第2話 姉を探して
今回はグロいシーンが出てきますので、読む方はあらかじめ覚悟しておいてください。よろしくお願いします。余談になりますが、本日はこの物語の主人公と、その双子の姉の誕生日となります。
白龍は森の中をさまよっていた。
星空が目立つ頃、深い深い森の中で異様な空気に包まれ、白龍は、だんだん心細くなってくる。
「なんで暗くなってから出てきてしまったんだろう……」
姉に会いたい一心で神社を飛び出したものの、白龍は少し後悔していた。
ふと、一人の少女と出会う。不思議なオーラを放っている少女だ。
少女は、紫のフード付きマントを羽織っており、フードを深く被っているため、目を合わせることができない。
白と黒を基調とした服装がマントの合間から覗かせていた。
「あの、すいません! レイランの森に行きたいんですけれど……」
少女は立ち止まり、白龍の方を振り向く。
一瞬、白龍は少女と目が合った気がした。
「それなら、ここがレイランの森よ」
「あ、ありがとうございます!」
白龍は安堵の息と共にお礼を言う。
少女が何事もなく歩き出した。
「あのっ――!」
白龍はその声になぜか聞き覚えがあるように思えて、少女に声をかけると、少女はこちらに振り向く。
「何?」
白龍はゆっくり息を吐くと、真剣な眼差しで少女を見つめた。
「……どこかで会いましたか?」
その問いは唐突なものだった。目覚めてから出会ったのはユリカとシャミアの二人だけ。当然会ったことがあるはずがない。だが――
「さぁね」
少女から帰ってきた答えは意外だった。何事も無かったかのように少女は再び歩き出す。
「えっ……」
気になったのは、少女の答えだけでなく、白龍自身が少女に懐かしい感じがしたのだ。不思議な空気に包まれ深く考える白龍だったが、考えることをやめて先を急ぐことにした。
フクロウの鳴き声が鳴り響き、生臭い匂いが漂う。辺りの木には血が染み付いていた、白龍は目を丸くして驚く。
その異様な光景に、一秒でも早くこの場を去りたいと本能的に思い、急ぎ足で奥へと進む。
どんどん奥へと進むと、頭よりも大きい血溜まりを目の当たりにする。
その血溜まりから引きづられたかのような血の痕跡があり、白龍は少し抵抗があったが、怪我人がいるのではないかと思い、それを辿っていった。
「どうして、こんなに血が……」
白龍はますます不安になっていくが、何があるのか気になりためらいなく進む。
痕跡は木々を抜けた先にある小さな洞穴に続いており、その入口へ差し掛かった瞬間――
「うっ――?!」
鼻を突き刺すような異臭に思わず白龍はむせかえる。
呼吸もままならないが鼻を抑えて我慢し、その奥に何があるのか知るために恐る恐る進むと、そこは人影があった。
「誰か――いるの?」
初めは暗くて分からなかったが、雲に隠れていた月が顔を出すと、月明かりで辺りが明るくなった。
白龍がゆっくり近づくと、その光景に絶句する。
――そこには血だらけになった人が横たわっていた。
顔は暗闇のせいで分からなかったが、長く青い髪にミニスカート。それは考える限り女の子だった。
そして、横たわっているように見えたが、よく見ると死んでいたのだ。白龍は思いきり叫ぶ。
「いっ、いやぁぁぁぁ!」
すると、洞穴の奥からヒタヒタと足音が聞こえてきた。白龍は息を呑む。
「獲物、見つけた――!」
反響して白龍の耳に届いた初めて聞くその声は、心を掻き毟るような激しい不快感を与えた。
白龍は慌てて洞穴を飛び出し、洞穴から真っ直ぐ続く一本道をひたすら走り続ける。
ところが、すぐ近くの草が音を立てて揺れるのに気づく。何かが草で身を隠して白龍に急接近しているようだ。
草はガサガサと大きな音を立て、だんだん近づいてくる。
ふと気がつくと真横まで来ており、草の隙間から先程の声の主の顔が見えた。
「あんなに離れていたのに……! 速いっ?!」
洞穴の中では、充分に逃げ切れる程の距離が空いていたにもかかわらず、少女は白龍に追いついたのだ。
