新しい生活を始めるオトコの娘
こんにちは、初めまして。
夜宵 仁 (やよい じん)と言います!この物語、自分の妄想を文字に書き起こしたもので、自分のやりたい事やヤリたい事をします(多分)。
オトコの娘という今では一般的な属性だと思いますが、良かったら読んでいってください!
「楓ー!そろそろ引越しの人来ちゃうわよー!」
無機質でまるで新築のように何も無い部屋に遠くから木霊するように声が響き渡る。
「はーい!この段ボールで最後だからー!」
ニーチェの有名な言葉で『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』とあるように、室内に響いた声が元ある場所に帰るようにもう1つの声が室内からドアを抜けて下の階に響く。
後者の声は男性の声と言われ難く、しかし女性の声と言われても少しばかり不自然に感じる中性的な声をしていた。
すらっと伸びた細い足先、肉付きの良い太ももに程よい括れの腰。そこだけ男を主張しているような平たい胸、100人中90人位は女子と言いそうなあまりにも可愛すぎるルックス。
僕は篠崎 楓。
高校2年生の16歳です。
女手一つで僕を育ててくれているシングルマザーの奏の仕事の都合で引っ越すことになって、今日まさに引越し屋さんが来る日です。
荷物をまとめて殺風景になったこの家にもお世話になったなぁ、僕が育った家でもあり帰る場所だった、幼馴染と毎日のように遊んだりしたけど親の転勤で別れちゃったり、お母さんが誕生日を祝ってくれたりもした。色んなことがあったなぁ。
そんな事を思い出しつつ段ボールを抱えて階段を気をつけて降りていると、車の音の後にインターホンが機械的な音で鳴る。
はーい、と母が玄関を出て引越しの人と一言二言交わしお願いしますと頭を下げて来た。こちらも会釈程度で挨拶を返したところ、引越しの人が
「可愛らしいお嬢さんですね、お名前をお聞きしても?」
男なんだよねぇ…と思いつつ、正直訂正するのもいささか面倒だったので、スルーする事にした。
「篠崎 楓です、今日はお願いします」
と、今度はちゃんとお辞儀をして自己紹介した。
もう女の子と間違われるのは頻繁にあって、内心諦めている所もあるので今更気にしない。
もちろん自覚は少しだけあるよ、男の人には見えないし、自分男ですよと言っても即答で否定されるのがオチ。
だいたいお母さんが買ってくる服が女の子っぽいからより一層酷くなるんだよね…
まぁ、それを渋々着てる自分もアレだけど。
話が逸れた。
とにかく今は荷物をトラックに積むのを手伝おう。
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作業を終えてトラックと一緒に母の車に乗り新居に向かう。
これから向こうのは母の知り合いが管理人をしているアパートだ。
一応仕事の関係でも部下と上司の関係だけど、うちのお母さんは大手ファッションブランドの社長で今から会う管理人さんはデザイナーの仕事をしているらしい。
デザイナーとしての評価は高くバンバン売上を伸ばしているけれど、デザイナーって家でもパソコンとかあれば出来るから、いつも家にいて会社に行くのは週に一度だけらしい。
まぁ、引きこもりっぽい感じだけど多分大丈夫だよね?
現在は車で移動中。ふと、母に質問をしてみる。
「ねぇ、お母さん?」
「何かしら?」
「アパートに住んでる人って管理人さんの他にどんな人がいるの?」
特に理由はないけど、気になったので聞いてみると、
「そうねー、私も数回しか言ったことないから…あ、隣に住んでるのは美咲だけどもう反対に住んでいるのは確か一人っ子さんのいるご家族だったわね、確か中学生くらいの」
なるほど…美咲というのは多分管理人さんの名前だろうか…。中学生かー、仲良く出来るかなー?
