第1章11話 「復讐の懇願」
――自己紹介を終えた俺は、生徒会室を後にしていた。
「待ってくださいわ」
後ろから呼び止められた。
振り向いて見れば、縷安がいた。
「俺に何か用か?」
俺は溜め息を吐いて、縷安と向き合う。
「ええ。少しばかり話がありますわ」
「なるべく早めに終わらせてくれよ」
「ご安心なさってください。暫且、お暇させていただく体だけなので」
長い金髪を揺らし、縷安は誰も居ない多目的室へと入った。
後に続き、俺も入る。
電気を点け、縷安は椅子に座る。
「紅様は、手紙を送ってくる連続殺人犯はご存知でしょうか?」
「ああ、知ってるとも。俺の幼馴染と両親を殺害した奴だろう?」
「そうですわ。私も弟が殺害されてしまい、なので紅様と犯人捜しの協力関係を築きたいと思いまして」
少女は横髪を梳きながら言った。
だが、俺は吐き捨てる様に啖呵を切る。
「断る」
「どうしてなのです?」
疑問符を浮かべる縷安に、俺は溜め息を吐いて言った。
「だから、断るって言ってるんだ」
「納得いきませんわ。紅様は、家族が皆殺しにされているんですわよ! それなのに、犯人は捜さないのですか?」
俺は『家族』という単語に、ある憎悪が甦る。
俺は深呼吸し、一旦気持ちを落ち着かせると、もう一回縷安を見た。
「理由一、今捜してる。理由二、大人数で探すのは面倒だから。もう俺の他に三人も居るんだぞ。そして理由三、お前が首を突っ込むな。首が捥げるぞ」
「な――」
驚きのあまり声を詰まらせる縷安。
そんな状態の縷安に俺は指を額に突きつける。
そして俺は口角を歪ませ、
「犯人は俺が捜す。お前が首を突っ込むな。その雁首が捥がれてもいいと言うのなら協力してやろう。だが、お前はあまりに微力だ。協力しただけで結局お前は終焉に向かうだけだ。お嬢様ぶってて感覚狂ってんじゃないのか?」
俺は饒舌に、脅す様に言い放つ。
縷安は後退りするが、俺は彼女の華奢な肩を掴み、下がらせなかった。
彼女は震えている。
「顫動するくらいなら、犯人捜しなんてやめることだな。弱者は一生弱者のままだ。どんなに努力を積み重ねても、強者には勝てない。わかり切ってることだろう?」
俺は自分に言い聞かせる様に、でも俺は彼女に言っている。
俺は彼女の頬に手を置いて無表情で睨む。
縷安は涙目で俺から必死に視線を逸らしている。
「あのなあ。確かに身内が殺されたら、そりゃ復讐したくはなるさ。でもな、お前は分を弁えた方がいいぞ」
俺はそう言って、縷安から離れた。
彼女は膝を付き、恐怖の色に顔を染める。
「あなたは、一体……」
「お嬢様口調はどこにいったんだよ。俺は俺だ。微睡紅として人格を形成している。今はな。だからお前はお前で何とかしろ。そう言ってもだが、今回は殺人事件に関与するな。それだけだ」
俺は多目的室から去ろうとした。
だが、縷安は俺のズボンの裾を掴んで離さなかった。
「まだ……待ってください……」
恐懼しているくせに、声を震わせながらも縷安は俺に歯向かう。
多少は苛立ちに繋がったが、俺はその必死の抵抗についつい爆笑してしまう。
「あははははは!!! な、なんでそこまでして事件に関与しようとするんだよ。おかしいだろ」
「わ、私はただ、犯人への仇討がしたいだけなのですわ。そ、それで紅様に協力してもらいたく……」
だが、俺は台詞の途中で縷安の口を塞いだ。
彼女は目を見開き、俺を下から見上げる。
「いいぞ。そこまで復讐がしたいなら、俺も協力してやろう。だが、深淵を覗きすぎるなよ。落ちて戻れなくなるぞ」
俺は警告し、悪意を込めた微笑を送った。
そして彼女は俺の手を払い、咳き込んだ。
「な、何をしたんですわ……?」
「さあな。お前のその下劣な脳で考えてみろ」
途端、縷安は気を失う。
華奢な少女は力なく倒れ、その美貌を晒した。
俺は深く息を吐き、少女を睇視した。
――瞳に、微かに殺意を籠らせながら。
さあて、ここで新登場したキャラクターの名前の読みを紹介するコーナー!
【妹】
等井杏子
【生徒会長】
廻糾烈徒
【生徒会副会長】
廻糾怜那
【生徒会書記】
奢務羅縷安
【生徒会会計】
龐壟律椰
まだまだ新キャラクターは登場する予定なので、宜しくお願いします。