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despair in the dark

ドアを開くと、いくつものテーブルと椅子が並べられた食堂のような部屋があった。


視線の先にドアがあり、騒ぎの声はそこから聞こえてくるようだった。

仲間を部屋の真ん中あたりに待機させ、一人、ドアの前に行き、ゆっくりとドアを開けようとした時、


「助けてくれえええええ―――――!!」


突然聞こえた叫び声に、思わずドアをバン! と大きく開く。


そこは大きなホールで、中央には、多数のゾンビに囲まれて泣き叫ぶ人々の姿があった。


(……なんだ? 何かの演出か?)


それにしても客の怯え方が普通じゃない。

その時、ゾンビの一体が若い男につかみかかった。


「や、やめろ――――! は、離せ―――っ!!」


男は必死に振りほどこうとするが、そのまま引き寄せられゾンビに首を噛まれる。


「う、うわああああ――! た、助けてくれ――――!!」


泣き叫びながら、男が他の客たちに助けを求めた。

しかし客たちは、叫び声を上げながら男から逃げるように離れる。


抵抗していた男の顔が次第に生気を失い、土気色に染まっていく。

男はそのまま地に倒れるかに見えた。


しかし、寸でのところで立ち留まり、今度はその男が、自分を見捨てた客たちの方へと、うめき声を上げながら歩き始めた。

それを見た客たちが悲鳴を上げて逃げ回る。


「おい! こっちだ!!」


声に反応した客たちがこっちを見て走りだし、その後をゾンビの群れが追う。


「なんだ? 何が起こってるんだ……まさか本物のゾンビ……?」


「いえ、ゾンビではありません。あれは暗黒魔術の一つです。噛まれた者が次々にあのような状態になっていく、感染性のある呪術です」


いつの間にか、後ろに立っていたリザが答える。

その後ろには遙も来て、ホールの様子を伺っていた。


「呪術? じゃあまだ死んだワケじゃないのか?」


「はい。それでは解呪に入ります」


「わかった、頼む。……遙!」


 遙と入れ替わるように後ろに下がる。


「うん!」


遙がドアの前に立ち、両腕を前に突き出した。

ペンダントの宝珠が光を放つと同時に、突風がゾンビもどきの群れを押し返す。

その間にリザが詠唱を開始した。


「聖なる光よ 闇の法に捕らわれし魂を 神の加護により解き放て」


リザの両手に白い光が収束する。


『 聖呪解法 (カース・デコード)』


リザの両手から解き放たれた光が呪術に侵された人々の群れを照らし出す。

人々の身体から紫の煙が抜け出し、顔に生気が戻っていった。


「う、うぅ……」「い、一体、なにが……?」


意識が混濁しているのか、呪術から解放された客たちがうめき声をあげる。


「オイ、大丈夫か?! しっかりしろ!」


正気に戻った近くの客に駆け寄り、体を揺さぶる。


「……そ、そうだ……いきなり変な骸骨に襲われて……」


その時、ホールの向かいのドアが大きな音を立てて開き、中から漆黒のフードを着た死神のような骸骨が姿を現す。


その全身は黒いオーラに包まれ、周りの景色が歪んで見える。

見ているだけで身の毛のよだつような空気が、こちらにまで伝わってきた。


「あれは……!!」


リザが声を上げた。

いつも冷静なリザがこんな声を出すなんて……それだけヤバい相手なのだろうか。


フード姿の骸骨が腕を上げると、身にまとった黒い焔から、いくつもの黒い火の玉が飛び、呪術が解けて正気に戻った客たちに向かって襲いかかる。


「う、うわああああっ……!!」


「ひっ、ひぃぃぃ!」


客たちは、身に迫る禍々しい黒い炎から逃げようとする。


「ハァァ―――ッ!」


後ろから遙の掛け声が聞こえ、客に迫っていた黒い火の玉は、風の弾丸に撃ち落とされ、空気の弾ける音とともにかき消されていった。


「みんな! 急いであの部屋へ逃げ込め!」


ホールに残った連中に向かって叫ぶと、客たちが悲鳴を上げて食堂の中に駆け込んでいく。


「なんだ、あの化け物は!?」


「あれは『不死の王』と呼ばれる最高位の魔法生命体です。おそらくは、この状況の原因となったものでしょう」


「ヤバいのか?」


「その魔力は魔王にも匹敵すると言われています。しかし、本来は冥界の住人であり、生者の世界に現れる事はないのですが……」


「そうだ。感謝するがいい。貴様の為に、私がわざわざ召喚してやったのだからな」


 声は上方から聞こえた。見上げると、河原で戦った魔術師が宙に浮かんでいた。


「アイツか……! アイツが呼び寄せたってのか……!!」


「ここは引きましょう。まずは人々を逃がす事が先決です」


「くそっ……!! オイ、みんな早く部屋の中へ逃げ込め!!」


 異常事態に、人々が半狂乱になりながら部屋に殺到する。 

全員が逃げ込んだ後、俺は急いで扉を閉め、腕輪の力で持ち上げたテーブルを、扉に叩き付けるように積み上げていく。


食堂に集まった人々が、尋常でない俺の腕力に悲鳴を上げるが、そんな事を気にしてる場合ではない。

それにこんな状況で人を導く為には、力を示す事も必要だとも考えた。


「全員でテーブルと椅子を立て掛けて、バリケードにするんだ!」


食堂にいる全員に向かって、大声で指示を出す。

仲間と客が大急ぎでテーブルと椅子をドアの前に積み重ねていく。


「こ、これだけあれば、あ、安心ですかな……」


肩で息をしながら、デーヴが額の汗をぬぐう。

しかし、向こう側からドアを叩きつける音が響き、立て掛けた椅子やテーブルが震動で

ガタガタと崩れ落ち始める。


「ひ、ひぃぃぃ……や、破られるの!?」


坂田がビクビクと怯えた表情で、ドアを見る。


積み重ねられたバリケードの前にリザが歩み寄り、その手をかざす。


「【壱】 【参】 【伍】 【弐】 【四】 【六】

 ……万物に宿る大いなる力よ 互いに結び合い 壁となり 扉を閉ざす鍵となれ 」


 リザが詠唱とともに、青い光の魔法陣がバリケードの上で展開して回り出す。


『 六芒魔封鍵 (フォース・ロック)』


術が完成し、魔法の力によって椅子やテーブルが陣の中心で引き寄せられ、結合した。


ドアの向こうからは相変わらず衝撃音が続いているが、リザの魔法によってバリケードはビクともしなくなった。

客や仲間たちから、驚きと安堵の声が漏れる。


「これで少しの間持つはずです。今の内に外へ出ましょう」


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