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スクール・ジョーカー  作者: 椎凪瑰
第1章 「波瀾の入学式」
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第1章14話   「捨て駒」

 ――俺が殺される――

 衝撃の言葉に、凛音と天は息を呑む。

 俺は手紙を睨みながら、頬を強張らせる。

 

 「ちょ、ちょっと、殺されるってどういうこと……?」

 

 天が俺に言霊を飛ばす。

 その声は震えていて、何かを嘆いているように聞こえた。

 

 「言葉の意味通り、俺は今日殺される」

 

 俺は淡々と言い放つ。

 

 「どうするんですか? 何か対策を……」

 

 凛音と天は『心配』をしている。

 心配、か。

 俺が殺されてしまうことに、どうしてそんなに焦るのだ?

 まだ死んですらいないし、犯人に襲われてすらいないんだぞ。

 そもそも『俺を殺せるなら殺してみろ』って言いたい。

 

 「大丈夫だ。何とかする」

 「大丈夫じゃないですよ!!」

 

 涙目で訴える凛音。

 

 「殺されてしまうんですよ! 紅さんは死んでもいいんですか!」

 

 誤解、か?

 

 「何を言ってるんだ。俺が死にたいわけないだろ。それに、俺が死にたいならとっくにもう死んでるし。そもそも、お前は根幹を勘違いしてるぞ。俺は殺されたい、死にたいってわけじゃなくて、犯人を特定するために俺は身を乗り出すんだ。これぐらいの砕身さいしんはしていいだろ? それに、一人協力者がいるしな」

 「協力、者……?」

 「ああ、そうだ。そいつが犯人捜しを手伝ってくれるんだ」

 「「――」」

 

 二人は緘黙してしまう。

 そして俺は「じゃあ」と手を振ってバス停に向かう。

 

 「それにしても、犯人は誰なんだろうな……」

 

 紡戯を殺した殺人犯本人に会えることが出来るのなら願ったり叶ったりだ。

 すぐに捕まえてやる。

 すると、後ろから凛音と天が走ってきた。

 

 「待ってください」

 

 俺はその一声に振り返る。

 凛音は俺を真剣な眼差しで見つめる。

 そして、天の後から杏子が現れた。

 

 「その件、私達にも協力させてください」

 

 俺は急な懇願に、瞠目する。

 

 「なんでお前らは俺にそこまで尽力するんだ?」

 

 俺は問いた。

 そして、威風堂々と彼女は言った。

 

 「――私が学級委員長だからですよ」

 

 啖呵を切った凛音を見つめ、俺は唖然とする。

 彼女の言葉は確かな理由にはなっていない。

 そもそも、彼女達が犯人捜しに協力しなければいけないなどという義務は一つも存在しない。

 俺は、彼女達に何かをした覚えはない。

 学級委員長だからと言っても、『犯人捜し』などという名の危険に、自ら首を突っ込むなどはしなくていいのだ。学級委員長には、そんな仕事はないからだ。

 では何故、彼女達は俺に協力などをするのだろうか。

 俺には到底理解出来ない。

 だが一つだけ、漠として思い当たる節がある。

 その言葉は、彼女達の発言通りだった。

 

 「私はお兄ちゃんの妹だから!」

  

 胸を張って述べる杏子。

 

 「私は紅さんの彼女として!」

 

 自信を持って最後に言った天。

 彼女らの勢いに押され、俺は少し後退りする。

 だが、俺の胸中にはとある激情が渦巻いていた。

 

 「お前ら……ああ、そうだよな。ありがとう」

 

 その激情の正体を知った俺は、拳を握る。

 彼女達の一言が、俺の気持ちを燃やした。

 そして、俺は凛音を見て微笑む。

 次に天、杏子と、それぞれに視線を飛ばす。

 彼女達は、自信に満ち溢れた優しい笑みを浮かべている。

 俺は一つの確信、覚悟が決まった。

 

 「本当はお前達を巻き込みたくなかったのだが、そこまで言われたら納。俺もお前らの覚悟を蔑ろにするつもりはない。協力してくれ」

 

 「はい、勿論です」

 

 俺は凛音と握手をする。

 この場に居た全員は笑っていた。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 ――俺と凛音達は、俺の家で犯人が来るのを待っていた。

 俺は固唾を呑み、緊張感を募らせた。

 凛音達の表情は、至って冷静だ。

 俺は俺で、自分が今どんな表情をしているかはわからない。

 屹度、見苦しい表情のことだろう。

 

 「そうだ。凛音達は隠れてくれないか? 何かあったら言うから」

 「確かにそうですね。犯人は紅さんだけを狙っているので、私達がいたら屹度来ないでしょう」

 「そうだね……じゃあどこに隠れるの?」

 「そうだな、俺の部屋に隠れていろ。俺はリビングに居るから」

 

 俺は凛音達を部屋へと入れる。

 そして扉を閉め、俺は一人でソファに座った。

 今か今かと待ち草臥れそうなほど、俺は犯人が来るのを待った。

 ふと、俺は目に入ったものに気付いた。

 それは窓の外にある。

 俺は座っていたソファから立ち上がり、俺の部屋の扉を開いた。

 部屋の中で、彼女達は話をしていた。

 が、俺は扉を開いた瞬間心配そうな顔をした。

 俺は部屋に居る凛音達を見やる。

 

 「なあ天。ちょっと来てくれないか」

 「どうしたの?」

 