「捕まえたぁ――!」
「きゃっ――!?」
少女は草から飛び出て白龍を押し倒すと、素早く馬乗りになる。
緑の髪に返り血を浴びた血まみれの顔、そして別々に動く両目。その姿は白龍に感じたことのない恐怖を味わった。
少女は白龍と目を合わせると、服の内ポケットから銀に輝く物を取り出す。
――それは細長いナイフだった。白龍は目を丸くして逃げようと暴れるが、少女はびくともしない。
少女がナイフを振り上げた瞬間、白龍は震えながら声を上げた。
「待って、お願いだから……殺さないで!」
殺される――白龍は少女に命乞いするが、少女は満面の笑みを浮かべる。
「命乞いかい? 捕まえた獲物を逃がすわけないよ!」
そして、少女はナイフを白龍の心臓を狙って突き刺す――
「っ――!?」
白龍は思い切り暴れて抵抗すると、急所は免れたが腕に突き刺さる。
白龍は頭が真っ白になった。恐怖のあまり何も考えられず、ただ鼓動が早くなるのを感じる。すると、激しい痛みが白龍を襲う。
「ぐあっ――!」
少女は満足な顔をし、痛みで抵抗する気力を無くした白龍の心臓を狙って、もう一度ナイフを振り下ろそうとしたその瞬間――少女が苦痛の声と共に倒れた。
白龍は何を起こったのか理解できず、少女が倒れた反対方向に視線を向ける。
――そこには黒く長い髪に殺意の宿る鋭くて青い瞳、白龍と瓜二つの顔立ちをした少女が剣を構えていた。
そう、彼女こそ双子の姉――黒龍だ。
「白龍……やっと会えた」
黒龍の声に白龍は心の奥が揺らいだ。
初めて見る秘女としての姿に、初めて聞く声。何もかもが初めてのはずなのに、すべてが懐かしくて愛おしい。
一目見ただけで白龍は自分の姉だと分かる。不思議な気持ちに一瞬戸惑ったが、すぐに黒龍と再開できた喜びが胸いっぱいに広がった。白龍はすぐに立ち上がり黒龍の側に寄る。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんだよね?」
「あぁ、そうだとも……僕が黒龍だ! 白龍……ずっと探してた」
白龍は再び黒龍に会えたこと、殺されかけた恐怖。白龍は大粒の涙をボロボロと流す。黒龍は白龍を抱きしめて涙を流した。
先程、白龍を殺そうとした少女が何か呟きながら立ち上がる。少女は背中に大きな切り傷を負いながら、静かにこちらを睨んだ。
「……す」
少女の呟きが微かに聞こえた。だが、白龍と黒龍は少女が何を言っているのか分からない。黒龍は黙って剣を構え、少女に近づく。
「……殺す。殺す殺す殺す殺す殺してやる――!」
少女の瞳は光り輝き、何十個という大量のハサミが少女を中心に浮かぶ。
「まずい――白龍! 我の後ろに隠れろ!」
白龍は少し戸惑いながらも、言われた通り黒龍の後ろへ身を隠した。
少女はハサミを黒龍に向けて飛ばす。ハサミは刃を光らせ真っ直ぐに黒龍の方へ飛んでいくが、黒龍は秘力で盾を作り出し、ハサミを防ぐ。
だが、たくさんのハサミを防いでいるうちに次第にヒビが入り、黒龍は白龍の腕を掴んで逃げると、盾が壊れ先程まで二人がいた場所はハサミが雨のように降っていた。
「この野郎――!」
黒龍はハサミから逃げられないことを確信すると、白龍を突き飛ばして剣を構える。
白龍は地面に頭を強打するが、すぐに起き上がった。白龍の目の前の光景に目を丸くする。黒龍は白龍を守るために、避けれた攻撃を避けずに体を張っているのだった。
「あはははは! さぁ、どうやって対抗する気かなぁ?」
少女が笑ってハサミを飛ばし続けると、黒龍は剣を大きく振り回し、少女に向かって真っ直ぐ走る。
黒龍が少女の目の前まで近づいた頃には、すでにハサミのせいで傷だらけだったが、動きを鈍くすることすらなく少女に向かって切りつけようとするが、少女は切りつけられる寸前でナイフを取り出し、剣を防ぐ。
続けてハサミを飛ばしたりと黒龍に攻撃するが、黒龍も素早い動きで避ける。だが、ハサミを完璧に避けることはできず、いくつか傷を負う黒龍。
