she opens her mind because you asked her
「それはそうと、昨日お前の家で会ったあの子はどうしてるんだよ?」
学校が終わり、遙も含めて4人で家に帰っていた途中、坂田がたずねてきた。
「あの子? ……あぁ、リザの事か。さぁ? 昼間は色々何かを調べたりしてるみたいだが」
「なんだよ、まったく気が利かないね。どこか遊びにでも連れてってやれよ」
「遊びに? あいつを?」
そんな事考えもしなかった。
やっぱりコイツとは、根本的な考え方から違うようだ。
「……そんな事やってる暇なんてなさそうだけどな……」
リザの、何かを必死に訴えかけるような目を思い出す。
「そんなの本人に聞いてみないとわからないだろ。いいから誘ってみろよ。あっ、もちろんボクも一緒だからな!」
「では拙者もご一緒に」
「だから行くなんて言ってない」
「まぁまぁ、とりあえず聞くだけ聞いてみてくれよ」
坂田がポンポンと肩を叩いてくる。
「OKもらえたら連絡してくれ! じゃーなー」
勝手な奴。
こちらが返答する間も与えず、坂田はデーヴとそのまま去っていった。
◇◇◇
太陽と人工の光が入れ替わる夕暮れの街を、遙と二人で歩いていた。
半分に光る月を、薄暗い雲が淡く覆う。
「さっきの話だけど、いいんじゃない」
遙が先ほどの話題をふってくる。
「お前までそんな事言うなんて珍しいな」
「……似てるのよ」
「似てる?」
「彼女の目。昔のアンタに」
「昔の……俺……」
「だから何か、放っておけないっていうか……」
指を口に当て考え込む仕草をする遙。
「まぁ、お前がそういうんなら誘ってみるけど……」
「もちろん私も行くから」
「えっ」
「……何よ、文句あるの?」
「いや、ないけど……」
反射的に本音を曲げてしまう自分が悲しい……。
「せっかくだから、美奈と未来も連れて行きましょう」
「そうだな」
「私の時と何か反応が違うんだけど……」
ジト目で見る遙に手を振って否定する。
「そ、そんな事ない……遙とも一緒に行きたい……ぞ?」
「何で疑問形なのよ。……ふん。本当は彼女と二人で行きたかったんじゃないの?」
「い、いや、ないない。ないから」
「ホントかしら」
そんなやり取りをしている間に、遙の家の前までたどり着く。
日はすっかりもう暮れていた。
「じゃ、決まったら連絡してよね」
「あぁ。わかった」
最後だけは笑顔になって、家に入っていく遙。
今日も色々あったが、遙の笑顔を見たら、なんだかいい一日だったような気もした。
◇◇◇
家に帰って、早速、坂田たちに言われた事をリザに伝える。
「はい。構いません」
構いません、か。
断られなかっただけマシなのだろうが、これでは俺達が無理矢理誘って、コイツの意思がない事になる。
せっかく行くのだからコイツの希望も入れたい。
「じゃあ、今から色んな場所を見せるからその中から選んでくれるか?」
PCを起動し、インターネットのブラウザを開く。
まぁリザなら、こんなもの必要ないかもしれないが、たまにはこちらの世界の道具も見せとこう。
「私が選んでよいのでしょうか」
「ああ。頼むよ」
「……実はこの世界の事を調べていた時に、興味を引かれた場所がありました」
「へぇ。どこなんだ?」
「テーマパークという所です」
「テーマパーク……遊園地か」
少し意外だったが、本人がせっかく行きたいと言っているのだから否定する事もない。
「いいんじゃないか。でもどうして行ってみたいと思ったんだ?」
ただ理由がちょっと気になったので、聞いてみた。
「私の世界にはありませんから」
「……まぁ、ないだろうな。世界が違うんだから、別になくても不思議じゃないが」
「概念そのものがないのです」
「概念? どういう意味だ?」
「私たちの世界では、子供たちに夢や感動を与える事はありません」
「……………………」
「子供たちに与えるのは、怒りや憎しみと言った人の持つ負の感情です」
「…………どういう事だ? もう少しわかるように説明してくれないか」
「…………ここから先は聞いてもあまり楽しいものではありません……それでもお聞きになりますか」
リザの表情が曇り、瞳が暗く重たいものに変わっていく。
―――彼女の目、昔のアンタに似てるのよ
帰り道で遙が言った言葉を思い出す。
……聞いてしまってよいのだろうか。
リザの心の暗部――知ってしまう事で、何か戻れなくなるような気もした。
危険を避けて生きてきた自分と、平和な日常に。
……しかし、この短い間でも寝食を共にし、命懸けの戦いの中で助けられた事で、彼女に対して恩義や仲間意識が芽生えているのを感じている。
そして何より、時折リザが見せる、悲しみを帯びた表情や真剣な目。
その理由を知りたいと思った。
「……聞かせてくれ」
「少し長い話になるかもしれませんが、構わないでしょうか」
「ああ、大丈夫だ」
「……承知しました。では私の記憶と共にお話しいたしましょう」
そう言うと、リザは懐から球体状の道具を取り出し、テーブルの上に置いた。
そして、道具に付いているボタンを押すと、この前と同じように、部屋の中が闇に包まれた。




