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OVERWORLD’s  作者: swallow drop
3/3

3話 馬鹿野郎

トウヤを庇い、ロマーニアの光線を直に浴びる。直前に避けようとした事が功を奏し、胴体の中心は避けられたが、右肩から先が吹き飛んだ。


(痛い痛い痛い痛い痛い痛い!神経あるのかよ!どうなったんだ?!あぁ、やっべえ右腕どっか行ってる!)


痛みに悶え、体を捩らせるユウマ。霞む視界の端ではトウヤが必死に戦っている。


(あぁ、俺死ぬのかな…。死にたくねぇなぁ…。悔しいなぁ…。)

《起きろよ。ユウマ。まだまだこれからだぜ。》


ーーダメだ。この声に流されちゃダメだ。

Beastにも似た声にユウマの指先がピクりと動く。目の光がだんだんと強くなり、体のラインがより一層赤く輝く。


(悔しい…悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい!)

(やめろ!止まれ!)


背反する2つの思想がユウマの中でせめぎ合う。左腕でなんとか体を起こす。まだトウヤが戦っている。光線と刀では間合いが違う。次第にトウヤが防戦一方になって行く。


(負けたくない負けたくない負けたくない!)

(あぁっ!止まってくれ!これ以上は嫌だ!)


《おい…ユウマ…こりゃ何だ?お前…なんだよこれ…!》


なんとか立ち上がる。体が再生してはいるが腕が片方ない。はずだった。


(殺す…殺す殺す殺す!殺してる!)

(やめろ!止まってくれよ!)


誰にも聞こえない叫び声をあげる。ユウマの体は頭を抱え、フラフラとのたうちまうるように体を震わせる。

ビーストは何かを理解し、こらえるように悔しそうな声を出す。


《なるほどな。お前が俺みたいなやつの適合者なのはおかしいと思ってたんだ。合点がいったよ。逆だったんだな。》


吹き飛んだはずの腕は見事に再生していた。しかし、左腕でとは全く異なるものだった。より大きく、赤のラインとより黒に近い赤のラインの2本が入っている。

口の無いはずのその顔が裂け、牙を持った凶暴な口が現れた。


《よぉ、ユウマ。力を貸すぜ。》


ーー、最悪だ。

それはビーストの声では無い何者かの声だった。

その声でユウマの中の何かが外れた。


「《ヨくモ!殺シてヤるゾ!》」


それはビーストとユウマ、2人の声が混じったような歪な叫び声をあげる。

歪な右腕に赤黒いオーラ。誰が見てもあんなものは人間だったなんて信じないだろう。その近くにいるだけで恐怖で動けなくなるほどの明確かつ強大な殺意。

フラフラと立ち上がり、真っ直ぐロマーニアを見据え、その目を爛々と紅く怪しく輝かせる。

そのエネルギーはユウマの辺り一面に2~3mはあろうかという結晶を乱立させ、何体かは串刺しになった。

ユウマが最後に残った1体の頭部を右手で握りつぶそうとする。ロマーニアはそうはさせまいと光線を放つ。

その光線は腕ごと吹き飛ばすかと思われたが、光線は指と指の間から流れる水を手で遮る様に指と指の間から漏れただけで、ユウマの体は全くの無傷だった。

その威圧に本部の中の2人は膝をすくませてしまった。

ガーディアンがミオの方を向き、諭すように声をかける。


《ミオ!あなたの力なら彼を元に戻せるかもしれません!今すぐ変身しましょう!》


ミオはガタガタと震え、ガーディアンの声は届いていない。

そんなミオを庇うようにアミが1歩踏み出してスナイパーに訴える。


「Sniper!私が変身する!」

《私の能力はその名の通り「銃」です。あの場に火力はもう足りています。恐らくあの状態は彼にとってロマーニアなど塵に等しいでしょう。》


Sniperはアミに冷静にそう告げる。


「……でも!」

《必要なのはそれを「癒す」力です。Guardianは「護り」、そして「癒す」力。あの歪な腕が今回の暴走の原因でしょう。普通胴体の近くから再生します。でも胴体と肩をすっ飛ばして最初に腕を再生させました。そしてあの腕は…私達とは根本的に何かが違う!》


