journey to the Crossphereth
竜との戦いから2週間後――
いつものように学校が終わって放課後になり、いつものように坂田とデーヴがやってくる。
「セナ……帰ろうぜ……」
「………………」
誘いには来たが、二人とも浮かない顔をしている。
……無理もない……か。
「どうする? 金曜の放課後だし、どっか寄っていくか?」
しかし、坂田もデーヴも頭を横に振る。
「いや、いい……。まっすぐ帰ろうぜ……」
「賢明な判断ですな……」
珍しく自分の方から誘いをかけてみたものの、断られてしまった。
「……そうか。じゃあ帰るか」
「あぁ……」
「そうしましょう……」
ハァ……、とため息をつきながら、教室の出口に向かう二人。
俺もその後をついていく。
トボトボと、坂田とデーヴが無言で帰り道を歩く。
空は青く澄み渡っているのに、二人の心には雲がかかっているようだった。
自分の方はといえば、雲にぽっかりと穴が開いたような気持ちだった。
だが、あの時死を覚悟して、それを生かしてもらった自分が、生きているこの瞬間を楽しまないのは悪いような気もした。
二人が黙っているので、澄み渡る青空を見上げながら歩いていると、いつの間にかそれぞれの家路の分かれ道に来ていた。
「じゃあ、またな」
坂田とデーヴに別れの挨拶をする。
「……あぁ。またな……」
最後まで元気のない坂田たちと別れ、一人、家路をたどった。
◇
家に着き玄関の扉を開ける。
リザのいなくなった家はシン……として静まり返っていた。
――また以前に戻っただけだ。
自分にそう言い聞かせ、自室で服を着替える。
茶を飲んで一服した後、仏壇のある部屋へと向かった。
線香を上げ、鈴 (りん)を鳴らし、手を合わせる。
「……母さん、愛奈……ありがとう……」
なんとなく、二人の写真に話しかけた。
今の自分があるのも、こんなにも誰かを大事に思う心を持てたのも、この二人のおかげだ。……そしてその思いでみんなを救う事ができた。
この思いは、ずっと大切にしていかなければならない。
「じゃあ、行ってくるよ」
母と愛奈の写真に微笑みながら、立ち上がり、家を後にした。
◇
日が暮れた頃、一人、海辺の公園を歩いていた。
「……よう、やってきたな」
目的地へ向かう途中、坂田とデーヴに出会った。
「なんだ待ってたのか」
「……あぁ」
まだ落ち込んでいる様子の二人と一緒に、目的地へと向かう。
「お兄ちゃんたち、遅いよー! もう10分も遅刻だよ!」
「まったく、女の子を待たせるなんて最低ね、アンタたち……」
遙が腰に手を当て、呆れた顔で見てくる。
「リザもそう思わない?」
「はい。最低ですね。ハルカ」
遙の隣に、純白の服を着たリザが立っていた。
「なんだよ! そっちばっかり女子会とか言って、リザさんを一人占めして!」
「そうだそうだ! 男女差別イクない!」
坂田とデーヴが抗議の声を上げる。
……生死の境をさまよっていた俺を助けた後、リザは三日三晩、昏睡状態に陥った。
どうやら限界以上に魔法を使ってしまうと、精神を喪失してしまうらしい。
実際に、そういう状態に陥り、一生意識が戻らなくなった者も多くいるそうだ。
仲間と交代で看護をし、4日目の朝にリザは目を覚ました。
意識が戻ったのは、生きる事への強い意志と願い、そして、みんなの看護のおかげだと、リザは言ってくれた。
それからしばらくして体力も完全に回復した頃、リザは元の世界に帰る事を皆に告げる。
話し合った結果、遙が自分の力で海に浮かぶあの島まで送る、という事になった。
それから3日間、最後に親睦を深めたいという事で、遙と未来と美奈の家に、3日ずつ、