 天は立ち上がり俺の傍に来た。

 俺は部屋から出て、部屋の前にある廊下でふと立ち止まると、天の方を振り返った。

 

 「なあ、天。もうちょっとこっちに来てくれないか」

 「え? べ、別にいいけど……」

 

 疑問符をつのらせながら近付いてくる天。

 そして、俺と天は咫尺しせきの距離になった。

 

 「やっぱりな。危ないぞ天」

 「あっ、ま……」

 

 『待って』とでも言おうとしたのか、天は訥弁だ。

 その原因は俺にある。

 そう。俺が天を抱き寄せたのだ。

 沸騰した様に顔が赤くなる天。

 だが、その後すぐにその赤面は恐怖へと塗り替えられる。

 天のすぐ後ろを、『何か』が通ったのだ。

 窓を割り、天を目掛けて飛んできた『何か』が。

 俺は勢いの止まった『何か』を手に取る。

 『何か』の正体は、銃弾だった。

 銃弾を見た天は青ざめる。

 

 「もう少し遅れていたら。天は死んでいたな」

 「ひゃ……」

 

 強く抱き着いてくる天を見て、そして窓の向こうを見た。

 周りは住宅街。だが、この窓の向こう側は空き地だ。

 誰も居ない空き地を見て、俺は怪訝けげんに思った。

 今度は――、

 

 「リビングからか?」

 

 硝子が割れた音がし、俺は急いでリビングに駆け付ける。

 リビングに居たのは、全身白の装束で包んだ者だった。

 仮面を被り、頭をフードで隠した者は俺の方を向く。

 そして俺に向かって歩いてきた。

 右手には斧を持っている。

 斧が俺に向かって振り下ろされた。

 屹度、白服の者は俺と天を同時に切り裂くつもりだろう。

 

 「馬鹿だな。斧をもっと早く振り下ろせばよかったのに」

 

 俺は斧の柄を掴み、真っ二つに圧し折る。

 これで斧は使い物にならなくなった。

 白服の者は斧の残骸を捨て、袖の中からナイフを取り出した。

 

 「しっかり掴まってろ」

 「うん……」

 

 俺は天を強く抱きしめ、寸鉄すんてつの連撃をかわす。

 白服の者は避け続ける俺に苛々したのか、攻撃の仕方が曖昧になってきた。

 俺はナイフの攻撃を躱し、ナイフを持っている腕を掴むと、白服の者を床に叩きつけた。

 白服の者は全身を強打し、身悶みもだえする。

 俺は白服が放したナイフを踏み砕く。

 粉々になったナイフもまた、使い物にはならない。

 俺は天を離さないようにしながら、白服の者に近くへ歩み寄る。

 

 「お前が紡戯を殺したのか?」

 

 俺は白服の者に声をかける。

 だが、応答はない。

 俺は白服の者の仮面を取った。

 白服の者の素顔は、見覚えのある少年の顔だった。

 俺は驚愕して目を見開く。

 

 「流石は紅君。強いね」

 

 清々しく言い放つ少年。

 その正体は、柚暉だった。

 

 「もう素顔もばれちゃったし、逃げ処がないね」

 

 俺は柚暉と距離を取る。

 柚暉はゆっくりと起き上がり、微笑んで俺を見る。

 

 「柚暉。お前は何故こんなことをしているんだ」

 

 俺は尋ねる。

 後頭部をきながら、柚暉は言う。

 

 「命令されたんだよ。上の者にね」

 「命令?」

 

 柚暉の言っていることが真実であるならば、柚暉は私情でこの場に赴いたわけではないということである。つまり、上の者に命令されたということは首謀者が必ず存在するということだ。

 

 「誰に命令をされたんだ?」

 「君の幼馴染を殺した奴からだよ。それに、もう僕は役目を終えた。任務に失敗したし」

  

 紡戯を殺した奴からの命令。

 柚暉はそう零した。

 

 「じゃあね。紅君」

 「おい、何をする気だ」

 

 俺の問いかけに無視し、柚暉はにやりと笑う。

 無機質な笑みだった。

 途端、柚暉は口から血を流し始める。

 俺は瞠目し、激情が心中に訪れる。

 

 「今までありがとう、紅君。楽しかったよ」

 

 柚暉はそう呟き、斃れた。

 俺は驚きのあまり、思考が凍結していた。

 柚暉が力なく倒れたのを最後に、俺は呆然としていた。

 

 「な、にが……」

 

 俺は柚暉のむくろを眺め、そう零す。

 俺の胸中に顔をうずめる天も同様、柚暉の骸に目をやっていた。

 

 「何が起きたの?」

 

 天は柚暉を見つめて言う。

 状況が理解できない俺と天。

 

 「取り敢えず、凛音達を呼んできてくれ」

 「わ、わかった……」

 

 天は凛音達の元へと向かう。

 俺は柚暉の骸を眺めている。

 

 「死んだのか」

 

 俺はあまりにも無感情に呟いた。

 

 「俺ってここまで無情だっけ?」

 

 俺は疑問を漏らす。

 自分がここまで死に億劫だとは思っていなかった。

 

 「どうしたんですか!」

 

 凛音が慌ててリビングへやってきた。

 凛音は立ち尽くしている俺と斃れている柚暉を見るなり、驚愕した。

 

 「柚暉、さん……?」

 

 驚きと悲しみが同時に表情に現れる凛音。

 血反吐を零しながら骸を晒す柚暉。

 そして、俺の腕を自身の胸へと抱き寄せる天。

 俺はとても居心地が悪かった。

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