スナイパーはさらに付け加えるように話す。その声色には恐怖が混じっていた。

アミも自分がこの事態に意味の無い事は理解していた。が、認めたくなった。


「でもそれじゃあミオにもどうしようも出来ないんじゃ…。」


アミは愚痴のように、力になれず悔しい気持ちを抑えるように、絞り出すように小さな声で言った。

ガーディアンは諦めず、必死にミオへの説得を続ける。


《治す力でもどうにもならないかも知れませんが…それでも可能性には縋らなくては!ミオ、立ってください!》

「あぁ…ひぁッ…私は…。」


ガタガタと震えるミオにはこれ以上何かを言うことは出来ない。

アミはワナワナと体を震えさせ、奥歯を噛み締める。

もう堪えきれないーー煮え切らないのは嫌いだ。


怒りに燃えたアミの鬼の形相にその場は凍りつく。


「もういい…私が行く。ユウマを絶対に止める…止めてやる!」


ーーでも、自分が何も出来ないのは、もっと嫌いだ!

目をカッと見開いて、流れた悔し涙を拭いてSniperにそう言った。


《勝算はあるんですか?アミ。》

「ある。絶対になんとかする。」


ユウマは潰したロマーニアを口に運び、バキバキと噛み砕いてそれを呑み込んだ。

首がトウヤの方を向き、紅い目でトウヤを捉えフラフラと歩み寄る。

トウヤは恐怖で膝をつき、刀で体を支えている状態で、もはや逃げることは叶わない。

お前もだ、と言わんばかりにユウマが右手を振り下ろす。


「さっさと目ェ覚ませユウマの馬鹿ヤロォォ!」


ユウマに拳を振りかぶり、大声を上げて飛び出したのは1体の黄色いラインの人型のリベリオン、瀬戸アミ。

振りかざしたその拳はユウマの頭部に直撃する。

しかし直撃を受けたはずの体は1ミリたりとも動かなかった。が、振り下ろした右腕はすんでのところで止まった。

トウヤとアミの変身は解かれ、しばらく動かないユウマを息を切らして見守る。

すると胴体から次第に右腕だけを残して変身が解かれ、頭から地面に倒れる。咄嗟にアミが駆け出し、抱きついて気絶したユウマの体を支える。


「人のためになるなら自分がどうなってもいい、か。」


ユウマの体をより強く抱き締めて、涙を流しながらアミは過去を思い出す。


「馬鹿野郎。何があっても変わらないんだね。」


ユウマを元に戻せたことか、それとも別の理由か。涙をポロポロ流し、嬉しそうに微笑んだ。


「私も変わらないよ。」


耳元で囁いたその声は、誰にも届かないで消えていった。



「また、ここか。」


昨日運ばれた部屋と一緒、つまり救護室だ。

白い天井を見上げ、ユウマは目を覚ます。


(また記憶が曖昧になってる…。)


記憶が曖昧に、と言っても多少靄がかかる程度で、何が起きたのかも覚えている。

あの時聞こえた声は何だろうか、誰だろうか。

恐ろしいあの声。それはユウマが暴走する前に聞いたあの声だ。

しかし今のユウマにとってそんなことはどうでもよかった。

そう。しっかり覚えている。


(あの時俺は!トウヤを殺そうとした!)


布団にくるまって、自分自身の過ちに恐怖を覚える。

もし止めてくれなかったら、と考えるだけで吐きそうになる。


《あれはお前のせいじゃねぇだろ。》


仰向けになった拍子にその言葉は聞こえてきた。


「…いたのかよ。」


ユウマは自分の胸を見ると小さな結晶が埋め込まれていることに気づく。恐らくBeastは自分の体の中にいたのだろう。そしてこの結晶から出てきたんだろう。


《ありゃ誰なんだ。心当たりは?》

「無いよ。」


心配そうに声をかけるBeastに素っ気なく返事をして、背中を向ける。


《怖いのか。》

「……。」


当たり前だ。自分は人を殺そうとしたんだ。

過去の記憶がないことが余計にこの恐怖に拍車をかける。


《アミが来てるぞ。》

「そうか。」


リベリオンは扉を隔てて向こうの廊下からアミの気配を感じとる。

もうユウマにとってそんなことはどうでもよかった。アミは自分のことを慕ってくれているらしい。でも、それもこれまでだ。きっと幻滅してるだろう。怖いだろう。どうせ今来てるのも誰かに言われて仕方なくなのだろうと、そう考えた。


