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平成生まれの二人の女子の会話

作者: 湖灯

 四月三十日、私は高校時代の吹奏楽部で一緒だった二つ年上の足立先輩と一緒にカフェに居た。

 相模川沿いにある窓の広い落ち着いた雰囲気のお店。


「平成も今日で最後だね」


 その足立先輩が言った。


「先輩にとって平成はどんな時代でした?」


「いろいろ言われているけれど、良い時代だったよ。特に学生時代はよく遊べたし」


 そう。

 私たちの生まれた平成の時代は学校が土曜日もお休みになって、勉強のペースもそれまでの詰め込み式からゆっくりになり、円周率もそれまでの3.14から3で計算しても良い事になった。


 いわゆる“ゆとり世代”


 世間ではそういう風に呼ばれているらしいけれど、私はまだ大学生だから他には何も感じなかったけれど、足立先輩の言った口調が少しだけ気になった。

 先輩は、この春から就職して社会人となり、今は研修真っただ中。

 屹度嫌なこともあるんだろうな。


「実はね……」


“そらきた!”


 足立先輩は、初めて会ったときは私に凄く辛くあたっていたのだけれど、そのうち仲良くなると2歳年上なんて感じられないほど、フレンドリーな関係になり、なんでも話してくれる。


「会社でなにかあったんですか?」


「そう。教育係の課長が昭和生まれでね、もう直ぐ令和になるって言うのにイチイチ昭和と平成を比較してくるのよ」


「どんなふうに?」


「たとえば昭和の人たちは皆就職して一所懸命働いたのに平成生まれの若者は働かなくてフリーターだの自宅警備員だの好き勝手な事ばかりして、おかげで年々年金の受給額が減らされるとか」


「酷いよね、それって。もともとそれは昭和の人たちが派遣社員法とか考えだして、若者たちから就職の機会を奪ったようなものなのに」


「でしょ。誰だってまともに就職できるのなら、就職したいわよ。ボーナスだって貰えるし、なんだかんだ言っても終身雇用だから自分で辞めない限り生活の見通しも立つもの。バイトとか派遣社員みたいにボーナスも貰えないし、いつ切られるか分からない身分の人間を好き勝手使っているほうにこそ問題あるんじゃないの?」


「そうよね。就職が狭き門になって、仮に就職してもそこがブラック企業だったら生活も安定しないし、子供も沢山作れないわ」


 いじめの問題だって、この社会構造が大きな要因なのではないかと思ったけれど、それは確固たる裏付けがないので言うのを止めた。


「それに暇さえあればスマホ触って居るって」


「だって、それは、そういう物があるからでしょ。そのおかげで出先からも社員にタイムリーに連絡や状況報告させて便利に使っていることも忘れちゃいけないわ。会社のスマホを持たされている方こそ、今どこで何をしているとか会社に筒抜けなんだから、ちゃっかりしているわね。それに昭和のオジサンなんかでも、しょっちゅうスマホ触っているし」


 年号で人を、ひとくくりにしてしまうのは止めて欲しいと思った。

 そんなこと言っていたら神戸の地震も、東北の地震も平成のせいになっちゃうじゃない。

 と、これは我ながら飛躍しすぎ。


「そんなに昭和ってよかったのかな?」


「最初は戦争とかあって沢山人が亡くなって、大変だったと思うよ。それで働く人口が減っているのに高度成長期が来て、高校さえも行けずに就職した人たちも沢山いるって聞いたことあるわ」


「結構今と逆みたいな環境ね」


「だよねー。今は就職するために、どうしても大学だものね」


 窓の外を厚木飛行場に降りるためなのか、飛行機が低空をゆっくりと飛んでいく。


「これから、どうなるのかな?」


「これから、どうなるのか分からないけれど、歳をとって私の会社に令和生まれの子たちが入って来たときに、愚痴だけは言わないつもりよ。逆に令和の子たちに言ってあげるの。いい時代に生まれてよかったね。一緒に頑張りましょうねって」


 足立先輩の言葉を聞いて、家に残してきた犬のロンのことを思い出していた。

 そう犬は褒められることで色々と物事を覚えて吸収して行き、良好な社会性も身に着ける。

 私も、そうしよう。

 令和生まれの子供たちが伸び伸び育つように、彼らを褒めて育てよう。

 そうすれば社会ももっと好い方向に変わるはず。


「ようこそ令和の諸君!」


 年号は、ひとつの時代の区切り。

 新しい年号で、屹度時代も変わるはず。

 窓の外を見ると、青い空に真一文字に白い線が引かれ、果てしない未来へ続いているように見えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 令和の新人は何世代と呼ばれるのか。 楽しみですね。
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