第1章12話 「告白と終焉の始まり」
「――こ、ここは……?」
少女は目を覚ました。
薄暗い、鉄で出来た箱の様な部屋。
だが両手両足は動かず、身体は言うことを聞かない。
だが視界と言う名の『感覚』は残っていた。
そして、自分の身体を見てみると縄で椅子に縛られていた。
――束縛されていた。
必死に力を入れてみるも、縄が千切れる予感はしない。
少女は長い髪を冷や汗で濡らし、辺りを見回す。
すると扉の様なものが見えた。
「だ、誰か居ませんか!」
叫ぶも、狭い部屋の中で反響するだけだった。
「どうしよう……」
救いのない絶望に打ちひしがれる。
だが、まだ諦めるのは速いと思考が宣う。
途端、扉が開かれた。
扉の向こうから現れたのは、白衣を身に纏った者。
顔を白い仮面で覆い、上から下まで全身白服の者。
髪は白いフードで隠されており、色はわからない。
身長は見たところ百五十センチぐらいで、小柄だ。
そして右手には斧を持っていた。
血が滴るその斧は、酷く黒ずんでいた。
少女は危険を察知した。
「あなたは……?」
恐る恐る声をかけてみる。
だが、返事はない。
すると、白服の者は少女に近寄ってきて――、
「ぎゃあああぁあぁああぁああぁあぁあ!!!!!!」
斧を少女の右腕に振り下ろした。
右腕は豪快に切断され、大量に血飛沫を上げる。
少女は滂沱し、恐怖と激痛に顔を歪ませる。
そしてもう一発。
今度は左腕が切断された。
また血飛沫が飛び交う。
少女は顫動し、斧を身体中に振り下ろす白服の者を睨む。
そうして少女の四肢は切断された。
縛り付けられていた椅子から投げ飛ばされ、抵抗力のない少女の身体は床に叩きつけられる。
途端頭を掴まれ、少女は霞む視界で白服の者を見る。
すると、白服の者は少女の右目に指を指した。
悲鳴を上げ、少女は眼窩から涙を流す。
そして白服の者は眼球を引っ張り、目を刳り貫いた。
血の涙が流れ始め、少女はショック死する。
舌を引き千切り、白服は少女の頭に鉢巻の様に巻き付け、白服の者は顎に手を置いてじっと見つめる。
この白服の者にとって美学とはこういうものだ。
少女の死体を遠くから眺め、白服の者は何度も何度も満足げに頷いていた。
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――とある日の今日。
俺のクラスの女子、夢村莉々が行方不明となった。
放課後に突然、姿を消したらしい。
俺は凛音を見た。
凛音は同クラスの一人の訃報に頭を項垂れ、唇を噛み締めていた。
どうして莉々が行方知れずとなったのかは、俺にはわからない。
ただ一つ、根拠はないが思ったことがある。
――あの手紙の主が関係しているのではないかと。
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放課後。俺は教室に残っていた。
明理と凛音、杏子を先に帰らせて俺は教室でボッチ。
他には誰も残ってない。
俺は溜め息を吐いて瞑目する。
「あ、あの、帰らないの……?」
声をかけられた、
俺は目を開け、声のした方を向く。
そこには眼鏡を掛けていて薄紫の髪を持った少女――玲瓏未來がいた。
「お前、居たのか。気付かなかったな。言っておくが、俺はまだ帰らないぞ」
すぐに答えを返し、俺は前を向く。
「え、ええと、その、そうなんだ……わ、私も残っていいかな……?」
「好きにしろ」
俺は未來に言った。
すると突然、彼女は眼鏡を外した。
「どうも。私は玲瓏未來。まあ、所謂もう一人の私って奴? 眼鏡を掛けて弱々しいこいつとは違って、私は眼鏡を掛けない未來。よろしく」
「お前は多重人格なのか?」
「ええ。その通りだとも」
面倒くさい奴だ。
多重人格者は人格と性格がころころ変わるから接し方がわからない。
いつもは大人しい未來だが、眼鏡を外すと人格が変わるのか。
一応役に立つ可能性があるから、覚えておくか。
「それで、どうせ俺に話があるんだろ?」
「そう。私はあなたの靴箱からこれが落ちるのを見た」
すると、未來はポケットから一枚の手紙を取り出す。
そして顔を赤らめた未來は俺に渋々と、
「だ、誰かからのラブレターよ! み、見てあげなさい!」
俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。
あれ、ラブレターって何だっけ。
って、好きな人に渡すあれか。
「あ、そうか。一応目を通しておく」
俺は渡されたラブレターを手にし、封を開ける。
差出人は渋谷天、か。
確か、渋谷天は隣の『1-B』クラスの奴だったと思うが。
そして俺はラブレターを読み始める。
『――放課後、体育館裏に来てください。待ってます』か。
「あれ? 放課後って今だよな?」
「そうわよ。早く言ってあげなさい」
「お前なぁ、せめて昼休みまでには俺に渡せよ」
「そ、それは、他に人が居たから恥ずかしくて……」
「お前が告白するんじゃないから、恥ずかしくも何ともないだろ」
俺は急いで席を立つ。
教室を走って出て体育館裏へと向かう。
放課後になってから二十分が経ってやがる。
未來の奴め、覚えておけ。
俺は走り続け、遂に体育館裏へと到着。
不安げに立ち竦んでいる、緋色の髪の少女。
なんとか俺は少女の元へと辿り着いた。
少女は俺を見るなり顔を赤くし、下を向いている。
身長は俺よりも小柄だ。百五十ちょっとか?
「ごめんな。遅くなった」
「うん、別にいいよ……」
儚い呟きを零す少女。
「あ、あの……手紙、読みました?」
「ああ、読んだとも。ありがとな」
途端、天は赤面し、視線を俺だけに向ける。
まるで二人だけの世界になったかの様に辺りは静かだ。
「え、ええと、実は、私、紅さんのことが好きで……その、付き合ってくれませんか……?」
少女は訥弁している。
「あのな。モデルが、俺と付き合ってもいいのか?」
「え……?」
そう。
渋谷天という人物はモデルをしているのだ。
前にテレビで見たことがあるな。
だからこんなに美少女なのだ。
誰でも納得がいく。
「で、でも……私、本当に、紅さんのことが好きで……」
「まあ、俺も考えておくよ。答えは、また今度でいいか?」
「いい、ですけど……」
「ごめんな。答えが出たら早急に呼ぶから。じゃあ、またな」
俺は体育館裏から去った。
――大変なことになった。
答えを早く返さなければ。
一番心配なのは、俺がモデルと付き合ってそのファン達にバッシングを受けることだ。
そもそも途轍もなく関わりが少ない人物だし、あまり天のことは知らない。
まあ、明日から積極的に接してみるか。
というか、俺ってモテていたのか?
そういえば体育の授業の時、何かクラスの女子が呟いていたな。
俺がバスケで見事ゴールを決めた時とか、特にそうだ。
何で俺が本気を出すかは、俺のことを凛音と明理が暴露していたからだ。
今更隠しても遅いからな。
はあ。どうしよう。
――今日の夜、俺はとてもよく眠れなかった。
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次の日の朝。
もう学校に来て一週間が経った。
今日は月曜日。
久々に凛音達に会えるな。
学校に登校し、俺は天への答えを考えていた。
「あ、紅さん。今日も早いですね」
「ああ、凛音か。お前もかなり早く来たと思うぞ」
俺は自分の席の前で話す凛音にそう言った。
「明理さんは今日、熱で休みだそうです……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろ」
俺は明理を思い浮かべる。
屹度、熱を必死で直そうとしているに決まっている。
何故なら、あいつは俺のことが好きなヤンデレ野郎だからだ。
「お兄ちゃん、置いてかないでよ……」
とぼとぼと教室に入ってきた杏子が言った。
俺が早く家を出てしまって杏子を置いていってしまったからだろう。
「ごめんな。俺は今日学校に早く行きたかったからさ」
杏子の機嫌を直そうと、俺は慌ててそう言った。
「お兄ちゃんの馬鹿」
ふん、とそっぽを向いて杏子は立ち去る。
「そういえば今日、『1-B』くらすと体育が合同授業でしたね」
「そうだったな」
凛音の言う通りには、屹度天も居るだろう。
探り合いたいし、早く返事を返してやるか。
天は居ても立っても居られないだろうからな。
そう思い、俺は三時限目を待った。