-70- 焦(あせ)らない
短編集-39- 焦る・・の続編だが、逆の場合で、焦らない・・もアリか? という話だ。
とある会社の営業部長室である。部長の肉尾が、やはり美味そうな赤ら顔で激怒している。出勤直後で、朝陽が太枠の大窓サッシから射し込んでいる。
「どうなっとるんだっ、鍬淵君! 先方からの電話がひっきりなしじゃないかっ!!」
「妙ですねぇ~」
肉尾は眩しいのか、怒り顔でスクッ! と立ち上がると、ブラインドをこれ見よがしに力いっぱい引き下げた。が、これがいけなかった。ブラインド紐がブチッ! と引き千切れたのである。別にドォ~でもいい気分の鍬淵は、菊菜物産の焼麩さん、あれほど確認したのにどうしたんだろっ? くらいの軽さで、千切れたブラインド紐を見つめた。肉尾としては怒っている場合ではない。幸い、部長室の中だったから課長の鍬淵以外、他には誰もおらず、恥だけは掻かずに済んだのだが、美味そうな赤ら顔は、たちまち白焼きの鰻顔へと変化し、蒼褪めた。
「ど、どうするっ!」
焦る肉尾の顔からはジュ~シィ~な汗が滴り落ちた。
「部長! 焦らないことです。たかがブラインドの紐です!」
お前にゃ言われたくない…という気分で肉尾は鍬淵を見た。だが次の瞬間、常務昇格は無理だな…と自らの無能さを感じた。^^
完




