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sisters

坂田の家に向かう途中、いつものようにコンビニでジュースとお菓子を買っていく。

コンビニから10分ほど歩いて、坂田の家に着いた。

住んでいる人間とは違い、ごくごく普通の二階建ての一軒家だ。


坂田の両親は共働きで、いつも夜になるまで帰ってこない。

ドアを開けると、黒髪と金髪の少女が家の奥からやって来た。


黒髪の方が坂田の妹の美奈で、金髪の方がその親友の未来だ。

二人とも小学6年になったばかりで、クラスも一緒になったそうだ。


未来は母が北欧系の女性で、父親は日本人と欧州系のハーフらしい。

見た目はほとんど、愛らしい外国の少女の顔立ちで、目の色も綺麗なエメラルドグリーンだ。


美奈も坂田に似ず、顔立ちはとても整っている。

黒髪と金髪の二人の美少女は並んで歩いていると、いつも人目を引いた。


「や! セナ兄ひさしぶり」


「よう、美奈。相変わらず元気そうだな」


「セナ兄ちゃーん!」


名前を呼びながら、未来が抱き付いてきた。


「お、おう、未来も久しぶり……」


未来は親しい相手にはこうやって抱き付くのが好きだ。

外国じゃ初対面の相手でも抱き合うらしいが、未だにどうも慣れない。


「未来も元気そうだな」


頭を撫でると未来が嬉しそうに笑う。

後ろからデーヴが、うらやましからんけしからん、などと、ブツブツつぶやくのが聞こえてくる。


それを見た未来が、


「デーヴ兄ちゃんも久しぶりー」


と、デーヴにもハグをする。


「キタコレー!!」


天にも昇る至福の表情で、デーヴがガッツポーズをする。


デーヴへのハグを終えてその場に立つと、両手を広げて待っている坂田を、

未来が困ったような顔で見た。


「未来、どうしてボクの所には来ないんだい?」


「だって泰介兄ちゃんは、目がえっちいんだもん……」


「えっちくないよ! 生まれ付きこの目だよ!」


くわっ! と凄む坂田から逃げるように、未来が美奈の後ろに隠れる。


「お兄ちゃんは目付きだけじゃなく、手付きもイヤラしいからねー」


美奈が、ジトーっとした目で兄を見る。


「や、やらしくないかないぞ。こ、これも生まれ付きだからな……ハハハ」


「声がどもってるぞ」


「ど、どどどもってなんかないやい!」


俺のツッコミに、明らかに同様する坂田。


「お兄ちゃん。未来とハグする時、いっつもお尻の方に手を伸ばすでしょ」


「い、言いがかりだぁ……あ、あれはたまたま手が当たっただけで……」


「坂田。お前、未来をそんな目で……」


その場にいる全員が冷ややかな目で坂田を見る。


「な、なんだよ! セナは恥ずかしがってるし、デーヴは喜んでるし、お、お前らの方こそ、いやらしい事考えてるんじゃないか?!」


「考えてない」


「ミク殿は小生にとっての天使。故にその思いはまさに! 神に対する敬愛そのもの。坂田氏のような邪な心は、断じて抱いておりませぬぞ!」


ビシィと指差して、デーヴが坂田を糾弾する。


「う、うそだーっ!! け、健全な男子高校生なら、女の子に抱き付かれて、いやらしい妄想を抱かないなんて、ぜ、絶対ない! ありえない!!」


「……お前。ソレもう、自分がそういう妄想をしてるって、言ってるようなモンだろ」


「……はっ! し、しまったああああ――――――っっ!!」


 コイツ……推理小説の犯人にはなれないな。


「う、うぅぅ、やっぱりぃぃ………」


顔を真っ赤にしながら、未来が美奈にしがみつく。


「おにぃぃぃちゃん!」


「は、はいぃぃぃぃぃ」


「妄想してる事が問題じゃないの! お兄ちゃんみたいに、行動に移す事が問題なの!!」


「し、しぃましえぇぇ――――ん!」


「まったく! ド!ヘンタイのお兄ちゃんは放っておいて、みんな早く上がって!」


ドスドスと廊下を歩いて居間に入る美奈の後に、涙目で坂田(ヘンタイ)を見ながら、未来が続く。


「ド!ヘンタイはないだろ、美奈……。せめてドスケベにしてくれよ……」


……違いがわからないが、坂田の中ではドスケベの方がマシらしい。


はぁーと、情けないため息をつきながら坂田が家に上がり、その後に俺とデーヴが続いた。


居間に入り、三人で買ってきた菓子やジュースを袋から出して、テーブルの上に並べる。


「ま、まぁでも、こうしてみんなで集まるのも久しぶりだねー。ははは……」


取り繕うように、坂田が乾いた声で笑う。


「そういえば、ハル姉はどうしたの?」


美奈がこっちを向いてたずねてくる。


「遥は、クラス委員の仕事に駆り出された。美奈と未来にヨロシク、ってさ」


「そうなんだ……。せっかく、久しぶりに会えると思ったのに……」


がっかりした表情で、落ち込む未来。


「それにしても、帰ってくるの少し遅かったねー。今日は5限授業じゃなかったっけ?」


美奈が今度は兄にたずねた。


「いや、それがさー昨日の件でHRが長くなって。おまけに明日、臨時集会だってよー」


「あーやっぱりそれかー。アタシたちの学校でも言われたよ。でも、ホントどうなっちゃうんだろうね……アレ……」


(……やっぱり結局、この話題になるのか)


