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at the haunted house

一日中、様々なアトラクションやパレードなどのイベントを見て回り、日が暮れた。

皆でパーク内の飲食店で夕食を取り、食後の散歩がてらにショップ巡りをしていた所、


「セナさん、あれはなんですか」


リザが向こうの方を指さす。その先を見ると、西洋風の古城のような建物が見える。


「中世ヨーロッパの城をモデルにしたお化け屋敷……だそうだ」


ポケットから出したパンフレットを見ながら簡単な説明する。


「入ってみてもよろしいでしょうか?」


「俺は構わないが……」


他のメンバーの方を見ると、皆一様にブンブンと首を横に振る。


「り、リザ殿……あ、あそこは世界一怖いお化け屋敷だという話です。リザ殿のような可憐な女性が入るような場所では……しかもこんな夜に……」


「そ、そうそう……実際、本物のオバケが出たって噂もあるくらいだし……」


「ほ、ホントなのそれ……」


美奈の噂話に遙がふるえる。


未来は目に涙を浮かべて、じっとこっちを見ていた。

坂田に至っては死んだふりをしている。コイツらは昔からオカルト系の話は苦手だった。


「私だけ行ってもよろしいでしょうか」


その言葉にええっ、と声を上げる仲間たち。


「お前一人だと色々不便だろう。俺も行くよ」


いくら知識で得ているからといって、リザは何かと簡単な手続きでも戸惑っている場面が多い。一緒に行った方がいいだろう。

しかしその言葉を聞いて、死んだフリをしていた坂田がガバっと起き上る。


「ちょ、ちょーっと待った! お化け屋敷にリザさんと二人きりだなんて、そんなおいしいシミュレーシ

ョンは、天が許してもこのボクが許さないよ!」


「シチュエーションな」


「そうだそうだ! 国民が黙っちゃいませんぞ!」


「どっかの議員か」


「わ、私も行くわ……セナがリザさんに変な事しないようにね」


「するか!」


「じゃ、じゃあアタシも行く……」


苦笑いを浮かべながら美奈が手を上げる。


「えっ? えっ?」


一人戸惑う未来。


「……別に無理しなくてもいいぞ」


「む、無理なんかしてないやい!」


「幽霊城がなんぼのもんじゃーい!!」


ガクガクと足を震わせながら、それぞれ声を上げる坂田&デーヴ。


「そうか。じゃ行くか」


「はい」


ガクガクと震える仲間たちをよそに、リザと二人、一足先に幽霊城へと向かった。

その後に仲間たちが、泣き言を言いながら付いてくる。


「ま、待ってよー!」


一人取り残された未来も、後から駆けてきた。


幽霊城に入ると、レセプションルームで簡単なアトラクションの説明を受ける。

部屋の中には自分たちも含めて、20人ほどいた。親子連れ、恋人、友達様々だ。


どうやら迷路系のアトラクションで、各部屋に仕掛けられた演出や怪物に扮したスタッフが、客たちを驚かせるタイプのお化け屋敷のようだ。


建物の中に入ると、がらんと開けた大広間があり、上の方からおどろおどろしいBGMが流れてくる。大広間を見渡すと、正面に二つ、左右にもそれぞれ一つずつ大きな扉があり、さらに2階へと続く階段もある。


