第1章10話 「生徒会」
――微睡紅が生徒会長と邂逅した頃、凛音達は教室で話をしていた。
「そうですよね。紅さんはライトノベルを沢山持っていたんですよ。全部面白いものばかりでしたよ」
「そうだったの? 私も今度見てみようかな」
「お兄ちゃんはラノベが大好きだからね」
三人の女子は、微睡紅の話しで持ち切りだった。
「お兄ちゃんってば、ゲームも得意なんだよ。金トロフィーとかも獲得しているぐらいだし」
自分のことかと言わんばかりに、とても嬉しそうに話す杏子。
「そうなの? 凄いね、私じゃとてもそんなこと無理だよ。一体何者?」
「そうですよね。あまり紅さんの素性は知りませんし」
確かに、凛音と明理は紅のことを全く知らない。
知っていることといえば、最近幼馴染が死んでしまったことと、ゲームと運動が得意なことぐらいだ。
「それに、お兄ちゃんって頭もいいんだよ。この前のテストで学年一位!」
「す、凄すぎる……」
嬉しそうに、楽しそうに三人はそんな会話をする。
そう、とても面白そうに。
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「――もう一度言うけど、生徒会に入らないかい? 是非とも入ってくれるのなら、喜んで歓迎しよう」
両手を広げて生徒会長は言う。
俺はあまり乗り気じゃない。
何の個性もない俺が入っても意味があるのだろうか?
もっと頭脳明晰で運動神経抜群な奴を引き入れた方がいいと思うのだが。
「どうするの……?」
吹雪は俺に言う。
まあ、この場の決定権は俺に握られているわけだ。
俺が決めなければ場は膠着したままだ。
それに、生徒会に入った方がいいのか否かは、俺でも流石にわかる。
「わかった。俺は特別優秀な奴ではないけれど、幽霊部員として入ってやるよ」
俺は淡々と言い放つ。
俺の言動に、生徒会長は笑う。
「ありがとう。僕の名前は廻糾烈徒。よろしく」
そう言って、烈徒は右手を差し出してくる。
俺は渋々とその手を握り、握手をする。
「俺は微睡紅。別にとんだ鬼才ではないから期待はしないでくれ。空回りするぞ」
握手をやめ、俺はそう言う。
だが、烈徒は気にした素振りもなく、ただ平然と嬉しそうにしていた。
「君は勉強も運動も得意で、昔は様々なことを習っていたという噂を聞いたからね。ついつい気になっちゃって。本当にそういう人物なのかと疑い深かったから、君を生徒会へと誘って観察することにしたんだ」
「そうか。勝手にしていろ」
俺は烈徒の双眸を睨み付ける。
「じゃあ、昼休みに生徒会室へ来てくれないかい? 話がまたあるから」
「わかった。昼休みだな?」
俺は承諾し、『1-A』の教室へと戻る。
あまり釈然としないな。
「吹雪、ごめんな。変な騒動に巻き込んで」
俺は隣をゆっくりと歩く少女に言った。
「え、あ、別に大丈夫。私は全然平気ですから……」
「あんまり無茶するなよ」
俺は教室の前で吹雪と別れた。
そして中で楽しそうに話していた三人から視線を向けられた。
「話終わったの?」
「ああ、終わったとも」
「どんな話だったのですか?」
「いや、生徒会長に呼び出し喰らったんだ。安心してくれ、退学とかじゃない」
「「「退学!?」」」
三人は驚愕し、俺に少しずつ詰め寄ってくる。
「退学じゃないって、もしかして停学とかではないでしょうね?」
「いや違う。生徒会に入るか否かって話をしただけだ」
「生徒会に? それで、入るのですか?」
「勿論、入るに決まってるだろ。その方が大学とか、就職先とか上手くいきそうだし」
「凄いですね」
凛音は驚嘆し、俺を見つめる。
明理は拍手をし、俺を涙目で見つめる。急にどうした。
杏子は頬を赤くして俺をちらちら見ている。なんだよ、行動の真意がわからない。
「で、俺は昼休みに生徒会室に行くからな」
俺はそう言って教室の窓に凭れる。
そして俺は空を見上げた。
――靉靆。
「ああ、なんか雨が降りそうだな……」
そう一言不安を零した俺だった。
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――昼休み、俺は生徒会室へと赴いた。
俺は生徒会室に堂々と入り、生徒会長には一応会釈をする。
「来てくれたのかい。よし、じゃあ生徒会のみんなを紹介するね」
烈徒は丁寧に俺へと言った。
烈徒の他に、中には二人の少女と一人の青年が居る。
「知ってると思うけど、僕の名前は廻糾烈徒。生徒会長を務めているよ」
生徒会長は深々と御辞儀をする。
そして次は烈徒と同じく、藍色の髪をした少女が前へ出る。
「どうもこんにちは。私の名前は廻糾怜那。生徒会副会長を務めているわ」
令嬢の様に麗しく、凛々しい怜那。
次は金髪碧眼の少女が前に出る。
「ごきげんよう。私の名前は奢務羅縷安。金髪なのは親がハーフだからですわ」
お嬢様口調で宣う縷安。
絶対に大金持ちだな。
次は黛青の髪をした青年が前に出る。
「くっくっく。我が名は黛青の堕天使――龐壟律椰。永劫の時を司りし者であり、世界の創造主に元は使えていた番人。貴様も堕ちてみるか?」
「結構」
これに関しては、俺も反論した。
すると、律椰は俺から距離を取って摩訶不思議なポーズで身構える。
「貴様ッ! もしやアークヴィルヘルムの子孫かッ! 駄目だッ! オーラが強すぎる。くそッ! こうなれば……」
もう無視しておくか。
「で、まあこんな感じかな。馴染めるかい?」
「まあ、一人を除けば馴染めそうだな」
俺は律椰を睇視しながら言った。
まだ律椰は俺を見てポーズを構えている。
本当にこいつは生徒会のメンバーか?
そう思ってしまうほど心配だ。頭の方がな。
「で、貴方方のお名前は?」
俺に縷安は尋ねる。
「俺は微睡紅。まあ、何か力になるかはわからないが一応宜しく」
そんな風に言い、俺は無表情でいる。
「微睡さんには庶務を任せるわね」
怜那は俺に告げる。
庶務か。まあ、雑務みたいなものか。
「じゃあ、これで解散」
烈徒はそう言って、一同は解散した。