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evil magician

「ふう。一時はどうなるかと思いましたが、なんとか上手く着きましたね」


魔術師は辺りを見回し、俺達の姿に気付く。


「おや、こんな所にネズミが。異世界とは言え、ネズミは退治しなければね」


魔術師が呪文のような唱え、杖を振り上げるといくつもの火の矢が出現した。


「そら、お行き」


魔術師の気の抜けた挨拶と共に、火の矢が一斉にこちらに向かって飛来する。


「くっ!」


未来を抱え、横薙ぎに跳ぶ。火の矢は俺達のいた場所に着弾し、周囲を燃え上がらせた。


「おやおや、こちらの世界のネズミはなかなかにすばしっこいようだねぇ」


小馬鹿にした顔で魔術師がほくそ笑む。


「では、これではいかがかな?」


魔術師が呪文を唱えると、今度は数十もの火の矢が出現した。

まばゆいほどの炎の光が不気味に揺らめきながら水面を照らす。


火の矢は今度は一斉には飛ばず、矢継ぎ早に連射された。


「クソッ…!」


腕輪の力を発動。

人の限界を超えたスピードで、未来を抱えながら次々に飛来する火の矢をかわす。


「ほう!」


魔術師が、今度は本当に驚いた様子で感嘆した。


この程度の速度なら、いくらでもかわせる。

あんな奴、今の俺なら殴れば一発だろうが……どうする?


「火を糧とし生とする竜の眷族よ。盟約に従い我汝を召喚す」


『召喚・火蜥蜴 (コール・サラマンドラ)』」


俺達の目の前に赤い光を放つ魔方陣が出現し、陣の中心から炎を身にまとった大きなトカゲが現れた。


トカゲと言えど体高は大人の背丈ほどあり、尾まで入れた全長は優に10メートルはある。


チロチロと口から火を漏らしながら俺達を見ていたトカゲだったが、いきなり口を開くと燃えさかる火炎を吐き出してきた。


「ッ…!」


未来を胸に抱いて後方に跳躍する。

化け物から距離を取った俺はそのままこの場から逃げ出した。


今は未来を安全な場所に避難させる事が、何よりも最優先だ。


「ふん。この程度なら逃げられると思ったかい。気に入らないねぇ」


魔術師が再び詠唱を始めるが、俺は構わず駆け続ける。


『影呪打鞭 (シャドウ・スナップ)!!』


空気の壁を破るような破裂音が聞こえ、思わず後ろを振り向く。

その瞬間、俺の身体は夜の闇に打たれ、弾き飛ばされた。


(な…なんだ…!? )


衝撃で一瞬思考が飛んだが、魔法による攻撃を受けたのだと理解する。


(未来……)


未来は俺から少し離れた場所に倒れていた。


「くそっ…!」


助けに行こうとした矢先、間髪を入れず、上方から圧倒的な熱量が降りかかる。


「ギャハハハハーーッ!! 異世界人の丸焼きの一丁あがりーーぃぃぃ!!」


俺達の死を確信した魔術師が気の狂ったような奇声を上げる。


だが、魔術師が勝利を確信したのもつかの間、炎の中から無数の光が舞い始め、高速で炎を掻き消していった。


「な……なんだと……!?」


魔術師が信じられない、といった声で驚愕する。


(腕輪の力か……いや、)


離れた場所に気配を感じる。

顔を上げて見ると、そこにはリザの姿があった。


魔法を放った痕跡なのか、リザの両手は淡い光を放っている。

凛とした碧眼は魔術師を見据えていた。


(あいつが護ってくれたのか……?)


「き、貴様は……」


リザの姿を見た魔術師が憎々しげに唸り声を上げる。


(リザを知っている……?)


「あの状況で生きていられるとは悪運の強い奴め……だが、それもここで終わりだ!!」


魔術師に命じられた火蜥蜴が、リザに向かって火炎の息を吐く。


「大気に眠りし水と風の力よ。盟友たる雪の女王の下に従い、その力を示せ」


呪文を詠唱するリザの両手に青白い光が集まり、輝きを増していく。


『白銀雪氷烈波 (グレイシアル・ブリザード)』


リザの両手から猛烈な吹雪が吹き荒れ、押し寄せる炎の息と正面から激突した。


圧倒的な量の猛吹雪に押され、燃えさかる炎が掻き消されていく。

ついにはすべての炎を消し去り、その源である火蜥蜴をも凍り付かせた。

猛吹雪は蜥蜴を越え、その先にいる魔術師にまで手を伸ばす。


魔術師は動じずに呪文を唱え、杖を構えた。


『黒遮断絶 (ダーク・ディヴィジョン)』


魔術師が杖を振ると吹雪は真っ二つに分断された。


「ふん。小賢しい。私にこの程度の術が効くものか」


「ならパンチならどうだ?」


鼻を鳴らす魔術師の横で、瞬時に跳んだ俺が拳を繰り出す。


拳に当たる微妙な違和感。

魔術師の体に浮かび上がった魔法光が拳の打撃に反発する。


魔法のバリアか何かか。

―だが、


「オオオオーッ!!」


全出力で放った俺の打撃がその反発力をさらに上回る。

拳の一点に集中した爆発的な力が魔力障壁を突き抜け、魔術師を噴き飛ばす。


砲弾の速度で魔術師の身体が飛び、激突した土手に粉塵が舞い上がった。


「やったか……?!」


「いえ、まだです」


リザの言葉通り、噴煙の中から魔術師が現れる。

しかし、


「ガハッ……!」


魔術師は息を吐き出すと、ガクッと膝を付く。

体を包むオーラが乱れ、口からは血を吐き出した。


「……な、なんだ…あのガキの力は……!?」


苦しげな顔をしながらも、魔術師が怒りに満ちた目で、杖を振り上げる。

だが、その直後、リザが放った魔力弾が魔術師に炸裂した。


「ぐあッ…!!」


追撃を受け、魔術師が杖を落とす。


「くっ…この世界のガキの力が想定外だ…一端退くしかあるまい」


魔術師が杖を翻すと同時にその姿も消える。


戦いの終わりを告げるような風が凪ぎ、辺りに再び夜の静寂が戻り始めた。


「未来…っ!」


物陰に隠した未来のもとに駆け寄る。

魔術師に攻撃を仕掛ける前に川原の物陰に横たえた未来は、

息をしていなかった。


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