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suspects

「あの化け物をこのままにしておいて、大丈夫か?」


ふとわいた疑問をリザに投げかける。


「ここであの者に対抗できるような魔法を行使すると、建物が崩壊する恐れがあります。

今は人々を避難させる事が最優先かと」


もっともな意見だった。

ここはリザに従おう。


部屋にいる連中を見回して、声を掛ける。


「この中に、ここから出口までの道順がわかる人は?」


化け物の恰好に扮した何人かが手を上げる。おそらくスタッフだろう。

よく見れば、作り物の顔や衣装だとはわかるが……紛らわしい。


「ここから出口まで、脱出にどれぐらいかかりますか?」


 一番近くにいたミイラ姿のスタッフにたずねる。


「ここからだと、およそ20分といった所でしょうか…… ただこの人数で移動するとなると、もう少しかかるかもしれません」


2、30分って所か……。長いな……。


「それだと、ここから入口に戻った方が早いですか?」


「そうですね……。ここからだと入口の方が近いでしょう」


やはりそうなるか……なら。


「よし! 入口まで戻ろう。俺とスタッフの人で先導をするから、リザと遙は後方を頼む」


「承知致しました」


「わかった。任せて!」


先ほどまで震えていた時と違い、遙の目には力強い意志の光が宿っている。

これなら任せても大丈夫だろう。


「セ、セナ兄ちゃん……」


未来と美奈が不安な表情を見せてくる。


「大丈夫だ。お前たちは絶対俺たちが守る」


力強い声で勇気付け、未来と美奈の頭を撫でる。

絶対に……守ってみせる。


「坂田、デーヴ、また頼むぞ」


「わかった!」


「大船、いや軍艦に乗ったと思って任されよ!」


親指を立てて応える坂田とデーヴ。


「セナ! 早く!」


叩き続けられるドアを見て、遙が急かしてくる。


「じゃあ、みんな俺達の後に付いてきてくれ!」


スタッフと共に集団の先頭に立ち、来た道を戻り始める。



それにしてもよくもまぁこんな迷路を作ったものだ。

道を知っているスタッフに案内して貰ってるからいいものの、そうでなければ、確実に道に迷っていただろう。


やがて見慣れた場所が見え始め、この建物に最初に入った大広間に着く。


「やった…!! もうすぐ入口だ……!!」


客の一人が歓声を上げる。


――だが、喜んだのも束の間、入口は瓦礫の山でふさがれていた。


(さっき聞こえた地響きはこれか……)