男の人かな?ゲームの話とか出来る人とか欲しかったんだよねぇー。
先程から言っているけど僕も男だ。ゲームも好きだしアニメも見る。ラノベもよく読むし、最近は本屋さんで新連載されたラノベを探すのに夢中だ。
けれど、僕の周りはどうしてか女子がいつも囲んでいる状況だった。
休み時間も、帰り道も、放課後の寄り道もほとんど女の子達と一緒だった。
おかげで、あれ?僕って女の子なのかな?って思った時期があったくらいだよ(笑)。
気になったので、ある1人の女子に理由を聞くと、『こんな可愛い子を他の男子にあげれる訳ないじゃない!』と言われた。
自分もあんまりその頃は気にしてなかったので、そのまま過ごしていた。
とまぁそんな状況にいれば男友達の一人や二人は欲しくなるものである。
学校の帰りに寄り道したり、休日に遊んだり、正直そうゆうのに憧れていた。
そうこう考えてボーッとしていると、一時間程度で目的地のアパートに到着した。車を降り、辺りを少しキョロキョロしてみる。
全く見慣れない風景。前より都会って感じがする。少し遠くに高い建物が並んでいるのがそれを教えてくれていた。
車の交通量も少しばかり多くなっていた。
引越し屋さんと一緒に荷物をトラックから降ろしていると、アパートの1階の一番端の扉が開いた。
その部屋は僕達の新居の隣の部屋だ。
てことは隣の中学生の子?!
と思ったけど現れたのは僕より背の高い女性だった。
とても美しいの一言で表せないほどその人は綺麗だった。
腰まで伸びたライトブラウンのロングヘアー、笑みを浮かべる表情、白のカーディガンの中のシャツは胸元で苦しそうにぎゅうぎゅう膨らんでいた。
ピンクのロングスカートから覗くふくらはぎと足首、その下に履いていたのはなんとも似合わない普通のスリッパだった。
「あ!奏先輩!こんにちは〜、今着いたんですね〜」
その口調はなんともおっとりとしたもので、それでいてはっきり耳に届く声だった。
「あら、こんにちは美咲。今日からよろしくね。」
そう言って母は挨拶を返す。
この人が美咲さん…想像してたよりも凄く綺麗だなぁ…。
歳はお母さんよりだいぶ下かな?20代前半くらい?
つい見とれてじーっと見てしまっていたので向こうもこちらの視線に気づき、向き直って歩み寄ってきた。
「初めまして、楓君だよね〜。先輩から聞いてたけどほんとに可愛いわねぇ〜、実際に生で見るとこれはなかなか〜…」
と、初めの方は挨拶をしてたのに頭からつま先まで見定めるような視線で見られ、何かボソボソと言い始めた。
にしても、歩いてる時に目の前で胸がリズミカルに弾むので非常に目のやり場に困る…。
耐えれず下を向いてしまった。
「こ、こんにちは…し、篠崎 楓です…。」
つい緊張して言葉が詰まってしまった。
「私は岬 美咲、ここのアパートの管理人、変な名前だけどよろしくね」
なんとも言えず、もじもじしていると
「美咲、ダメよそうゆうのは。楓には刺激が強いわ」
気づいた母がそう言うと美咲さんは母さんが言っていることに気づき、はーいと言って僕の前から離れた。
傍から見たら過保護っぽいかもしれないが、言っていることは間違っていないと思う。
僕は誰かと付き合ったことがないし、そうゆう経験もない。
先程も言ったように僕の周りはほとんどが女子でみんなが僕と仲良くしてくれていたから、僕が誰かとそうゆう関係になるのは罪悪感というか、悪い気がしてた。
あ、でも恋愛を否定してるわけじゃないよ。
ラノベとかでよくあるドキドキする恋の作品は僕も好きだし、憧れる。
だからこそ僕は『みんなで仲良く』っていうのを貫いてた。
中には思いを伝えてくれる子もいた。とても嬉しかった。
けれど僕はその気持ちを無残に散らしてしまった、そのことにもまた僕は罪悪感を抱いている。
どうすれば良かったのかは未だに分からない。けれど、今まで行ってきた行動も1つの正解なのかもしれないと思ってる。
