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「公女様!公爵様!」
「通せ」
「はい」
「お手を」
「ええ、閣下」
ラナ様の白い手が閣下の分厚い手に被さる
まるで恋愛劇のワンシーンだ
チクリと痛むこの感情には気づかないフリをしたい
騎士の掛け声とともに2人が入場する
私は後ろからアイザック様と着いていく
「「公爵閣下!公女殿下!万歳!」」
「「「「「万歳!!」」」」」
ウェストリッテンにはない声とともに始まった結婚式は上手くいった…途中まで
「失礼します!公爵閣下!」
会場にいた貴族や騎士の視線が1人の若い騎士に向いた
「貴様!今は結婚式の途中だぞ」
誓いのキスをしようとしていた2人の顔もそちらを向く
「も、申し訳ございません!!しかし緊急事態なのです」
「なんだ?要件を聞こう」
「失礼します」
騎士は閣下に近づいて文書を渡した
皇室の捺印の入った文書を
「な…これは」
閣下は急いで手紙を開ける
「結婚式は中断にします!」
閣下が大声で叫ぶ
「え?」
「何があったんだ?」
「わざわざ来てやったのに」
「アイザック!邸宅に皆様を案内しろ」
「はっ!公女…奥様もこちらへ」
「わかったわ、マリー」
「はい、ラナ様」
「ラナ嬢、すまない。結婚式は終わっていないが今日から私たちは夫婦だ」
そう言って閣下はベールをとる
…え?どうし…て
なんで…ラナ様とあなたが結婚するの?
「はい」
ラナ様もベールをとる
「行ってらっしゃいませ、公爵様」
「ええ、ラナ嬢」
「マリー、行くわよ」
ラナ様がなんて言ってるのかも分からない
「ラナ様…先に行ってて下さいますか」
「分かったわ」
「奥様行きましょう」
皆が出たあと私は1人残った
「…シエル様」
なんで貴方がラナ様の結婚相手なのですか?
「私の…元婚約者様」
1年だけの婚約者様
「あの頃に戻りたい」
懐かしいな
昔、転んだ時も叱られた時も私はすぐ泣いていた
そんな時
『ほら』
上着を頭に被せてくれた人
『どうしてそんなことするのですか?』
『見られたら恥ずかしいだろ?汗臭いから嫌だったらこっちへ返せ』
『…嫌じゃないです』
不器用な貴方
「ああ、あの頃に戻りたい」
そうすれば貴方にまた上着をかけてもらえるのだろうから