少女は黒龍より少し強く、黒龍は時間が経つほど不利な状況に追い込まれることが分かる。どうしたらいいか分からず、白龍はただ静かに見つめていた。
「このままじゃお姉ちゃんが危ない……私も戦わなくちゃ……!」
傷だらけで痛みに苦しむ黒龍の姿を見つめて、白龍は恐怖で震える足でなんとか立ち上がり、少女を狙って意識を集中させる。すると、白い光の球のようなものが少女に飛んでいった。
球は少女に一直線で飛んでいき、黒龍との戦いに集中していたため、完全に不意をついて少女の頭に直撃する。
甲高い声と共に、少女の動きが一瞬鈍る。黒龍はそのチャンスを見逃さずに剣を思い切り振り下ろすと、少女の肩から腹まで一気に切りつけた。
少女は地面に倒れ、数回転して近くの木に衝突する。少女はゆっくりと起き上がると、閉じていた目を開けた。
瞳から秘力の波動を感じ、少女の全身を黒い霧が包む。
黒龍は少し困惑しながらも剣を構え直し少女に飛びつく、黒龍が切りつける寸前で少女が黒龍と目を合わせる。
すると、少女は口が裂けそうなほど大きく不気味に笑い、剣を弾き飛ばして黒龍の腹を思うがまま深く切りつける。
「がはっ――!」
黒龍は血を吐いて苦しむ。呼吸が荒くなり、腹を抑える手の隙間から血が溢れ出していた。
「そこの白い秘女にさっきのお返しをしてあげよう」
少女は殺意をむき出しにした目を白龍に向ける。先程、不意を突いて攻撃した白龍に標的を変えた。
白龍は傷を負って地面に倒れる黒龍が心配で、近寄ろうとするが、少女と向かい合わせになり黒龍の元へ行けなかった。
仕方なく白龍はもう一度意識を集中させて攻撃しようとするが、攻撃する前に少女に切りつけられ、周囲に血が飛び散った。
「あがぁっ――!?」l
白龍の腹から血が水道のように流れ出す。感じたことのない痛みに白龍は涙を流し、何も考えられなくなる。
「さて、どうしようかな」
白龍と黒龍は苦しみながら少女を睨む。少女は笑いながら、二人の苦しむ様子をじっくり眺めた。
「くそっ……!」
黒龍は悔しさと苦しさの混じった声を出す。
二人は勝ち目がない事を分かっていたが、それでも抵抗しようと必死にもがく。どうにかして勝てないのか――二人は方法を考える。
「さてと、お腹減った……今回の秘女も美味しそうだな、どっちから食べようかな」
二人は少女の何気ない一言に背筋が凍りついた。
発言から考えれば、以前にも秘女を食べているという答えに辿り着く。
「今……なん、て……?」
「だから、どっちから食べようかなって言ったの。生きているうちに食べないと美味しくないじゃない」
少女は人肉を食料として今まで過ごしていたため、少女に取って秘女は貴重な食料なのだ。だが、白龍は少女の発言が受け容れられずに聞き返す。
「白龍に手を出すな! 僕はどうなっても構わないから……!」
「嫌。って言ったら?」
「だったら……」
黒龍は歯を食いしばり立ち上がると、ふらつく体を必死に動かして剣を構える。白龍は痛みに抗い近くの木に掴まりながら立ち上がり、意識を集中させた。
「ふふっ、まだ元気があったとはね、じゃあ――」
少女は大きく飛び跳ねると、黒龍の後ろに回り込む。黒龍は剣で切りつけようとするが、少女は黒龍の後ろから黒龍の剣を持っている左腕を掴むと、大きく口を広げ噛み付く。
「ぐぁっ――!?」
黒龍は痛みで左腕に力が入らなくなり剣を落とす。白龍は球を飛ばすが、少女にナイフで弾き返される。
白龍は早く黒龍を助けなければと焦り、そのせいで球を作ることすらできなくなった。
少女に腕の自由を奪われた黒龍は、必死にもがくが何の効果も無く、じっくりと少女に噛みちぎられる。
「あ゛あぁぁっ!」
痛みが限界まで達し、黒龍は大きな悲鳴をあげた。白龍は力尽きて地面に倒れ、黒龍を見つめる。
「お姉ちゃん……」
白龍は意識が遠くなるのを感じながら、微かに残った力で黒龍に手を伸ばす。けれど、それはとても届くような距離ではなかった。
そこへ、もうひとつの人影が現れた――