女性陣みんなで泊まり合いをして、遊んで、今に至る。
「大体、なんだよ! ボクの家に泊まるんなら、ボクがいたっていいじゃないか! それを追い出すなんでヒドすぎやしないか!」
最後の美奈の家の宿泊の日、坂田は危険だという事で、デーヴの家に泊まらされた。
「まったくもって不愉快極まりませんな。なぜに小生が坂田氏と同じ屋根の下で……」
「しょうがないだろ! セナがどうしても嫌だっていうから!」
「お前と一つ屋根の下なんて御免こうむる」
「くわあああっ――! 女にも男にも煙たがられるボクって一体!?」
「はいはい。コントはそれぐらいにして、そろそろ行くわよ」
コントじゃねえよ! と言う坂田の声を無視して、遙が六畳くらいのボードが置かれてある場所に皆を誘導する。
「は、遙氏……ホ、ホントに大丈夫なのですか……」
デーヴがブルブル震えながら遙を見る。
「大丈夫! 何度も練習したから!」
遙が力強く答える。
「大丈夫です。私もサポートしますから」
「り、リザ殿がそういうなら……」
「リザさんと一緒ならボクは火の中水の中雲の中でもお供しますよ! ハハハ!」
「ちょっと、お兄ちゃん! 靴はここに脱いでよ!」
靴のままボードに飛び乗った坂田に、美奈がテープで固定されてある箱を指さす。
「セナ兄ちゃん、お菓子とジュースは持ってきた?」
「あぁ。ここに置くぞ」
皆、それぞれの荷物や靴を置きながら、ガヤガヤとみんなボードの中に移動する。
「みんな乗った? 準備はいい!?」
オー! と拳を上げる美奈と未来。
ブルブルと震えながら手を上げる坂田とデーヴ。
遙のペンダントの宝玉が輝き、グググ…と皆を乗せたボードが宙に浮き出す。
リザはボードの中央に、台に乗った水晶玉のようなものを置いて、手を向ける。
「風と炎の精霊よ 我らに安らかなる風を 温陽風 (ウォーム・ウィンド)」
玉が柔らかな光を放ち、そこから温かい風が流れ、ボードの周りを包み込む。
「あったかーい」
「まるでエアコンですな」
未来とデーヴがホッした声を漏らす。
「じゃあ、行くわよー」
遙の掛け声と共に、ボードは空高く舞い上がり、眼下に夜の街の光が広がる。
「キレイ……」
無数の灯りで照らされた星空のような夜景を眺めて、美奈と未来が声を漏らす。
街の上空をボードがゆっくりと旋回する。
「リザ、見納めになるかもしれないから、目に焼き付けとけよ」
「はい。……本当に綺麗です。短い間でしたが、素敵な思い出もできました」
「見納めとか言わないでよ! また来るもん!」
「そうだ! そうだ!」
坂田兄妹が抗議してくる。
「悪い悪い」
兄弟に向かってとりあえず謝っておく。
街の上空を一回りすると、遙がボードを空中で停止させた。
「そろそろ目的地に向かうけどいい?」
「はい。ありがとうございました」
リザが遥に礼を言う。
「あ、あの遥氏、できればあまりスピードは出さずにお願いします……」
「大丈夫よ。美奈や未来も乗ってるんだから、そんな危ない事はしないって」
「もう既に危ない事をしてるような気もしますが……」
「あぁ……もぅ情けないわね。じゃあデーヴだけここでお別れする?」
泣き事を言うデーヴに遙が問いかける。
「うっ………わかり申した……。我慢します。武士として」
「よろしい。じゃあそろそろ出発するわよ! みんな掴まって!」
「つ、掴まってってどこに?!」
坂田が辺りを見回す。しかし掴めそうなものなどない。
「とりあえず自分でも掴んどけ」
「わかった!」
俺の言葉に肯いて、自分自身を抱きしめる坂田。
「全速前進! しゅっぱーつ!」
美奈が海の方を指さし号令をかける。
『オー!』
全員の掛け声と共に、俺たちの星空の下の旅が始まった。




