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the reason she fights

リザの声が震え出す。


「魔法障壁を突破できても、強化された魔王竜の肉体の頑強さを破るまでには至らず、圧倒的な膂力と炎の前に魔法騎士団は全滅し、……国王も……戦いの中で命を落としました」


 何かをこらえるようにリザは身体を強張らせた。


「国王を失った私たちは、悲しみと敗北感に打ちひしがれました。そして、やがて国中から

敵の強大な力に対抗する為には、私たちも敵と同じ力である憎しみや怒りの感情を組み入れた魔法の力を使うべきだ、という声が上がり始めます」


 悲しみの涙を流す人々、皆に何かを訴えかける人、何かの激しい議論を行う人々、そんな人たちの映像が映し出される。


「あれだけ慈愛の心で満ちあふれていた国が、今まで自分たちが信じていたものが間違っていたかのように、敵国に対する怒りと憎しみを抱く事を奨励し、復讐を果たす事が美徳であり、亡き英霊たちに対する最大の供養であると論じられるようになりました」


リザの表情が暗く、悲しいものになる。


「それで夢や希望を与える事はない、か……」


「私たちの国以上にひどいのは帝国に征服された国々です。帝国は、膨大な量の負の感情を生み出すには、戦争が最も効率的だと考えており、支配下の人民たちを部族や種族ごとに分け、互いに憎しみ合わせ、定期的に争いや戦争を行わせています」


「戦争って……それで人が死んだら元も子もないんじゃないか?」


「死者の数が出生数を上回らないように、強制的に人民に子を産ませるようにしています。そして生まれてくる子供には、他の部族や他国を憎む事を教え込みます。そうやって負の感情の連鎖を続け、エネルギーを搾取し続けているのです」


「…………聞けば聞くほど胸糞の悪くなる話だな……」


「失われた、愛は憎しみ、喜びは悲しみ、信頼は裏切りとなり、夢や希望は決して逃れる事のできない絶望の力を増幅させる為に存在し、そして憎しみは憎しみで返す為に存在する。……そのような考えが、私たちの世界に広がり始めています」


力あるものが正義となる以上、それは必然な流れのかもしれない。……だが……、


「お前も……その考えが、正しい事だと思い始めているのか……?」


「……私には……今の私の世界の流れは、正しい方向に向かっているとは思えません……」


 聞くに堪えない話だったが、それを聞いて少し安心した。


「女王を始めとする、国の大魔術師や賢者たちは協議をし、その結果、魔法の通用しない彼の竜を空間ごと別次元に封印するという結論に至り、怒りや憎しみや悲しみ、恐怖と拒絶、そして復讐心といった負の感情を基に、竜を封印するための時空魔法を完成させました」


頭に冠を載せた美しい女性と、何人かの魔術師風の老人たちの映像が映し出される。


「その魔法を竜に行使する術者として、私は自ら志願し、選考の結果、選ばれる事になりました。………あとの事は、以前お話しした通りです」


映像が途切れ、元のリビングの光景に戻る。


「…………。……一つ聞いてもいいか……?」


「はい」


「……お前の国の国王って……」


聞くと言っておきながら、言ってる途中で聞いてよいのか迷う。


「……私の……父です」


目を伏せてリザが答える。

リザの悲壮感に溢れる目や表情の理由が、これでわかったような気がする。


「そう……か」


母と妹を失った時の自分の心情を思い返す。


「……………」


「……………」


お互いに黙ってしまって、リビングに沈黙が流れる。

気まずさから、頭の中で話題を模索した。


「……お、お前って、じゃあお姫さまだったんだなー。ど、どうりで俺なんかとは育ちが違うなーって、思ったよ……はは……」


「……………」


リザは何も答えず、ただじっと押し黙っている。


「…………。今でもあの竜が憎いのか」


「憎くない、と言えば嘘になります。ですが、私がその憎しみを制御できなかったせいで、このような事態を招いてしまったのは事実です。それに……私はもう……、自分でも制しきれないような、怒りや憎しみに……囚われたくはありません……」


魔法などまったくの門外漢だが、魔法が暴走した理由はなんとなくわかる気がした。

彼女が抱く感情は大きすぎたのだろう。


心が壊れてしまいそうなほどに。


「……なるほど。おかげで色んな事がわかったよ。……話してくれて、ありがとう」 


「………いえ。こちらこそ、お聞き頂いてありがとうございました」


リザが頭を下げて礼を言う。


…………………………


ふと時計を見るともう夕方だった。


もう食事の時間だが、何だか気が重く感じる。

……それはリザも同じだろうが。


「……よかったら、今日は外に食べに行かないか」


少し外の空気を吸いたくなったので、そう誘ってみた。


「はい……構いません」


「近くに美味いパスタを作る店があるんだ。食後に出てくるケーキもこれまた美味い」


「……そうなんですか」


「まぁぶっちゃけ、未来の親の店なんだけどな」


そう言うと、リザの顔が少しだけほころんだ。


「せっかくだから、美奈も呼ぼう。美奈を呼んだら、未来と美奈が遙も呼ぶだろう。あー

美奈が家を出たら、坂田とデーヴも勘付いてやってくるかもしれないなー。少し騒がしくなるかもしれないけど、我慢してくれ」


我ながら、少しわざとらしいだろうか。

……どうもこういうのは苦手だ。


「はい。……いえ、嫌ではないので我慢する必要はありません」


「そうか。それはよかった。じゃあ行こうか」


「はい」


そう言うと俺たちは席を立った。


……リザの目を見れば、悲しい過去だった事なんてわかる。

このまま一緒に悲しみに浸っているのもいいのかもしれない。


だけど、俺はリザを元気付けてやりたかった。

俺が仲間からそうしてもらったように、今度は俺が、誰かの為にそうする番だと思った。

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