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Invitation

家路を辿りながら、腕輪を見ていた。やはり外そうとしても、腕から離れない。


「……体育の時とかどうすんだ、コレ」


そういえば、形状を変えるとか言ってたな。透明とかにならないだろうか?

試しに透明になるよう念じてみる。すると腕輪はスッとその姿を消した。


「……おお、消えた。」


だが感触はあるので、腕輪がある事はわかる。他にも色々できるのかもしれないが、とりあえず生活に支障がでないのなら、これでいい。

そう思い、それ以上の事は試さなかった。


(……もっとも体育で気を付けなければいけないのは、見た目の問題だけじゃないだろうけどな。)


先ほどジャンプした時の、感覚と光景を思い出す。

落下した時はさすがに恐怖だったが、見慣れぬ景色と力の開放に高揚感を抱いた事もまた事実だった。


家に着くと、まず制服を着替えようと、自分の部屋がある二階へと上がった。

部屋のカーテンを閉めようとした時に、家の門の所に人影がある事に気付き驚く。


「うおっ……だ、誰だ?」


よく見ると先ほどの少女だった。

少女は家の門の前で、ヒザを抱えて座っている。

はぁ……と、ため息をつきながら一階へと降り、玄関を開ける。


「帰れ、って言わなかったか?」


「……私にはもう戻る事はできません」


 こちらを見る事もなく、少女は答えた。


「戻る事ができないって……どういう事だよ?」


「自分の世界に帰る手段を知らないという事です」


「なっ、戻れないのに、どうしてこっちに来たんだよ」


「……私にも分かりません」


再び暗く重い表情でうつむく。


(……お前に分からない事を俺にどうしろってんだよ?)


そう考える自分の横を夜風が吹き抜けた。


「さむっ!」


ここで答えの見えない問答していても寒いだけだな。


「あーもうわかった、わかったよ。寒いし、とりあえずウチに上がれよ。部屋なら空いてるから、泊まる所ぐらい貸すよ」


その言葉に少女が顔を上げる。


「べ、別にヘンな気はないんだからなっ! ……寒いからだからなっ?」


「……はい。ありがとうございます」


腰を上げて、頭を下げる少女。


礼儀正しい奴。

こちらの世界の事を学んだと言ったが、コイツの世界にも同じような風習があるのかもしれない。


家のドアを開けて少女を招き入れ、リビングへと案内し、テーブルに座らせる。

とりあえず茶でもと、緑茶を出そうとしたが、なんとなくイメージ的に紅茶かと思ったので、紅茶のバックにお湯を入れてミルクティーを作った。


「紅茶でいいか? というより、そっちの世界にお茶ってあるのか?」


「はい。私の国にも似たようなものはあります」


「そうか。ならよかった」


ソーサーの上に乗せたミルクティーのカップを、少女の前に置く。


「ありがとうございます」


そう言うが、手を付けようとしない。表情はまだ沈んだままだった。


「……」


「……」


再び沈黙。気まずい……。


「……えーと、名前なんて言ったっけ? 確かリザなんとか」


あまり自分から話をする方じゃなさそうなので、こちらから話題を振る。


「リザ=シルフィール=レクスシオンです」


「……長いな。リザって呼んでいいか」


「構いません」


「俺の名前は……セナって呼んでくれればいい」


「はい。セナ様、よろしくお願いいたします」


「さ、様? い、いや、せめて「さん」とかにしてくれ……」


「かしこまりました。セナさん。どうぞよろしくお願い致します」


「あ、あぁ。よろしくな……」


礼儀正しいというか、

育ちの違いなんだろうか。。


見た目は丸っきり外国のお嬢様と平民だが。


「そういや、腹は減ってないか? 簡単なものでいいなら作るけど」


「いえ、大丈夫です。お気になさらないで下さい」


「そ、そうか……。まぁ、腹が減ったら勝手に食べてくれ。台所も使ってくれていいから」


「ありがとうございます」


 食事をしながらなら、もう少し会話も弾むと思ったんだが、甘かったか。


 というより、自分の方が腹減っているのだが、一人だけ食べるのも気が引ける。


「な、なら風呂入るか? 疲れてるだろ? 風呂入ってサッパリしてこいよ」


風呂っていう習慣もあるのかわからなかったが、とりあえず聞いてみる。


「ありがとうございます。後で入らせていただきたいと思います」


「今入ってきても別に構わないけど」


「いえ、今は……」


うっ…話題がもうないぞ。。

そもそも、異世界人と共通の話題なんて……いや、あるか。


「あの島の事だけど……」


リザが顔を上げて、こちらを見る。

やっぱり、この話題には反応するのか。


あまり関わりたくはないが、興味がないわけではない。身の安全を守る為には情報収集も必要だろう。


言葉を続ける。


「どうしてこの世界に現れたんだ?」


「正確な事はわかりませんが、おそらくは時空封印魔法の暴走によるものだと思います」


「時空封印魔法?  どういう事だ? もう少し詳しく説明してくれ」


「私たちは、手に負えなくなったあの竜を、時空の狭間に封印する事にしました。計画では竜個体のみを、誰もいない時空に閉じ込めるはずだったのですが……」


「……魔法が暴走して、あの広い空間ごと竜と一緒に、この世界に転送されたってわけか」


「はい……。その通りです」


「アンタも魔法が暴走した時、竜と一緒にあの島にいたのか?」


「はい。……時空封印魔法を行使したのは、私ですから」


「……じゃあ、アンタの魔法が失敗したから、あの竜もこの世界に現れたって事か?」


「…………はい。その通りです……。申し訳ありません……」


少女の表情が暗くなり、目を伏せる。


「………………。まぁ、誰にでも失敗はあるさ……。意図してやったワケじゃないんだろ?


