-89- 品種(ひんしゅ)
暮らしの中で、物には他と区別するため、すべてに名が付けられている。動物は無論のことで、植物もまた然りである。品種と呼ばれ、便宜上、グループで区分けされている。生物以外の単なる物にも種類別に詳細な名前が付けられており、入手しやすくなっている。意味的には同じで、品種といえば品種だ。^^
春遅い候である。とある園芸店の店先で、老いた冬服姿の紳士が立ち止まり、展示された花鉢をシゲシゲと見ている。
「どうです! 綺麗に咲いてるでしょ! ひと鉢、どうですっ!?}
如雨露を片手に持ち、水遣りに店内から出てきた店主が、元気よく紳士に声をかけた。
「ああ、どうも…。この花は、なんという品種です?」
「ああ! これはチョウゲですっ!」
「? …チョウゲ? どう書くんです?」
「えっ? ああ、それは…どうでしたかね、ははは…」
店主は分からず、笑って暈した。
「品種はダンチョウゲとか聞きました。三日ほど前、入荷したんですよっ! うちの家内なら詳しいことを知ってると思うんですが…。奥にいるんで、呼びましょうか?」
「いや、結構です…。いやぁ~、それにしても、この白い小花がなんとも粋ですなっ!」
「ですよねっ!」
店主は別にどうも感じていなかったが、客あしらいとして話を合わせた。店主は別のことを考えていた。この暑いのに、冬服とはっ! この紳士、どういう品種なんだろう…と。もちろん、そんな失礼なことを口に出来ないから、思うに留めて、である。たが、ついに、暑さのせいで本音が出た。
「今日は蒸しますなぁ~!」
店主は額に噴き出した汗を手拭いで拭いながら、呟くように漏らした。
「そうですか? 私は、さほど…」
それを聞いた店主は、この冷性の紳士、どういう品種なんだろう・? と、益々(ますます)、知りたくなった。
「あの…日本の方ですよねっ?」
「はい、もちろん!」
「…暑くないんですかっ?」
「ああ! この服ですかっ。ははは…、ほらっ!」
紳士は背広の裏を垣間見せた。背広服の裏には、保冷剤がビッシリと張り詰められていた。
「ああ…」
店主は、なんだ、ただの同じ品種か…と捨て鉢に思った。
完




