climax battle
「……が……はっ……」
もんどりを打って地面に投げ出され、全身を殴られたような痛みに、息を吐き出す。
……気化爆発か何かだろうか。
リザの魔法がなければ、今頃こんな事を思う事もなく絶命していたかもしれない……。
(みんなは……?)
辺りを見渡すと、坂田とデーヴは仰向けになり、少し離れた所でリザが、美奈と未来に覆い被さるように倒れている。
通りの向こうでは、爆風で吹き飛ばされた遥が、うつ伏せになって倒れていた。
皆、意識を失っているのかピクリとも動かない。
ズシン、という地響きがして、振り向くと巨竜がこちらを伺うように歩んでくる。
さっきのリザの声と魔法で気付かれたのだろうか。
(……このままだとみんなが……)
『 全滅 』の二文字が頭をよぎる。
いつも冗談を言い合っているデーヴや坂田、おせっかいで世話好きな美奈、戦いが怖いと泣いていた未来。
仲間からのプレゼントを抱えていたリザ、命を懸けて竜に向かった遙。
仲間たちの様々な表情や姿が走馬灯のように浮かび上がる。
……嫌だ…………
世界の平和なんて、現実感がわかない言葉などどうでもよかった。
だが、今まさに仲間の命が奪われようとしている現実には、強い拒絶を覚えた。
(……そんな事、絶対に許せない……!!)
神具の剣を支えにして、よろめきながら立ち上がる。
リザは、この神具は精神の力と願いで力を増す、と言っていた。
(……なら……くれてやる。精神どころか、魂でも命でも……全てくれてやる。
……だから……力を貸してくれ……みんなを守るだけの……力を!!)
天にも地獄にも届くような思いを込め、剣を強く握り締めて願った。
双剣が光り出し、その輝きを強め、剣が光そのものになっていく。
やがてその光は一つに合わさり、一本の光り輝く大剣となった。
光の大剣から、湧き上がるような強い力が流れ込んでくる。
「おおおおお――――!!」
身体の中に流れ込んだ力を解放させるように、両腕を開き、雄叫びを上げた。
圧倒的な力が自分の中を突き抜け、光が天を貫く。
輝くような光が全身を包み込み、神の力が宿ったかの如き力が身体中から溢れ出てくる。
身体を蝕んでいた痛みも疲労感も感じない。
……だが、代わりに、身体の中から急速に何かが抜け、自分の存在そのものが壊れていくのがわかる。
――そんなに長い間持たない……。精神と肉体がそう告げる。
グオオオオ―――!!
こちらに気付いた巨竜がうなり声を上げ、口から巨大な豪炎が吐き出してきた。
意を決し、光の大剣を手に構え、地を蹴って駆け出した。
眼前に空気の壁が現れ、身体を押し戻そうとするが、そこから更に走力を上げて壁を突破する。刹那の時間で炎の中を駆け抜けると、目の前に竜の巨体が現れた。
「オオオオ―――――――ッ!!」
雄叫びを上げながら、竜の頭上に跳び上がり、その眉間に大剣を叩き込んだ。
巨岩をハンマーで殴ったかのごとき重く鈍い衝撃が腕に響く。
(聞いてはいたが、何て硬さだ……!! 今のこの力でも打ち砕けないのか……!)
それでも尚、身体を捻り、回転させ、大剣の連撃を竜に叩き込んでいく。
大剣の一撃一撃に巨竜が顔を歪める。
最後に身体を前に回転させ、全身の力を込めて竜の脳天に大剣を叩き付けると、地響きと共に、巨竜が地に屈服する。
少しだけだが、金剛石のような硬さの装甲にヒビが入ったのが見えた。
……だが、まだ小さい……
地に降り立つと、大剣を構え、再び巨竜に突撃する。
それを見た竜が、慌てたように頭を持ち上げ、上空に羽ばたいて行った。
(くそ……空に逃げられたか。)
跳べるだろうかと迷っていると、突然、身体が持ち上がって宙に浮き出す。
(……遙?!)
遙の方を見ると、苦しそうな顔をしながら、こちらに腕を向けていた。
足元で巻き起こった竜巻のような旋風が、身体をさらに上空へと飛翔させる。
上を見上げると、いつの間にか空には雲が立ち込めており、雲の間から稲光が顔を覗かせてせていた。
こちらの接近に気付いた竜が、上空から、これまでに見た中で最大級の火炎を吐き出す。
(……アイツの装甲を破るには、もうこれしかない! ……今のこの力なら……!!)
大剣を身体と垂直になるように持ち、高速で身体を旋回させた。
回転が最高速に達した所で剣を上に掲げる。竜巻の力が強まり、身体の回転と上空へ進む速度が加速する。
まるで巨大な風のライフル弾になったかのように、身体を超高速で回転させたまま、炎をかき分け、巨竜の口の中へ突入した。
「ガアアアア―――――!!」
竜のとも、自分のものともしれない咆哮が、竜の口の中で響き渡る中、全身全霊をかけた光の大剣が竜の喉を突き破っていく。
「オオオオオ――――――――――ッ!!」
雄叫びを上げながら、身体が竜の身体を突き抜けると、眼前に夜の大空が広がった。
竜の絶叫が漆黒の空に響き渡る。
ゆっくりと地に向かって墜ちていく中、地上にいるリザの姿が見えた。
リザは強い意志を持った目で、天を仰ぎながら腕を突き上げている。
(……最後は……お前が決めろ……)
薄れゆく意識の中で、最後の役目をリザに託した。
「全天に広がりし 神の雷よ 汝が正義にかけて、我は問う 裁きの審判を 今ここに!!」
リザの叫びと共に、巨大な魔法陣が天空に出現する。
『 天雷烈光輪舞 (アーク・ヴォルティック・ブラスト)!! 』
空一面に広がった雲から集まった雷光が、巨竜の頭上に収束し、幾筋もの雷撃が竜の頭部を高速で回転しながら撃ち抜いていく。
ギャアアアアアアア――――――!!
漆黒の夜空に雷光の乱舞が煌き、竜の断末魔が響き渡る。
そして最後に、一つに結集した巨大な雷球が、闇夜を掻き消すような眩い閃光を放って、
巨竜の身体を撃ち貫き、天と地を揺るがすような雷鳴が轟いた。
無数の雷撃に撃たれた竜の巨体が、ブスブスと煙を上げ、大地に落下し、地鳴りが響く。
―――こうして俺たちの戦いは、ようやく幕を下ろした。