……初っ端から結構選択肢が多いな。

一緒に入った他の人たちは各自、扉を選んで分かれて行った。


「さて、どの扉を選ぶ?」


 振り返って仲間に尋ねる。

美奈と未来は遥に寄り添っていた。頼られている遥も怯えてはいるが。


「で、何やってるんだお前らは」


背中をくっ付け合うようにして立っている、坂田とデーヴを見る。


「ふっふっふ。こうしてお互いの背中を守ってさえいれば、敵に背後を取られる事はありません。まさに究極の戦闘隊形」


「デーヴ、ボクの背中はお前に預けた」


「ささっ、セナ殿も早く」


「絶対にいやだ」


アホ二人は放っておいて、遥に先ほどの質問を投げかける。


「どの扉から行く?」


「う、うう……アンタに任せる」


青ざめた顔で遙が答える。リザの方も見るが、


「どの扉を選ぶかはお任せします」


という答えがかえってきた。

というか出発地点からまったく先に進む事のできないパーティだった。


仕方ない、自分が決めるしかないようだ。


とりあえず、迷路攻略の基本の左手法で行ってみる事にした。

一階左の扉を開けると応接室があった。テーブルの周りにソファーが2つ並べられている。  


この部屋にも今開けた扉を除いて目の前と右にドアがある。

とりあえず前の扉を開けてみた。


「ちょ、セナ兄……そんなに急がないでよ」


美奈が抗議の声を上げる。

扉を開けると、中から吸血鬼が現れ、恐怖を掻き立てるような音楽が部屋の中に響く。


「きゃあああああああっ!!」


「いや―――――っ!!」


「うおおお――――!」


室内に仲間の悲鳴がこだまし、それと同時に背中と両腕が引っ張られる。


「オ、オイ、引っ張るな……!」


抗議の声も虚しく、遙には背中から抱き付かれ、両腕には未来と美奈がしがみついてきて、身動きが取れなくなる。


「キャ―――! キャ―――!」


「イヤ――――――!」


「ちょ……、ぐ……ぐるじい……あ……と、ム……ネが……」


後ろにしがみ付いた遙が、その豊満な胸を背中にグイグイと押し付けながら、腕を首に回し締め上げてくるが、両腕を未来と美奈に密着されて振り払う事ができない。


吸血鬼は部屋を一回りすると、部屋から出て行った。

部屋の騒ぎも次第に収まっていく。


「び……びっくりしたぁー……」


「怖かったよぉぉ……」


俺の腕をブンブンと振りながら、美奈と未来がそれぞれ泣き言を漏らす。


「し、死ぬかと思った……」


背中に抱き付いた遙が、ハァ―っと息を吐く。


「それは……こっちのセリフだ……あと、動けないんだが……」


とりあえず身体を取り押さえている三人に声を掛ける。


「ご、ごめんなさい……セナ兄ちゃん……」


「ち、近くにいたモンだから……ごめんね……アハハ」


未来と美奈が謝って、腕から離れる。いや、こいつらはまだいい。


「な、何よ……だ、だって怖かったから……しょうがないじゃない……」


不満を言いながら、遙が背中から離れた。


「俺は、お前のチョークスリーパーの方が怖かったよ……」


坂田とデーヴを見ると、背中をくっ付けたまま、二人でぐるぐると回っていた。


「オイ、もう行ったぞ」


ねずみ花火のように回る二人に声をかけると、二人がゆっくりと動きを止める。


「……へ? い、行ったの……?」


「ど……どうやら拙者たちの動きに恐れをなしたようですな……フフフ」


リザを見ると、何事もなかったかのように仲間たちを見ている。


「リザはこういうのは平気なのか?」


「はい。廃墟で悪霊退治を行った事も、何度かありますので」


それを聞いて、遙たちが震え上がる。


……本物のエクソシストかよ……だがそれなら心強い。


「リザ、悪いけど俺の後ろから付いてきてくれるか?」


「了解致しました」


そう言って、リザが後ろに立つ。

これなら自分一人にしがみ捕まれて、身動きが取れなくなる事はないだろう。


「よし、じゃあ行くぞ」


仲間たちがコクコクとうなずく。

残った反対側のドアを開ける。


……今度は何も出ない。どうやら廊下のようだ。


「……おい、付いてこないと進めないんだが」


数メートル離れた場所で固まっている仲間たちに声を掛ける。

付いてきてるのはリザしかいない。


「……やっぱり、残ってた方がよかったんじゃないか、お前ら……」


一応自分たちで選んだとは言え、少し可哀相な気がしてきた。

先頭を俺とリザ、その次に遥たち三人、最後尾を坂田とデーヴという隊形で廊下を歩く。


「結構長い廊下だな」


「そうですね」


後ろからリザが答えてくる。


しばらく歩き続けると、目の前にドアが2つ見えた。

さて、今度はどちらにしようか……そう考えた直後、すぐ後ろでバタン、という音がして、


「オォォォォー……」


という、うめき声が聞こえてきた。

