after the battle
「セナっ!」
息を切らしながら遥が向こうから駆けてくる。
「大丈夫!? ケガはない?」
「あぁ……服は破れたけどな」
疲労感はハンパないが、あれだけの戦闘をして大した怪我もない。
リザの魔法のおかげか、それともこの腕輪の力なのか。
(その両方だろうな……)
そう思っていると、当人が俺と遙のそばまでやってきた。
心身ともに疲れ果てた俺とは対照的に、いつも通りの静かなたたずまいだった。
「お見事でした」
「いや……そうでもないさ。……犠牲が出たからな……」
血の海で倒れる少女に目を向ける。もう全く動きがない。
おそらく命はもう……。
俺の目線を追った遙も目を伏せ、表情を暗くする。
「ああ。アレですか」
淡々とした、素っ気ない言葉がリザの口から出る。
「ア、アレだと!? お、お前、自分の世界の人間じゃないからって、いくらなんでもそんな言い方はないだろう!?」
死者を冒涜するようなリザの物言いに、思わず声を荒げた。
「いえ。アレはただの人形です。我々の世界では、よく使われる手の一つです」
「え……って事は、人間じゃないの?」
遙が恐る恐る尋ねる。
「はい。今、お見せします」
そう言って、服の中から棒状の道具を取り出し、血の海に倒れる女生徒の方に向ける。
棒の先から光が放たれ、光の当たった部分が変化していく。
全身に光を当てた後、そこに現れたのは、血まみれになった一体のマネキンだった。
その首の後ろには、何か赤い宝石のようなものが埋め込まれている。
「おそらくは、この世界で盗んだ人形に、幻覚を見せる魔導器を埋め込んだのでしょう。
血は本物のようですが、これも何処からか調達したものだと思われます」
「どうしてそんな事を……」
遙がその場に膝をついて、声を漏らすように尋ねた。
「真意のほどはわかりませんが、必ずしも殺す事が目的ではなかったという事でしょう。
私たちの事は殺すつもりだったようですが」
シン……とした静寂の後、遠くからサイレンの音が近付いてくるのが聞こえた。
警察がサイレンを鳴らして校内に入ってきた頃には、すでに体育館を去っていた。
リザには先に家に帰るように伝え、遙と二人で校舎に向かう連絡路を歩いていると、反対側から、誰かの呼ぶ声が聞こえてくる。
声の主は、ヘルメットや竹刀、モップ、お鍋のフタなどで武装した坂田とデーヴだった。
「お前ら大丈夫か――――っ!」
「さ、さっきの化け物はいずこにぃぃ!?」
息を切らしながら、珍妙な恰好の二人の戦士が、こちらの方に向かってくる。
その姿を見て、遙と二人、ため息をついた。




