第1話
ーーーカラン、カラン♪
優しい音が店内に響く。
ドアの開いた音。
「いらっしゃい」
カフェのカウンターにいる、マスターの声。
店内に入ると……
ーーーにゃ~~♪
猫達が私の足元にすり寄ってくる。
猫好きの私にはたまらない。
専門学校に入り、アパートで一人暮らしを始めた。が、ペット禁止のため、猫を飼えない。実家は、お父さんが猫アレルギーで飼えない。
優しいカフェのマスターに、美味しい珈琲、6匹の可愛い猫。
ここに通うには充分の理由。
専門学校に入ってから見つけたカフェ。
ここに通って、1年が経つ。
いつもの席に座り、いつもの珈琲を注文する。
珈琲がくるまでは、看板猫たちと遊ぶのが私の決まり。
「よ~し、よ~し」
猫とじゃれている時が一番楽しい。
自然と笑顔になれる。
嫌なことがあっても、この子たちに会えば、そんなものは飛んで行ってしまう。
「おまたせ致しました。」
「ありがとうございます。」
ここのマスターは優しい。
私が何時間居座っても何も言わないし、ふと見せる笑顔が素敵。
あの笑顔は猫に向けているんだろうけど……。
珈琲が来たため、猫たちとじゃれるのはここまで。
ここには課題を進める為に来た。
一人暮らしの家より落ち着ける場所。
ここでなら、いいアイデアが浮かび上がる。
何時間も集中して課題を進めていたせいか、面白そうに見えたのか、かまって欲しいのか、猫たちがじゃれてきた。
私はファッションデザイン専門
学校に通っていて、今日は5つもアイデアを考えなければいけない。
私が広げていたアイデアが殴り書きされた紙や、プリント類に猫たちの足跡が付いていく。
可愛い模様ができあがっていく。
「あっ…こら。邪魔しちゃだめだろ?すみません。大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
マスターが猫たちを私から遠ざけてくれた。
猫に注意する姿も優しい。
「よかったら、これ、サービスです。先ほどは猫たちが失礼しました。」
「えっ…。そんな、気にしないでください。」
猫たちをどかして戻ってきたマスターの手には、可愛らしい猫の肉球の形をしたクッキーがラッピングされていた。
「試作品なんです。感想を聞かせてもらえないでしょうか?」
「そう言うことなら…。ありがたく頂きます。」
これをマスターが作ったと考えると可愛い。
30代の男性が肉球の形のクッキーを作る姿は想像すると、可愛い。
クッキーは大切にしまい、課題に取りかかる。
帰る時に、クッキーのお礼を伝え、お会計を済ませ家に帰る。
一人暮らしの部屋はワンルームだけど、広く感じる。
晩御飯を食べ、お風呂に入り、マスターにもらったクッキーを思い出し鞄の中から取り出す。
クッキーは可愛らしい肉球の形で、なんだか食べるのがもったいなく感じてしまう。
試作品であり、感想を言わなきゃ。と、食べたクッキーはマスターのように優しい味がした。
優しい味のクッキーを食べて、ほっこりとした暖かい気持ちのまま私は夢の世界へといく。