第1章13話 「死の宣告」
――三時限目
きょうは『1-A』と『1-B』が共同でバスケをすることになった。
そして今、まさにバスケの試合が始まろうとしていた。
俺と柚暉が率いるAクラス。対峙するはBクラス。
ボコボコにしてやるか。
そして俺は視線を飛ばしてくる天に微笑みを返した。
天は驚いて顔を赤くするが、『頑張って』と合図を送る。
「まったく。しょうがないな」
俺はそう呟いた。
試合開始の合図となる笛の音が鳴り、試合は開始された。
俺はすぐに相手からボールを奪った。
そして柚暉にボールをパスし、俺は場を牽制する。
Aクラスには、俺と同じぐらいの運動神経を誇る柚暉がいる。
つまり、俺と柚暉がいればAクラスは無敵だということだ。
「紅君!」
柚暉が俺にボールをパスした。
なるほど、かの有名なダンクとやらをしてやろう。
俺は見事にダンクを決めた。
Aクラスの歓声が上がり、俺と柚暉は笑みを浮かべる。
そして着々と時間が進み、俺と柚暉は交互にゴールを決めていく。
相手のBクラスはというと、一点も入れることが出来ず、唖然としている。
試合は終了した。
結果はAクラスの圧勝。
「凄かったですよ」
「ああ。久しぶりにバスケが楽しかったな」
試合終了後、俺の隣で凛音が言う。
バスケを楽しいだなんて感じたのは小学生以来だ。
やばい。楽しすぎるからバスケ部に入ろうかな。
俺は凛音にを微笑を送って、天の方へと向かった。
天は俺を見て頬を紅潮させ、もじもじとしている。
「紅さんって、運動得意なんだね……」
「まあ、俺は運動が得意らしいな」
恥ずかしげに佇む天。
「そうだ。前の告白の返事なんだが、答えが決まった」
「そ、そうなの……?」
「そうだ」
俺の言葉に、天は固唾を呑む。
「こ……」
俺はゆっくりと口を開いた。
「私なんかじゃ、無理だよね」
静かに天は呟く。
屹度、俺が『断る』とでも言うと思っているのだろう。
探り合いをしたいんだろ? 断る理由がない。
「答えはオーケーだ」
「え!?」
驚いた様に俺を見つめる天。
天は若干涙目になっていた。
「あ、わわ……」
俺の答えに、天は慌てる。
手をあたふたと振り、何かを言おうとしているみたいだ。
「わ、私と……付き合ってくれるの?」
「ああ、勿論だ。二十分も遅れた俺を待ってくれたし、頑張って告白もしてくれたしな」
「ひゃあぁ……」
顔から耳の先まで真っ赤になる天は、倒れそうになった。
俺は天を受け止め、優しく抱きしめた。
「あ、わ、ありが、とう……」
「まったく。気を付けろよ天」
「な、名前で呼ばれた……」
愧赧する天。
そして天は俺の腕の中でじたばたと暴れる。
「おい、あまり暴れるなよ。また倒れるぞ」
俺は再び倒れそうになる天を支える。
だが天は暴れず、仄かに恥ずかしさを含めた微笑を浮かべていた。
「紅さん……大好き……」
そう言って、俺の彼女となった天は嬉笑した。
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天と付き合ってからは、Aクラスに天が訪れる様になった。
明理は嫉視していたが、屹度大丈夫だろう。屹度。
凛音と杏子は何も言わない。
だが、クラスメイトは俺と天が付き合っているという噂を流し始めた。
これは流言飛語ではなく、事実だ。
今日も天が来た。
俺は天に微笑を送って廊下に出る。
「紅さんってどこに住んでるの?」
「ああ、今度ラインで住所送っとくから。そうだ、今度一緒にどこか行かないか?」
「お買い物……今日は私空いてるよ」
どう考えても天は今日行きたいみたいだ。
「そうだな……じゃあ俺は天の家に向かいに行くよ」
「わ、私の家に向かいに来る……」
顔を赤らめる天。
何を考えているのだろうか。
俺が家に向かいに行くだけだぞ。
そんなに恥ずかしいことなのか?
「じゃあ放課後ね。で、どこに行くの……?」
俺は不敵ににやりと笑い、
「今日は学校が珍しく昼に終わるだろ? なら凄いところに。その名も――」
「そ、その名も……?」
言葉の続きが気になるようで何より。
まじまじと俺を見て、気にしている天。
「遊園地だっ!! 英語で言うとアミューズメントパーク! 俺もバイトで金溜まったし、今なら二人分あるぞ」
「遊園地!」
嬉しそうにしている天。
「ふふふ……紅さんと……」
涎を垂らして呟く天。
俺はハンカチで口元を拭ってやった。
「ところで、天」
俺は前から言いたいことがあった。
「何?」
俺の言葉に疑問符を飛ばす天。
「いや、やっぱりなんでもない」
俺は、まだ言わなかった。
「本当に何もないの? 別にそれならいいんだけど……」
取り敢えず俺は微笑で隠して天の手を取った。
顔を赤くした天は俺の手を取った。
「行くぞ」
俺と天は廊下を歩く。
それも、俺は天の姿を目に焼き付けながら。
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「――!?」
俺は靴箱に入っていた一つの手紙に驚く。
「やっぱり犯人からの手紙か。なんだか久しぶりだな」
久々に見た絶望の象徴。
俺は封を開き、内容を目に通す。
「おいおい、嘘だろ……」
俺は走った。
走って走って走った。
息を荒げ、俺は向かう。
「あ、紅さん! ってちょっと!」
凛音の手を引っ張り、俺はまだ走る。
そして校門の先にいる少女、天のところへ向かった。
「天!」
「どうしたの? って、あわわ!」
俺は天の手も掴んで急いで走る。
まずい、まずい、まずい。
俺はバス停へと二人を強制的に連れていく。
「い、いきなり何ですか?」
凛音は聞いてきた。
「凛音さんも……ていうか、紅さんはどうしたの?」
息を整えている俺に、天は尋ねる。
「大変なことになった。杏子は置いてきてしまったが、それより重大なことがある。凛音、天、心して聞くんだぞ」
二人は頬を強張らせ、俺を真剣な眼差しで見つめる。
俺は炯々と目を鋭くし、
「――今日、俺が殺される」
「「え!?」」
二人が同じように反応する。
だが、俺にはそんな余裕もなかった。