第6話
……告白してしまった…。
それも、名前も知らない女性に…。
初めて守りたいと思った。
儚げな笑顔がいじらしい。
愛しい…。
30歳になったくらいから、親の結婚しろが口うるさくなった。
流石に俺もヤバいとは思った。
だけど、結婚したいと思える相手もいないため、結婚せずにいた。
だけど、結婚したいと、生涯かけて幸せにしたいと思える人と出会えた。
名前も年齢も趣味も……何も知らない女性。
こんな年で運命なんて言えるかわからないけど、運命だと思った。
男なら愛しい女性の涙は見たくないだろ?
しっかりと言葉にして伝えたい。気の利いた言葉なんていらない。この想いを知っていて欲しい。貴女を想っている人がいることを…。
「マスター…私は……私も……」
俺が話すより先に彼女が話そうとする。
俺への想いだろうか…?
だけど、俺から伝えたい。
話そうとする彼女の唇に俺の人差し指を当てる。
小さい子を静かにさせる、しーっのポーズをとる。
「待って?そこから先の言葉は私の……俺のものだよ?」
彼女の前で初めて自分の事を俺と呼んだ。
彼女は自分の唇に俺の指があること、口調が変わったことに驚いていたのだろう。
目を丸く大きくして驚いている表情も可愛い。
「貴女が愛しい。お互い、名前も歳も…何も知らない。けれど
これからゆっくりお互いを知っていけばいいと思う。俺と付き合ってくれませんか?」
「はい…!マスター…私も貴方が好きです。」
俺の好きな笑顔で彼女は答えてくれた。が……
「待って?俺のことはマスターじゃなくて、誠って呼んで?」
「…誠さん………」
俺の名前を恥ずかしそうに呼ぶ彼女は可愛い。
彼女の名前を聞かなければ、愛しい人を呼ぶこともできない。
「俺の愛しい人。名前を教えて?」
「……綾瀬…です…」
「それは、名字でしょ?下の名前は?」
「千尋…です…」
「千尋。これからゆっくりお互いを知っていこう。」
今日、俺に彼女が出来た。
彼女の名前は、千尋。
俺は千尋を愛している。