-99- 貧乏ゆすり
多くの人々が、恐らくそうだと思うのだが、誰しも、お金は欲しいものであろう。世の中を生きていく処世として必要不可欠なのがお金・・ということだ。しかし、多くの人々の場合、そうならないのが、常にお金なのである。お金がないと、どういう訳か出てくるのが貧乏ゆすり・・と言われる無意識の身体の動きだ。むろん、貧乏ゆすりをするから貧乏ということではなく、お金持ちでもするのだが、まあ、名前がそう付いている以上、その傾向があることは否めない。
とある大衆食堂の一角に座った一人の男がいる。しばらくして、もう一人の男が店へ入ってきた。店内は、かなり込んでいる。
「あの…合い席でよろしいですかっ?」
女店員は座っている男にポツリと言った。言われた男
に、これといって断る理由はなかった。
「…ああ! いいですよっ!」
男は小さくそう返していた。すると、それを待っていたかのように、もう一人の男がテーブルの向かい側の席へ厚かましそうに座った。
「何になさいますっ?」
「ああ…僕はレバニラ炒め定食っ!」
先に座った男が冷静な声で、そう言った。あとから来た男は無言で貼られた品書きを眺め、しばらくして口を開いた。
「俺は…そうだな、その隣のニラレバ炒め定食…」
「はいっ! レバニラ炒め定食がお一つとニラレバ炒め定食がお一つですねっ!?」
噛まずに上手く言い返された二人は無言で頷いたが、女店員が厨房へ取って返そうとする後ろ姿に、思わず声をかけた。それも、同時に、である。
「あの…どう違うんですっ?」
「えっ? ああ! レバニラとニラレバですかっ?」
女店員はギクッ! として振り返って言った。
「はいっ!」「はいっ!」
「同じですよっ!」
女店員は当然のように返した。
「でも、値段がっ!」
確かにレバニラ炒め定食はニラレバ炒め定食に比べ、値段が100円高かったのである。
「ああ、レバーとニラの分量差です、オホホ…」
女店員は似合わない上流の品を作って笑った。それに、イラッ! としたのが後から座った男で、なにがオホホ…だっ! と、思わず貧乏ゆすりを始めた。先に座った男は最初、悠然と構えていたが、次第に貧乏ゆすりが激しさを増すにつれ、迷惑顔へと変化し出した。それでも『やめてくれっ!』とも言えず、グッ! と我慢して思うに留めた。しかし、貧乏ゆすりが腹立たしいことに変わりはない。思うに留めていた男も五分後、ついに貧乏ゆすりを始めた。
貧乏ゆすりは、こうして世間に蔓延していくのである。^^
完