また話が逸れた。
まぁ、とにかく今の僕には美咲さんと話すのはちょっと難しいかもしれない。
そんな回想をしている間に美咲さんは引越しの手伝いをしてくれていた。
僕も行かないと。
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「ふぅ…こんなものかしらね。」
母さんが大きく息を吐いて作業の終了を知らせる。
だいたいの荷物は運び入れてあとはダンボールくらいなので僕たちだけでも出来そうだ。
母さんが引越し屋さんと言葉を交わし撤収の準備を始めた。
その後、引越し屋が帰った後に美咲さんはとも話をしてアパートの間取り図や説明をしてもらった。
間取りは3DKのお風呂とトイレ付きの冷暖房完備の結構いいお部屋だ。
説明をしてもらいながら母さんが口を開く。
「そういえば楓、あなた自分の部屋無かったからあそこの部屋、あなたの部屋でいいわよ。」
「え!いいの?!」
「ええ、楓ももう高校生だし親子でもプライベートは守るべきでしょ?」
「あ、ありがとう!お母さん!」
やった!前の家は寝る部屋がお母さんと同じで自分の部屋が無かったから引越しが決まった時はちょっと期待したんだー、これでラノベか堂々と並べられる!
タペストリーとかも掛けちゃおうかな〜、えへへ〜…
僕が余韻に浸っているとその様子を見た美咲さんは
「へー楓君のお部屋かー、私も今度遊びに行ってもいい?」
「うん!…ぁ」
しまった、つい反射的に答えてしまった。
タペストリーは流石に引かれるかもしれないから辞めておこうかな…。
まぁ、でもそうすると僕の部屋に置くものあんまり無いかも。
テーブルと座椅子とあとは小さめの棚が2つくらいかな?
あ、ベッドもか。
うーんなんかイマイチだなぁー。
もっとこう男の子!って感じの部屋にならないかなー。
でも、どんな感じのか男の子の部屋なんだろう…。
ゲームはするけどテレビはダイニングにあるし、スポーツとかはしてないからユニフォームとか飾れないし、うーん…どうしよ。
そもそも男の子の部屋に入ったことないからわかんないんだよね。
女の子達と一緒に誰かの家に行かせてもらったことがあるけどもちろん女子の部屋だったし。
どうしようかと悩んでいると、お母さんが僕に問いかけた。
「それもなんだけど、あなた明後日から学校だから準備とかしておきなさいね」
それでようやく思い出した。そうだ、もうすぐ新しい学校なんだ…。
「僕、新しい学校でも上手くやっていけるかな…。」
そう言った途端、母さんと美咲さんが心配そうな目をした。
僕はこんな見た目だし、それがきっかけで誰かに弄られたりするかもしれない…。
それが少し、いや…正直に言うと怖い…。
前の学校はむしろ良い環境だったかもしれない。
常に周りに女子がいて、男子が近寄れない日々だったからいじめっ子が接触出来なかったのかも。
だから、心配だ。
次の学校もそうゆう状況になるか分からないし、そんなことにならない方が可能性としては大きい。
男子からいじめられて、女子から男らしくないと思われたらもう学校に居場所なんて無くなってしまうかもしれない。
「上手くやって行けるかはあなた次第よ、楓」
「お母さん…」
確かに言う通りだ。周りからの見られ方もそうだけど第一印象を決めるのは僕自身の行動だ。
ちゃんとみんなにクラスの1人として認めてもらえるように頑張らなきゃ!
「わかったよ、僕…頑張ってみるよ!」
「うん!私も応援してるよ〜。」
美咲さんがガンバレガンバレとジェスチャーをとる。
学校に行くのは明後日だ、それまでに色々準備しておこう。
僕の新しい学校生活がもうすぐ始まる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次の話も時間があり次第書くつもりです。
応援よろしくお願いします。