-4- 適温
個人差はあるものの、誰にも過ごしやすい適温というのがある。寒がりとか暑がりという人は、普通の人よりその適温が高かったり低かったりと、違う訳だ。
いつものように夕食前に風呂へ入ろうと思った鰯板は、浴室の脱衣場で汗ばんだシャツや下着を脱ぐと、一目散に風呂の湯をジャァーっとポリの洗い桶で身体へ浴びせた。
「ギャァ~~~!!!」
次の瞬間、鰯板の口から出た言葉は、悲鳴にも似た絶叫だった。さらに次の瞬間、鰯板は蛇口を捻り、出た冷水を荒い桶に入れ、頭から被せていた。火傷をするほどの熱湯だったのである。これは、中学生の三男をおいて他にないっ! …と思えた鰯板は、俄かに三男への怒りが込み上げてきた。三男は野球部に入っていて、下手の横好きというヤツで、補欠にもかかわらず部活を続け、家へ帰れば風呂へ一番に浸かるのが日常だった。家族の者は、仕方なくそれを認めている・・という経緯があったが、それをいいことに三男は益々、つけ上がっていた。最初のうちは次に入る次男を意識してか、適温にして出ていたのだが、この日に限りどういう訳か鰯板の帰宅が早く、適温が違ったのだ。次男は高めが適温で、鰯板は低めで、それもかなり低くなければダメという完璧な猫舌ならぬ猫肌だったのである。鰯板はヒリヒリする痛みで外科治療に数日、かかる破目になったらしい。
まあ、適温のリズムが一つ狂えば、とんでもない事態に立ち至る・・という一例だろう。
完
※ 猫さんが熱い湯に弱いかどうかは、猫さんに訊いていないので分かりません。^^




