-85- レトロ
最先端の文明社会を生きる人々がレトロを求め、寛ぎの空間で、しばし、憩いの世界に浸るのは何故? と皆さんはお考えにならないだろうか。レトロ・・これこそ過去の姿を残すゾーンなのである。殺伐とした今の時代だからこそのレトロなのだろうが、レトロには、どこか秘められた謎の力があるのかも知れない。
昔馴染みの老人二人が旅に出て、レトロに満ちた古刹を巡っている。
「いいですなぁ~…なぜか、こういう自然を眺めておりますと癒されますなぁ~」
「左様で(さよう)…。私の近くなど、以前は閑静な佇まいだったのですが、最近は随分と騒がしくなりまして、とても人が暮らせる空間ではなくなりました…」
「そうですか…。私の所にしたって同じです。50年も前は車が一台とて通っておらなかったのですが、今じゃ、数珠繋ぎでして、ははは…」
「いや、私の所とて同じです…」
「こういう所は変わりませんなぁ~」
「ある意味、氷の世界ですな。水の世界は動きまくりますからなぁ~」
「ええ…。動いてどんどん流れればいいのですが、一度流れが止まれば、澱んで腐ります」
「確かに…。最近は特に世の中の澱みを感じますなぁ~」
「ええ、臭ってきましたからな。明日の暮らしだって分りゃしないっ!」
「そうそう、こういう変わらない古刹で、ずう~~っと暮らしたいものです…」
「名残はつきませんが、そろそろ、澱んだ方へ戻るとしますか」
「そうしますか…。ははは…実のところ、戻りたくはないのですがなっ!」
「そうですなっ!」
二人は溜息を一つ吐くと、旅先の古刹の一角に設けられたベンチから立ち上がった。そして、お抱え運転手によって開けられた高級外車の後部座席へと乗り込み、ゆったりと帰途に着いた。実は、この二人、とある最先端企業財閥の元会長だったことを付言させていただきたい。
最先端の水の流れは、変わらないレトロな氷の世界に魅せられる傾向にあるようだ。^^
完




