第4話
カランカランー……
ドアの鈴を鳴らしながら、彼女が入ってきた。
彼女は濡れていた。
突然の雨に濡れたのだろうか?
だけど、それだけではないような……。
よくよく見ると、彼女の頬を濡らしていたのは、雨ではなかった。
「いらっしゃい。突然の雨ですから……よかったら使って下さい。」
「ありがとうございます。」
そう言って、彼女にタオルを渡す。
「にゃーー」
彼女が拭き終える頃に、雪が彼女にすり寄る。
「ふふっ。なぁに?甘えん坊さんね?」
彼女の見せた笑顔があまりにも切なく、儚げで………
「……今日はこんな天気で、お客様も貴女しかいません。よかったら、少し話を聞いてもらえないでしょうか?」
「………??はい…いいですよ?」
彼女は、急な私の申し出に混乱しながらも、返事をしてくれた。が、私は勢いで言ってしまっていた為、話す内容を決めていない。何を話せばいいんだ??焦る……。このまま、勢いか……。
「私の話を聞いて下さるお礼です。この珈琲はサービスですよ。」
そう言って、彼女にいつもの珈琲を渡す。
私はゆっくりと語りだす。
「…ある男がいました。その男は30歳代で、初恋を知ります。30年近く生きていて、恋心を知らない、寂しい人。身体の関係の女性はいましたが、心から愛することはできませんでした。ですが、ある日彼は恋に落ちます。可愛らしい女性。猫に優しく笑いかける女性です。その姿に彼は心を奪われます。」
彼女は黙って聞いている。
「ですが、名前も年齢も知らない人です。見た目からして、彼女は20歳代。年下の女性。声もかけられず見守るばかり。彼女の笑顔が見られれば充分だと……。ですがある日、いつものカフェに来た彼女の瞳からは、涙が流れていました。彼は戸惑います。いつも笑顔の彼女に何があったのかと……。
教えて頂けませんか?貴女の笑顔を曇らせている原因を……。貴女の力になりたいのです。愛しい人の笑顔を守りたい…。」
「えっ……?」
彼女は驚いた表情でこちらを見ている。
「…マスター?……マスターが私を……?」