「な、なにこれっ!」


「ど、どういう事だよ……」


封鎖された脱出口を見て、驚きと戸惑いの声を上げる客たち。


そして、瓦礫の周りには、四体の化け物たちが立ち並んでいた。


「う、うわっ!!」


客たちが悲鳴を上げ、俺の後方へと回る。

化け物たちの見た目は、ゾンビ、フランケンシュタイン、ドラキュラ、首なし騎士に似た格好をしていた。

特にホールで襲われていた客たちは、怯えるような視線をその化け物たちに送っている。


ただ、よく見ると化け物たちの肌の質感は作り物のように見える。


おそらくスタッフだとは思うが、念のため警戒しながら拳を構える。

腕輪は発動させたままだったので、力強い光を発していた。


「うわっ! わ、私たちは普通の人間です!」


拳を向けられて、ゾンビ男が慌てて手を振る。


「…………。どうしてこんな状況に?」


 警戒を解かず、拳を上げたまま尋ねる。


「わかりません。大きな音がしたので、来てみたらこんな事に……」


フランケンシュタインの恰好をしたスタッフが答えた。


「おそらく、天井が崩落したんでしょうな」


ドラキュラ風の男が上を指す。

天井を見ると、天蓋に大きな穴が開き、夜空が見えた。


「その間、みなさんはこちらに?」


遙が化け物の恰好をしたスタッフたちに尋ねる。


「いえ。最初に外と連絡を取った後は、辺りにお客様がいないか、この4人で探索していました」


首なし騎士が答えた。


「そちらは何があったんですか? 何か争うような音が聞こえましたが」


ゾンビ男がたずねてくる。


「実は……」


一緒に来たスタッフが、ホールで起こった事を説明を始めた。


「本当ですか……そんな事が……」


フランケンシュタイン姿の男が驚いた顔をする。普通ならにわかには信じがたい話だったかもしれない。

だが、今の状況とここ最近起こったニュースの事もあって、疑っているという感じでもなかった。


「他の脱出口は?」


「ここを除けば、あとは出口だけです……」


ドラキュラ男が沈んだ声で俺に言う。


腕輪の力で壁を破壊するにも少し分厚すぎる。

それに天蓋の状況を見るに、下手すれば建物自体を崩壊させかねない。


まだ建物内に人が残っている可能性もある。無理はしない方がいいだろう。


「あまり悠長にしている時間はありません。急いでここから出ましょう」


リザがスタッフたちを諭す。


「わ、わかりました……」


ドラキュラ風の男がオズオズしながらうなずく。


「…………遙、リザ。悪いが今度はお前たちが先頭を行ってくれ。俺が後衛を務める」


「うん、わかった」


「了解致しました」


少し思うことがあったので、隊列の入れ替えを申し出たが、二人とも快く承諾してくれた。


「一応注意して見ているが、くれぐれも気を付けてくれ」


そう告げると、リザが強くうなずいた。


「じゃあ行きましょう。また案内をお願いします」


「は、はい。では……」


ホールからここまで案内してくれたミイラのスタッフが、先頭に向かう。


今度は先頭を遙とリザとスタッフ、最後尾を俺で集団をはさむような編成で出口まで向かう。

 周りを警戒しながら、最後尾で真ん中にいる連中を注意してみていた。


 ……特に一人、おかしな事を言っている奴に。


 しかしそれだけでどうするワケにもいかないので、注意しながら進む事にした。


途中、食堂のある部屋を横切った時は、皆の緊張も高まった。

しかし、死神もどきの化け物は現れず、廊下まで響いていた衝撃音も聞こえなくなっていた。


諦めてどこかへ行ったのだろうか……? 


