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ホロ苦アイス

作者: 野脇幸菜

元旦が明けた2日すでにお節料理には飽きていた。


こんな正月を過ごすのももう何年目だろうか。


毎年帰省するのも面倒だが、お盆に帰ってこない分、親は口うるさく帰ってくるようにせかすのだった。


なので正月くらいには帰ってくるようにしているが、就職すれば帰省せずにすむように言い訳できるだろう。


寒いなぁ。雪でも降るかもな。


そんな中、体というか舌はアイスを要求していた。


正月の塩辛い料理やごちそうに舌が飽きてしまったらしい。


冬に何度かアイスが食べたくなって食べるのだが、食べ終わる頃には寒さと甘さのの限界に苦しまされる。


コンビニに入るとお節料理や餅に飽きたと思われる客がカップめんや菓子に手を伸ばしていた。


アイスのコーナーの前に来ると並べたてのような状態だった。


夏には底が見えてくるほど減っていて、もっと多く仕入れとけよと思うのだが。


冬はこの状態、仕入れすぎだよ。


寒さで買うのを少し躊躇しそうになったが、塩辛い食べ物や酒に飽きた舌がそうはさせてくれなかった。


買うものは決まっていた。サクッとした最中の市販のアイスの中では高めのものに手を伸ばした。


バイトを始めると値段を気にして買っていたのが嘘のように高めのお菓子に手を伸ばすのだった。


「鈴木くんじゃない?」


「えっ」


後ろを振り返ると同じ年くらいのかわいい女の子が立っていた。


髪は肩くらいで軽くパーマがかけてあって白い肌にピンクのチークがほんのりとのっていた。


まじまじと見つめて記憶の中から三秒ほどして掘り出した。


「広瀬?」


「そうだよ。ぱっと見すぐにわからなかった?そんなにあたし変わったかな。私はすぐにわかったよ。久しぶり。今どこの大学行ってるの?それとも就職した?」


広瀬はハイのスイッチが入ったらしくテンション高く話し始めた。


そして、それはもちろん自分にも当てはまっていた。


「大阪の大学に行ってて正月だから実家に戻ってるんだ。中学から全然会ってないよな。びっくりしたよ。急に誰か話しかけてくるから。広瀬は今どうしてるの?」


「あたしも大学生だよ。東京の大学に行ってるんだ。ホント中学から会ってないよね。クラス会とかも何回か会ったけど鈴木くんとクラス違ったし。部活の集まりも無かったしね。それとも私たち女子マネージャーは外してやってるわけ?」


