調教師の朝は早い・1
キチゲ貯まってるゥー!
「テリー……テリー、起きなさい」
緑色の肌をした大柄な男がベッドで寝ている少年を起こす。
少年はむくりと起き上がる。
まだ眠たげな顔でのびをしたあと、男から蒸しタオルを受け取り顔を拭いた。
顔を拭いたあとは先程の眠たげな顔が嘘のように、スッキリとした顔つきで男に向き直った。
「おはよう!おじさん」
「おはようテリー」
2人が挨拶を済ませると、少年はベッドから抜けて男の補助を受けながら服を着替え、2人は手を繋ぎながら部屋を出る。
部屋を出ると赤い絨毯の敷かれた長い廊下がある。
2人は並びながらゆっくりと歩いていく。特に男は少年よりはるかに大きく、普通に歩くと少年にはキツいだろうという思いから、男は少年の歩幅にあわせて本当にゆっくりと歩いている。
「おじさん今日の朝食はな~に?」
「今日の朝食はイチゴジャムのトーストとコーンのサラダ、トマトスープにハッシュドポテトとスクランブルエッグにソーセージだよ。いつもと同じ魔界伝統のオーソドックスな朝食さ。」
「えー……僕トマト嫌い……」
「おや、残さず食べた良い子にはフルーツヨーグルトでもと思っていたんだけどなぁ?」
「えっ!嘘だよ!僕トマト大好き!一杯食べるよ!」
「ハッハッハッ!それはよかった!テリーは良い子だね!」
「エヘヘ……」
そんなありふれた会話をしながら2人は大きな長机のある食堂にたどり着く。
食堂には豪華な調度品がきらびやかに光っているが2人以外には誰もおらずガランとしていた。
ただ長机の端、2人が向かい合わせになれるように並べられた朝食だけがいまだ温かいままに用意されていた。
2人は向かい合わせに座り朝食を食べていく。
少年は終始笑顔で美味しそうに食事を頬張り、男はそれを見てニコニコと優しそうな笑みを浮かべていた。
しかしそういった日常は長くは続かない。
誰もが求める温かい日常が続くこと、それを2人の立場がそれを許さない。
食堂の扉が開き、角のはえた魔物で初老の紳士が入ってくる。
その先程まで子供らしい笑みを浮かべていた少年が変わる。
眉を潜め、目をしっかりと見開き、口の端は真横に引かれる。
人によっては怒りにも見えるほどに厳格な顔つきになった。
そして何よりオーラが違う。
先程の少年らしい明るく元気なそれとは違い、重苦しく威厳あるものに変わった。
彼と向かい合わせに座る男も変わる。
優しく兄や父親じみたものから、まるで戦地に向かう兵士がごとく覚悟を決めた顔つきとオーラに変わる。
「陛下。国境付近の村で転移者と思わしき男と、アルガニタ国軍の兵が100人ほど確認されたとの報告が入りました。」
「そうか」
陛下という少年には不釣り合いに思える肩書き。
しかしそれに誰も否を唱えず、それが当たり前のようにしている。
そしてそれは正しい。
――――彼は正しく魔王なのである。
そして向かいに座る男もまた特別な存在なのだ。
彼ら2人は立ち上がる。
そして男が膝をつき、物々しい面持ちで口を開く。
「陛下、テリー・エンドウィン陛下、ご命令を。」
名前呼びもなくなり、男が完全に自分の役割を全うする。
少年もまた同様に魔王としての命令を下した。
「いいだろう!我が直属の戦力!『転移者転生者調教オークおじさん』こと対転移者転生者戦力『ラブグッド』よ!」
「我が魔王軍勝利のために!魔族領の栄光のために!!」
「転移者の首を取ってこい!!!」
「ハッ!!!」
これが優しき大柄の男
――――転移者転生者調教オークおじさん、ラブグッド
それが彼の正体であった。
あした続き上げます。