先導するスタッフが、次々と扉を開け、複雑な迷路を進んでいく。


「もうすぐです! あそこのドアを開けて、大広間を通り抜けたら出口です!!」


スタッフが声を上げて指さす長い廊下の先に、ドアが見える。

そのドアを開くと、大きく開けた空間があった。

全員が一斉に中に入り、大広間の先に見える大きな扉を目指して走り出す。


先頭集団が部屋の真ん中あたりまで来た時、上方で何かが割れるような音が響き、大広間が暗闇に包まれた。


「わーっ!!」


「こ、今度は何?!」


客たちの声が暗闇の大広間に響く。


「セナっ!」


遙が叫ぶと、発動したペンダントが光り輝き、暗闇の空間を照らし出す。


だが遙の合図より早く、俺はリザを背後から襲おうとした者の攻撃を双剣で受け止めていた。


剣からも放たれた光が、暗闇の奇襲者の姿を浮かび上がらせる。


「……なぜわかった……?」


ボロ切れから長い爪を伸ばし、天井が崩壊した広間で会ったゾンビ男が声を出す。

剣で相手の身体を弾き出し、人外の者と距離を取った。


「……確証があったわけじゃない。だが、妙だと思ったのはお前の発言だ。ホールでの戦いを見ていないのに、お前の最初の反応は不自然だった」


コイツは俺が身構えるなり、『普通の人間』と言った。

まるで『普通じゃない人間』を見たかのように。


だがそれを見る事ができたのはホールにいた人間だけだ。

コイツがホールの事を知らないのはその後の発言からもわかる。


「それと耳だ。争いの音なんて、近くにいた俺たちでもかろうじて聞こえるぐらいだったのに、さらに離れた場所にいたお前に聞こえたのはおかしい」


現に他のスタッフには聞こえてないようだった。

聞こえていれば、客を探しにホールの方へ向かっていただろう。


「……ふん。人間の耳とはあんな音も聞こえぬのか。まぁいい。この恰好にもいい加減うんざりしていた所だ」


 ゾンビ男が遠吠えのような声を上げると、身体がみるみる内に膨れ上がり、破れた衣装の中から巨大な狼の化け物が姿を現す。


「ひっ!! ば、ば、化け物……っっ!!」


その姿を見て、人々が悲鳴と叫び声を上げる。

だが、俺には見知った姿だった。


「お前は、この前の……」


「あの時は世話になったな、小僧」


やはりこの間の人狼か。


「こんな所で何をやってる?」


「フッ。少量だが、定期的に恐怖を供給してもらうにはいい場所だったんでな」


「化け物のお前が、よくスタッフの中に潜り込めたな」


「すり替わる事など造作もない」


「すり替わる……って、すり替わった相手はどうしたんだよ?」


そう聞くと、人狼はニターッと大きな口を裂いて笑う。


「もちろん、喰ってやったぞ。この世界に紛れ込むには身分も必要なんでな。男の肉など大して美味くもなかったが、なかなかどうして、生きながら食われる人間の恐怖は、かなりのものだったぞ」


グッグッグ……と、不気味な声で人狼が笑う。


「ひっ……ひぃぃ……」


人狼の話を聞いて、客たちの顔が恐怖に染まっていく。


「てめえ……!」


腹の底から怒りが込み上げてくる。

俺の横でリザが手を上に向けて、呪文の詠唱を開始した。


「光の精霊よ 闇を照らす灯りとなれ ―光霊球ライティング・スフィア


リザの手から光の球が昇り、大広間を照らし出す。


そうだ。

ここにいる人たちは絶対に守らなければならない。


「みんな、出口まで一気に走れ! コイツは俺たちが食い止める!!」


俺の合図を受けて、客とスタッフが悲鳴を上げて一斉に駆け出した。


「ククク……そう簡単に逃がすか」


人狼が逃げる群衆に向かって、雄叫びを上げた。

大音声がホール内に響き、こだまする。


「ひっ……あうっ!」


耳をつんざくような雄叫びに、足をすくませた未来が地べたに倒れた。


「未来!!」


美奈が倒れた未来に慌てて駆け寄っていく。

最初の獲物を定めた人狼が、獣の猛速で疾走する。


「い、いや……」


未来の目が恐怖で開かれる。


「カカカ……こいつは美味そうだ……!!」


「てめえ……いい加減にしろよ!!」


「なにっ?!」


人狼に追い付いた俺が、獣人の脇腹に渾身の蹴りを叩き込む。


「グオァァ――――ッ!!」


吐しゃ物を撒き散らしながら、吹き飛んだ人狼が壁に激突する。

壁は崩壊し、瓦礫が獣人に降り注ぐ。


「大丈夫か、未来?」


「う、うん……」


「美奈、未来を頼む」


「わ、わかった。未来、立てる?」


腕の下に肩を入れ、美奈が未来を立たせようとする。


「あ、ありがとう。美奈ちゃん。大丈夫、立てるよ」


坂田とデーヴ、そしてその反対側からリザと遙も駆け寄ってきた。


「……早く逃げろ、お前たち」


「う、うん。セナ兄……気を付けて……」


「ああ」


倒れた人狼を睨み続けたまま答える。

まだあれぐらいで終わるような奴じゃない事はわかっている。


案の定、うめき声を上げながらも、人狼は身を起こし始めた。


「……クッ、ガハッ……こ、小僧……! それほど殺されたいのなら、貴様から食い殺してやる!!」


憎しみに満ちた目で人狼が立ち上がる。

だが、はらわたが煮え繰り返ってるのはこちらの方だ。


よくも未来を…


「てめえは……てめえは今日、ここで終わりだ!!」


俺の開戦合図と共に、全員が戦闘態勢に入った。


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