「やってねーよ。俺ら別に強いチームじゃなかったから、あんま連帯感無かったからな。集まりとかしてないんだよ。」


「今度やろーよ!みんな集まってさぁ。」


「集まるかなぁ?」


「そこは鈴木君が何とかしてよ。」


「広瀬やれよ。」


「あたし原君と浜やんくらいにしか卒業して部員で会ってないなぁ。」


「原は同じ高校だったから割と会ってたけど、浜やんは会ってないなぁ。元気だった?」


「うん。あたしが会ったのは高校のころだけどもう就職してるらしいよ。浜やんが社会人だよ。」


「社会人かぁ。俺まだこれからなる実感さぇねーよ。知ってる金沢なんか結婚したんだよ。」


「えーそうなんだ全然知らなかったよ。できちゃったから?」


「そうらしいよ。」


「パパじゃん。」


想像すると二人とも笑っていた。


それくらい金沢は結婚を想像できるような顔でも性格でも無く、誰よりも早く結婚するとは思えない人物だったからだ。


「何買うの?」


「アイス。」


「アイス?こんなに寒いのに?」


「食べたいからだよ。」


「アイスねぇ。ちょっと待ってて。あたしもすぐ買うから途中までだけど一緒に帰ろうよ。」


「わかった。」


「アイスねぇ。冬にねぇ。」


と繰り返しながらお菓子売場に向かっていくので


「うるせーよ。」


と聞こえるように言い返してやった。アイスを買って雑誌売場で表紙に目を通していた。


「ごめん待たせて。」


「おー。」


コンビニを出ると寒さは増していた。


広瀬はマフラーをきつく巻き直していた。


「よく部活の帰りに二人で買い食いしながら帰ったよねぇ。」


「だよなぁ。あの頃はとにかく何か食ってたよ。」


「そうそう。あたしなんか顔パンパンだったし。」


「そんなこと無かったよ。」


「ホント?気ぃつかっちゃって。」


「眉毛はひどかったけどな。」


「あーそれは言わないで。」


「カクカクしてたよな。」


「やめてぇ恥ずかしい。あの頃はまだ形が定まってなかったの。そんなとこ覚えてなくていいから。」


広瀬は眉毛を隠しながら顔を真っ赤にしていた。


広瀬とは同じ部活で、帰りの方向も同じだったためよく一緒に帰っていた。


何故かどこか気があって楽しかった。


そしてその頃、俺は広瀬のことが好きだった。


広瀬は明るい性格でいつも笑って、誰の懐にもすっと入り込めるやつだった。


中学3年の夏休みに入る前の部活帰りに、俺は広瀬に告白しようと決めていた。


部活を終えての帰り道、俺たちはこのコンビニに立ち寄った。


広瀬はイチゴ味のかき氷のカップを買って、俺は少し贅沢して夏だけ置いてあるソフトクリームを買った。


2人とも汗を拭きながら、重い足取りで帰っていた。


俺は暑さだけではなく、告白しなければならないという緊張感があって、さらに足取りは重かった。


タイミングを伺いながら、ソフトクリームを舐め始めた。


ドクン!ドクン!と心臓が高鳴って暑さからではない汗が体中からふきだしていた。


「なんか今日暗くない?」


「そうか?」


「あんまり喋らないね。」


「疲れたからな。」


「そうだよねぇ。あいつこんなに暑いのに練習メニューいつも通りにやらせて、休憩も少なかったもんね。」


「だよな。加減してくれればいいのにな。」


また、沈黙になった。勇気が出せない俺はソフトクリームをすすめて広瀬がいると言ったら、告白しようと変な考えが浮かんで、それに賭けた。その時は少しでも自分の気を紛らわせたかったのだろう。


「広瀬アイスクリームいるか?」


「えっ、そんなのいらない。」


告白できない。


俺はショックを受けてしまった。


断られたからではない。


広瀬の答え方、今まで見た中で一番冷たい表情と声のトーン。

それが俺の心を砕いた。


気にならないような断り方だったら、俺はその後にでもタイミングをはかって告白していただろう。


というよりも告白しようとしていたため、余計オーバーに冷たく感じて、ショックを受けたのかもしれない。


それに、俺は広瀬も俺の事を好きだと思っていた。


そんな自分の自信が無くなって、自分の中の味方がいなくなったからかもしれない。


アイスクリームはただ冷たさを感じるだけになった。


俺は告白を諦めた。


その後の、沈黙の帰り道は思い出したくもない。


それから部活帰りに、広瀬と帰らなくなった。勝手に自分で気まずく感じて、部活が終わるとすぐにダッシュして帰っていた。


部活はやがて引退になり二年生に取って代わられ、広瀬とは顔を合わせる事もなくなった。


「鈴木君?」


「えっ?」


「ボーっとしてたよ。」


「そうか?」


「時々、変なときあったよね。」


「そんなことねーよ。」


「今度ちゃんと集まろーね。」


「嫌だよ。」


「ハッハッいいじゃん。あっ!じゃーね鈴木くん。駅にパパが妹を迎えに来たから、ついでに付いてきたの。ここでお別れ、元気でね。」


「おう。」


「あっそれと中学の時、あたし鈴木のこと好きだったんだよ。今は彼氏いるけどね。じゃね!」


そう言うと広瀬は駅に停めてある車に向かって走っていった。


広瀬は全然変わっていない。


付き合えていたならどんなによかっただろうか。


ひ弱な中学の時の自分に嫌気がさした。


もっと俺、あの時頑張っとけよ。


歩きながら俺は暑くなっていた。


なんか恥ずかしい。


アイスを取り出して食べた。


いつもよりさらに甘く感じたが美味しい。


雪も降ってきたが、体はポカポカしていた。


携帯が鳴った。


大学の彼女からだった。


「今何してんの?」


「アイス食ってる。」


「こんな寒いのに?」


「うるせーよ。」

最後まで読んでいただいてありがとうございました。このくらいで諦めるかとも思いますが、思春期の頃の勇気の無さと傷つきやすさ、そして今ではそんな自分をアホらしく思う姿を描いてみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイスをめぐる青春ちっくなはなしがおもしろいとおもった。会話が自然なかんじでよかった。アイスをもう一度食べないって聞いてみるっててんかいが自分的にはおもしろいとおもった。
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