振り向くと、ちょうど遙たちの横の壁からフランケンシュタインが姿を見せていた。


「ひぃぃぃぃぃぃ!!」


「こわ―――っ!! こわ―――っ!!」


再びこだまする仲間たちの絶叫。悲鳴を上げた遙が、リザに向かって飛びこんでくる。


しかし、リザは頭を後ろに向けただけで、身体はまだ後ろを振り返っておらず、遙に背中を押される感じになった。リザがバランスを崩し、前のめりになって倒れそうになる。


「危な……いぃ?!」


リザの肩を支えて、倒れるのを防ごうとするが、後ろに回り込んできた美奈と未来に押されて、逆に自分も、リザの方へとバランスを崩す。

今度はリザと俺を中心に、遙たちに三方向から押され、押し合いへし合いの状態になる。


「お、おい……押すな……お前ら……」


 正面からリザと向かい合う形で身体が密着し、リザの胸の柔らかな感触が伝わってくる。


「いやああああ! こないで――――!」


「セ、セナ兄ちゃん、たたたすけてええええ――――!」


制止の声など聞く耳も持たずに、遙と未来が叫び声を上げる。


坂田とデーヴはまたもや背中をくっつけて、グルグル回っている。

皆が怖がったのを満足そうに見て、フランケンシュタインは壁を回転させて消えて行った。


「……おい、行ったぞ……」


「うぅぅぅ……び、びっくりしたよぅぅ……」


「も、もうやだ……」


目に涙を浮かべながら、未来と遙が離れる。


「……オイ、美奈……」


俺の後ろから離れようとした美奈に声をかける。


「な、なにセナ兄?」


「お前、わざと押しただろ……」


「えっ……な、なんの事かなー?」


口笛を吹いて、美奈が目を逸らす。


「手の平で押したら、流石にわかるわ」


「へっへ、バレたか」


舌を出してあっさり認めた。


「役得だったでしょー? リザさんも胸大きいからねぇー。シシシ……」


 美奈が小声で、セクハラ親父のような事を耳打ちしてくる。


 ……さすがは坂田の妹というか、トリックスターぶりはメンバー随一だった。

兄の方は向こうで、デーヴと抱き合うように震えているが。


「ハァ……とりあえず進むぞ」


仲間が落ち着いた所で、ため息まじりに伝え、歩き始める。

先ほど見えた、廊下の先にある2つのドアの前まで来た。


……どちらのドアを開けるつもりだっただろうか、と騒ぎの前の記憶を呼び起こそう

としていた所、後ろの方から地響きのような音が響いてきた。


「な、何……今の音……?」


遙がビクビクしながら後ろを向く。

何か出てくるのかと、皆後ろを振り返って待ち構えるが……何も現れない。


他のグループが何かの演出に遭遇したのだろうか。

しばらくじっとしていると、遠くの方から小さな叫び声が聞こえてきた。


「お、おぉ……他のグループもハッスルハッスルしてるみたいだね……」


坂田がデーヴと背中を合わせながら苦笑する。


「……なんか叫び声だけじゃなくて、怒鳴り声や争ってるような音も聞こえてこない?」


遙にそう言われ、耳をすましてみる。


「……言われてみれば、確かに少しそんな音も聞こえるな……」


騒ぎの音は地響きのした後方からではなく、横のドアの先から聞こえてくるようだった。


「少し様子が変です。行ってみましょう」


リザが少し緊迫した声を出す。


「そうだな」


肯いて、ドアに手をかけようとすると、美奈が背中を引っ張ってきた。

また何かするつもりかと身構えたが、先ほどまでとは様子が一変し、顔を青ざめさせて、ブルブルと震えている。


「……どうした美奈?」


「だ、ダメ、セナ兄……。そっち行っちゃ……。なんかすごくイヤなカンジがする……」


……嘘や冗談を言っているような顔には見えない。


「み、美奈ちゃん……」


未来が心配そうな顔をする。


「心配するな。俺たちがいるから」


安心させるように、美奈の肩に手を置く。しかし、美奈は昔から勘の鋭い所がある。


……もしかしたら本当に、何かよくない事が起こっているのかもしれない。

念の為、警戒しておくに越したことはないだろう。


「俺が前を行く。遥は後ろを頼む」


言わんとしてる事を察して、コクッと肯いて遙が後方に回る。


「リザは真ん中で、みんなのサポートをしてくれ」


「了解しました」


「坂田とデーヴは、美奈と未来を頼む」


「お、おう! なんだかわからんけど任せとけ!」


「天使たちに手を出そうとする輩には、し、小生の右手のサイコガンが火を吹きますぞ!」


坂田とデーヴが背中を離して、未来と美奈の横に付く。

とりあえず一応の陣形は整えた。


(……神具の準備もしておくべきか)


意識を集中すると、腕輪が光を放ち、力場の放出と共に起動する。

後ろの方からは、遙の神具だろう、柔らかな風が吹き始めた。


「よし開けるぞ」


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