《ウジウジしてんじゃねぇよ。》

「うるさい!お前に…何がわかるってんだ!」


イライラし始めたBeastの言葉に過剰に反応したユウマは声を荒らげる。


《分からねぇさ!だけどお前もだろ!お互い様だ!》

「俺が!何を分かってないって!?」


2人はベットの上で激しい論争を繰り広げる。

その声を聞く者が、扉をのすぐ側まで来ていた。


《お前は分かってねぇんだ!だから怖ぇんだろ!?》

「そりゃ怖ぇよ!自分が何者かもわからず!誰かに体を支配されるんだ!怖くないわけ無いだろ!」


扉のすぐ側まで来たアミだが、中から聞こえてくる2人の大声に扉を開けようとして、取っ手を握ったまま固まってしまった。


「どうせアミが助けてくれたのも誰かに言われたからだ…。全員俺がおかしくなったのを見てた…。誰も信じないだろ、"あれをやったのは俺じゃない、正体不明の何かだ"なんて。」


ユウマは涙を頬に伝わせて、思いを口にしていく。


「みんな俺があんなのだって思うだろ。きっとそうだ。」


シーツを握りしめて、悔しそうに泣き出した。


「アミだって怖かっただろ。」

《おい、ストップだ。》


Beastはアミがすぐ近くで聞いているのに気づいた。

しかしユウマの耳には聞こえていない。


「親しかったんだろうな。昔の俺とは。」

《それ以上は不味いぞ、ユウマ。》


これから先のユウマの言葉は、恐らくアミを傷つかせる。これ以上は聞かせてはならない。


「今はどうだ…いくら親しかったとしても幻滅しただろ。そうだよな…当たり前だ。俺にもう価値なんてないのに!無理してこんな俺を助けなくてもよかったのに!」


扉の向こうのアミは取っ手を握り締め、その顔から零れる涙は床を濡らした。


(違う。私は幻滅なんかしてない。助けたのは自分の意思。)


頭では分かっていても、扉を開けてそれを言う勇気がない。

言っても信じてもらえるのだろうか、また誰かにそうさせられたんだろうと思われるかもしれない。

それではユウマを苦しめるだけだ。


「…どうせ俺は…。」

(違うよ。ユウマ!)


目の光を失い、ブツブツと虚空に向かってユウマは呟く。

アミは心の中で否定する。


「俺は…どうすればいいんだろうな。」

(扉が開かない…鍵なんて無いのに…私に扉を開ける勇気がないから?みんなを騙した私にはやっぱり…。)



それは、氷を砕くかのような音だった。

アミの目の前の扉が大きな音を立てて崩れ落ちた。

欠片の一つ一つをよく見ると断面は綺麗に斬られていた。

扉の破片を蹴り飛ばしながらずかずかとトウヤが刀を握りしめながら入ってきた。

ユウマはトウヤの方をちらりと見ると不気味な笑みを浮かべた。


「よぉ…トウヤ。人殺しに何の用だ?」


呆然とするアミをよそに、欠片を蹴り飛ばして救護室の中に入っていったその男は叫んだ。


「お前は悪くねぇ!むしろお前に助けられた!俺は生きてる…。お前は人殺しなんかじゃねえ!しっかりしろよ!」


変身はしていなかったが、その男、トウヤは刀を右手で握りしめて左手でユウマの方を揺すった。


「お前は命の恩人なんだよ!胸を張ってくれ!」

「……。」


目の光は戻り、唖然とトウヤを見つめる。

トウヤは膝をついて頭を下げる。


「過程はどうでもいい、俺はこうして生きてる。それだけでいいだろ。本当に、ありがとう。ユウマ。」


ふぅ、とため息をついたような声を出すBeastをよそに2人は目を合わせて光の差し込む救護室で微笑んだ。

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