 ……じゃあ、アンタの罪はそれほど重くはない……さ」


少女が上目遣いにこちらを見る。


「……とりあえず話を続けようか。それで、あの島から日本まではどうやって来たんだ?」


「私は最初からこの国に飛ばされていました。あなたとお会いした所から、そう遠く離れていない場所です」


「島とは別々に飛ばされたって事か。何か元の世界に戻る手段はないのか?」


「あの島にまで行ければ、竜を封印する時に使った、時空転移装置があるので、それで元の世界へ戻れる可能性はあると思うのですが……私の魔法だけでは、あの島にたどり着く事さえできません」


「そうか……さすがに飛行機なんかも出てないしな」


例え自衛隊に頼めたとしても、おいそれと連れてって貰える所ではないだろうが。。


「それに、あの竜をこのままにしておいて私だけ帰るわけにも参りません。あれがこの世界に現れたのは私の所為ですから」


やっぱりあの怪獣のような竜の話題になるか……。

自分で話を振っておいて何だがまた俺に頼むんだろうな……と身構えていたが、それ以上は、何も言ってこなかった。


「……流れ的に、また懇願されると思ったんだけどな」


「いえ。確かに先ほどは、自分の都合ばかりを押しつけて、あなたの意志というものを考えていませんでした。申し訳ありません」


深々と頭を下げて、リザが非礼をわびる。


「い、いや、別に頭を下げる必要なんかねーよ……。ま、まぁ、こっちの世界も、もう手がないワケじゃないし、もしかしたら、なんとかしてくれるかもしれないぜ……はは……」


肩透かしを食らい、思わず無責任な軽口をたたく。

だがリザは何も答えずに、ただ自分の前に置かれたミルクティーを眺めていた。


「……じゃあ、そろそろ風呂にでも入ってくるよ。すぐ上がるから、次入るといい」


「ありがとうございます。その前に一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ん。なんだ?」


(まさか……泊めて頂くお礼にお背中をお流し致しますというパターンかっ?!)


バスローブに身を包んだリザの姿が、モワモアと妄想に浮かび上がる。


「セナさんのご家族は、今日はお戻りになられないのでしょうか。泊め

て頂くのですから、ご挨拶をさせて頂きたいのですが」


……妄想は泡の如く消え去ってしまった。


「あ、あぁ……。親父は出張で出かけていて、今日は留守だよ」


がっかりなどしていない。断じて。


「そうですか。お母様も、お仕事の関係でご不在なのでしょうか?」


「お袋は死んだよ。もう何年も前だけどな」


「………そうですか。知らぬ事とは言え、失礼をお許し下さい」


素っ気ない俺の言葉にリザが深々と頭を下げて謝罪した。


「いや……いいさ。そういう事だから、家族の事は気にしないでくれ。親父には俺から連絡しておけば大丈夫だから」


「承知致しました。……では、この国には故人の霊をまつる風習はありますでしょうか。よろしければ、そちらでお母様にご挨拶をさせていただきたいと思います」


礼儀正しいというか律儀というか。

まぁこいつの気が済むようにさせたらよいのだろうか。


「あぁ、あるよ。こっちだ」


席を立ち、仏壇がある部屋へと案内する。


「この線香にこうやって、このマッチで火を付けて、この鈴という鐘を鳴らして、手を合わせて拝んでくれたらいい」


道具を手に取りながら、一通り拝み方を説明する。

その説明通りに、リザが仏壇に線香を上げて鈴を鳴らす。


手を組んで祈りを捧げるリザの身体が、薄っすらと青白い光に包まれていくように見えた。


(……なんだ……錯覚か?)


それともこれが魔法というやつなのだろうか。

不思議な感覚を感じながらも、少女が放つの神聖な雰囲気に気圧されて、その祈る姿を黙って眺めていた。


祈りが終わり、リザがこちらに向き直って座礼する。


「ありがとうございました」


「いや、こちらこそ、ご丁寧に」


 自分の方も礼を返すべく、リザに向かって座礼する。


「……もう一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


「ん。今度はなんだ?」


「こちらの、お母様と一緒におられる方は?」


リザが仏壇の前に飾ってある写真を見る。

その写真には、母と一緒に小さな女の子が笑顔で映っている。


「……あぁ。妹だよ」


俺はまた素っ気なく答えた。


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