ!」

 「そうなの? 紅君、見せてよ」

 「そうなんですか?」

 

 突然、俺の背後から三人の声が聞こえた。

 俺は驚いて後ろを振り返る。

 

 「お前ら、いつからいたんだよ」

 「さっきからだよ。それでそれで、絵を見せて、お兄ちゃん」

 

 俺はノートを三人の前で広げて、

 

 「「「す、凄い……」」」

 

 三人は同時に言葉を発した。

 三人は爛々と目をきらめかせノートに描かれた絵を見つめる。

 未來は自分の席に戻り、絵を描いている。

 

 「またお兄ちゃんの新たな一面が見れて嬉しいな。お兄ちゃん、よしよし……」

 「俺はお前の飼い犬じゃないんだぞ」

 

 背伸びして頭を撫でてくる妹、等井杏子。

 

 「これって、私がモデルかな……」

 

 明理は後ろで変なことを呟く。

 確かに、俺が描いた女の子は明理と髪型が一緒だが、決して明理をモデルとして描いたわけじゃない。

 

 「し、下着姿……」

 

 後ろでは興奮している学級委員長が……。

 大丈夫か? いや大丈夫じゃないな。重症だ。

 『変態』という名の不治の病だな。

 

 「お前らは、本当に……」

 

 「「「本当に?」」」

 

 三人は俺に尋ねる。

 その先の言葉を待っているのだろう。

 

 「本当に邪魔だな」

 

 「「「な!?」」」

 

 そんな三人に、俺は淡々と言い放った。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 ――そんな今日の昼休み、俺は生徒会室へと赴いた。

 高貴な扉を開き、俺は会釈をして中に入る。

 床に敷かれた、鮮血の様に赤くて美しい絨毯じゅうたん

 壁に飾られた絵画が視界に入り込む。

 

 「やっと来たのですか。遅いですわよ」

 

 そんな俺の感慨を迫害する声が一つ。

 お嬢様口調で話しかけてくる少女――その名も奢務羅縷安。

 確かに、その口調通り家が豪華で金持ちの令嬢だという。

 羨まし……あ、いや、なんでもない。

 

 「縷安。いい情報を持ってきたぞ」

 「ふふ、詳しく聞かせてくださいわ」

 「いいだろう。じゃあまずは『捨て駒』についてだ」

 

 俺は饒舌に話し始める。

 数日前に現れた鼓崇柚暉という人物について、それが捨て駒だということについて、そして柚暉に命令を下した者についての謎を話した。

 縷安は頷き、疑問点があると質問をした。

 俺の要領でわからないところは答えなかったが、話せる範囲では話した。

 

 「――で、こういう現状だ。実際、真犯人が誰なのかはわからない」

 「凄いですわね。たった数日でキーパーツを手に入れただなんて……」

 

 俺を興味深げに見つめる縷安。

 俺は彼女の瞳に覗かれ、ふと不可解なものを感じた。

 おかげで居心地が悪い。

 

 「お、先に居たのかい?」

 

 爽やかな声と共に、扉が開かれた。

 その声の主は生徒会長――廻糾烈徒だ。

 烈徒の隣には、彼の妹、怜那も居る。

 俺は怜那と目が合った。

 だが、怜那は何食わぬ顔で会釈をしただけに過ぎなかった。

 前とは違う怜那の様子に、俺は違和を感じた。

 前回の時は、自己紹介の時などに目が合ったことはある。だがその時、怜那は無視をしていた。

 しかし、今回は何故か会釈をした。

 何か大きな変動でもあったのだろうか?

 

 「お疲れ様です微睡さん。それで、何故私をじろじろ見てくるのでしょうか? 嫌がらせですか?」

 「勘違いだな。俺はただお前を観察していただけだ」

 「――気持ち悪い」

 

 悪態をつく怜那に、俺は苦笑を返す。

 さて、口数も増えていることも認めてあげよう。

 

 「この黛青の堕天使を置いていくとは。貴様ら、よほどこの俺に喧嘩を売っている様だな。さあ、かかってこい。悪魔の使徒共よ!」

 

 今度は中二病疾患者が来た。

 名前を紹介するのが面倒くさい。あいつ、苗字に使われてる漢字が難しいし。

 平仮名で書くよ、『ほうろうりつや』って。

 

 「貴様、今心中で魔法詠唱まほうえいしょうをしたか?」

 「魔法って心の中でも唱えられるのか?」

 「ああ、アークヴィルヘルムの貴様ならばな」

 「意味が理解できないでっち上げの言い訳で真実から目を背くな。虫唾が奔る」

 「な!?」

 

 俺は悪口を吐く。別に中二病にかかっている人が嫌いなわけではない。律椰だけが嫌いなんだ。

 俺はとても律椰のことが嫌いだ。

 

 「それじゃあ、怜那と僕――そして紅君だけが生徒会室に残ってくれないかな?」

 「は? どうしてだ? お前って悪い趣味でもあるのか?」

 「何を言っているのかわからないけど、取り敢えず奢務羅さんと律椰は外に出て」

 

 丁寧に誘導する烈徒。

 何か企んでいるのか?

 そして、怜那は相変わらず無愛想だ。

 因みに俺だけにじゃなく、全員にだ。

 

 「さてと、じゃあ本題に入るよ」

 「はい。わかりました、兄様」

 

 俺は途端、二人の雰囲気が変わったことに気付く。

 藍色の髪が揺蕩たゆたう部屋の中で今、何が起ころうとしているのか。

 そして怜那は俺を見て、顔を赤くする。

 

 「ええと、あの、さっきは気持ち悪いだなんて言ってごめんなさい。つい、演技が失敗してしまい……」

 「演技?」

 

 俺は不可解な一つの言葉を切り抜き、その言葉を発した張本人に問いかける。

 すると、怜那は慌てる。

 

 「ええと、違うんです! そ、それに、そんなことは言ってません!」

 「それならいいんだが。それじゃあ、本題の話って」


 俺は烈徒に言った。

 すると、烈徒はにやりと哄笑を浮かべ、髪を梳きながら俺に言った。

 

 「――君の言う、犯人についてだよ」

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