-77- それでも、まあ…
日々(ひび)、暮らしていると、アレやコレやと欲しいもの、自分の思いどおりにやりたいことなどが膨らんでいく。しかし、世の中はそう甘くはなく、それらの夢を打ち砕いてしまう。人々は打ち砕かれては心を萎ませ、明るさや純心さ、積極性などを、その都度、失くすことになる。だが、屈していては、一日も生きていけない。そこで考えたのが、それでも、まあ…と思う心である。この心は、自分以下の人々のことを思うことによって、自分が置かれている状況を、恵まれている…と納得させる慰めの心である。この心がないと、人は自暴自棄に陥ったり、狂ったり、場合によっては自殺をし、惨い事態を引き起こしてしまう。その意味から、それでも、まあ…と一歩下がる心は、暮らしの中で不可欠なのである。
とある飲み屋で、顔馴染みの常連二人がチビリチビリと杯の酒を飲みながら話をしている。
「いやぁ~参ったよ。いつもと同じだと思って買ったらさぁ~、『お客さんっ! もう¥30足りませんっ!』って、こうだよっ!! やっちゃ、いられないっ!」
「なるほどっ! 値上がったんですなっ!?」
「そうそう! 生憎、持ち合わせがないっ。そこで、俺は言ったねぇ~~!」
「なんて!?」
「決まってるだろっ! 次からにして、今回は・・だよぉ~!」
「でっ!?」
「ダメですっ! と、こうだよっ!? やっちゃ、いられないっ!」
よく、やっちゃいられない人だなっ! …と、カウンター前に立つ店の親父は聞いていたが、そうとも言えず、思うに留めた。
「そうでしたかっ!」
「ああっ! とはいえ、ダメと言われりゃ仕方がないっ! それでも、まあ…と思い直してさっ! 少し量を減らして買って帰ったよ。ははは…」
「それでも、まあ…ですか?」
「ああ、それでも、まあ…だっ!」
「ですね…」
二人は顔を見合わせて意味深に頷くと、押し黙ってチビリチビリとまた飲み始めた。店の親父は、ツケのたまりを払ってくれるよう言おうとしたが、それでも、まあ…いい話を聞いたからと、思うに留めた。
それでも、まあ…の心は、この世に欠かせない。^^
完