学校の休み時間も、クラスの話題は、昨日の竜の事ばかりだった。

やはり誰もがしゃべってでもいないと、不安になるのだろうか。


「ちょっと、ニュースでも見てみよっか」


美奈がテーブルにあったリモコンを取って、テレビの電源を入れる。

チャンネルを変えていくが、どこも昨日の竜と浮遊空間の話題ばかりだ。

の時、テレビの画面の上部にニュース速報のテロップが流れた。


――中国東部で巨大生物による襲撃発生。街は甚大な被害。中国軍が攻撃を開始――


「また、あの怪物が襲ってきたってのかよ?!」


坂田が驚きの声を上げる。


番組を変えると、空から迫りくる、巨大な火の玉から逃げ惑う人々の姿が映し出された。

軍隊による竜への攻撃の様子も映し出されるが、先日の海岸での戦闘と同様、全く通用していないようだった。


画面が切り替わり、瓦礫の山と化した街の様子と、負傷した人や、泣き叫ぶ子供たちの姿が映し出される。


その映像を見て、皆、言葉を失っていた。


「……もういいだろう」


俺はテーブルの上に置いてあるリモコンを手に取ると、テレビを消した。

 その後も仲間たちが沈黙したまま、リビングがシン……と静まる。


「……ねぇ、お兄ちゃん。軍隊の人たちでも敵わないなら、一体どうなるの……?」


 美奈が不安な表情を浮かべて兄に尋ねる。


「だ、大丈夫さ。まだ核兵器っていう切り札があるしな……!」


核など、そう簡単に使用できる代物ではないだろう。

それにあの化け物相手だと、核が通じない可能性も充分にあり得る。


だがこれ以上空気が重くなるのを避けて、何も言わずに黙っていた。


「わたしたちにできる事って何かないのかな……」


未来がクッションを抱えながらつぶやく。


(……未来でもそんな事を考えているのか)


朝、坂田が言ったように、自分のような他力本願な考えは悪い事なのだろうか。しかし……


「未来。もし何かあったとしても危険な事はしないでくれ」


無意識的に強い口調になり、未来が少し驚いた表情を見せる。


「う、うん……。ゴメン……」


逃げる事しかしなかった自分に、こんな偉そうな事を言う資格はないのかもしれない。それでも、未来が何かをして、危険な目に遭う事だけは避けたかった。


「ま、まぁ危ない事するのは良くないけど、何かしたいって気持ちは、アタシにもわかるよ」


場を和ませようと気を使った美奈がフォローを入れる。


「うんうん。さすが我が妹。わかってるじゃないか。

 よし! じゃあ来たるべき時の為に、今から体力作りだ!」


『はっ?』


一同が疑問の声を上げる。

それには答えず、坂田は突然立ち上がって二階に上がり、ジャージ姿で戻ってきた。


「じゃあ、行ってくる!」


呆気にとられる仲間たちを置いて、一人、玄関から飛び出していってしまった。


外からは、坂田の奇声のような掛け声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん……いつもの事だけど、無駄に元気ね……」


呆れた表情で美奈が窓の外を見た。


「まぁ、今日はこれぐらいでお開きにするか?」


時間的にも、いつもこれぐらいで帰るので、仲間に提案してみた。


「そうですな。全国数千万の視聴者が小生のライブを心待ちにしているでしょうし」


どうやらネットの生放送の話らしい。


「じゃあ、後片付けしよっか」


未来の言葉に肯き、皆でテーブルの上のジュースや菓子を片付け始める。

後片付けを終えて、坂田の家の前に集まった。


「セナ兄、未来を家まで送っていってあげてよ。方向同じでしょ」


「あぁ、わかってる」


未来の家は近いので、皆で遊んだ後、未来を送るのは、いつも自分の役目だった。


「じゃあ、みんな気を付けて帰ってね」


「美奈もちゃんと戸締りしとけよ」


「うん。あ、でも、お兄ちゃんカギ持たずに出たかも……」


その時、後ろから、ハァハァと、息遣いの荒い声が聞こえてきた。

変質者か? と思って振り向いたら案の定、坂田だった。


「お前……もうヘバったのかよ」


「お兄ちゃん……まだ10分も経ってないよ……」


「ハァ、ハァ…、ゼーゼー……きょ、今日はこれくらいにしといてやるよ……」


三下の負け惜しみのようなセリフを吐いて、家の中に入っていく坂田。


「よ、よかったね……カギの心配しなくて……」


未来が苦笑いを浮かべてフォローする。

美奈はガクッと肩を落としてため息をついた。


「ハァ、まぁ帰るか」


「うん」


未来がこっちを向いて、嬉しそうにうなずく。


「では、ミク殿を頼みましたぞ」


「また遊びにきてねー!」


それぞれに手を振りながら、俺と未来は仲間達に別れを告げた。



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