battle of gymnasium
「う、うわあああああ――――っ!!」「ば、化け物っっ!!」
叫び声が合図となり、生徒たちは一斉に立ち上がって体育館の出口へと殺到する。だが、全校生徒を一度に排出できるほど広くない出口は、生徒たちで一気に溢れかえった。
全校生徒が、2ヶ所ある体育館の出口を右往左往する中、体格のいい生徒や教師たちが、人狼の方へ向かって行くのが見える。
いずれも校内では化け物と噂される、体育会系の部活の顧問や先輩たちだった。
「全員で取り押さえるぞ!!」
『応っ!!』
学園の猛者たちは人狼の周りを取り囲み、雄叫びを上げて一気に飛び掛かった。十数人がかりで押さえ込み、人狼の拘束に成功する。
だが人狼は薄気味悪い笑いを浮かべると、一気に両腕を広げ、組み付いた者たちを吹き飛ばした。
『ぬおおおおぉぉ――――――っ!!』
猛者たちの巨体が一斉に吹き飛び、巻き込まれた生徒たちが倒されていく。
……なんて馬鹿力だ……。
「……だ、だめだ……っっ!」
「に、にげろ――――――――っ!!」
「う、うああああああああ――――――っ!!」
猛者たちに期待し様子を見ていた生徒たちが、本物の化け物の尋常ならざる力を目の当たりにし、再びパニックになる。
「お、おい! セナ、デーヴ! 早く逃げるぞ!!」
「いや待て! 遥は!?」
先ほどまで遥が座っていた場所を見るが、すでにそこに遥の姿はなく、逃げ惑う生徒たちが入り乱れて、もはや誰が誰だかわからない状況になっていた。
「これじゃ、わからない……」
「た、倒れている生徒の中にいないか、見ていきましょうぞ……」
デーヴにそう言われ、化け物に注意しながら館内を見渡し始める。
皆が逃げ惑う中、いつの間にか人狼は一人の女生徒の前に立っていた。
女生徒は立ちすくんでいるのか、身動き一つしない。
「オイ! 逃げろ!!」
俺の叫びも虚しく、女生徒の身体が人狼の爪によって引き裂かれる。
女生徒の身体が崩れ落ち、周りの床に赤黒い血の海が広がっていった。
「う、うわあああああああああああっ!!」
「キャアアアアアアアアアアアアア―――っ!!」
更なる絶叫と悲鳴が入り混じって響き合う。
悲鳴を上げて泣き叫ぶ女生徒たち。怒声を上げて我先に外へ出ようとする男子たち。館内の恐怖と混乱は最高潮に達した。
出口では相変わらず、激しい押し合いが続いている。
人狼が笑ったような顔で、生徒の集団へと近づいていく。
その気配に気付き、悲鳴の声が大きくなる。
「い、いやああ―――っ!!」
「く、くるなあぁぁぁ――!」
「お願い! 早く出て――っ!!」
その時、人狼が向かう先に、見知った顔が視界に入った。
「遥だっ!」
「えっ、どこ?!」
俺の声に反応して、坂田が視線の先を追う。
館内の混乱の中、遙は床の上で倒れていた。
「うっ……」
頭でも打っただろうか、意識が混濁しているようだった。
遙と人狼の距離が近くなっていく。
先ほどの血の海に倒れた女生徒と遙の姿が、頭の中で重なる。
「遥! 起きろ!!」
「遥氏!」
坂田とデーヴが叫ぶより前に、自分の身体は人狼の方へ駆け出していた。
視界に人狼の身体が、高速で迫ってくる。
「おおおおおおおおお―――――――っ!!」
俺は後先構わず人狼に突撃し、ブチかましをかける。
衝撃を受けた人狼の身体が、体育館のステージ横まで吹き飛び、壁を破って崩壊させた。
「……セ、セナ……?」
後ろから遥の声が聞こえたので、慌てて駆け寄って行った。
「遥! 大丈夫か!?」
「う、うん……」
意識はあるが、目の焦点がまだ合っていないようだ。
「坂田! デーヴ! こっちに来てくれ!」
坂田とデーヴを大声で呼び寄せる。
「おう!」「YA―!」
「遥を安全な所に運んでくれ!」
「運んでくれって、お前はどうするんだよ!?」
崩壊した壁の向こうから、狼の唸る声が聞こえてくる。
「……あの化け物を止める」
みんなを無事に逃がすには俺がやるしかない。
「無茶言うなよ! 殺されるぞ!」
「いいから、早く行けっ!!」
俺の声に驚いた坂田が黙る。
「頼む……」
声のトーンを落として、坂田の目を見た。
「…………。わかった。だけど絶対に死ぬなよ……」
「あぁ……遙は頼むぞ。親友……」
「へっ、こんな時ばっかり親友呼ばわりかよ! ……よし、行くぞデーヴ!」
「ラジャー!!」
坂田とデーヴが遙の肩を両側から持ち上げて、出口へと向かう。
しかし、出口はまだ避難しようとする生徒たちで混雑している。
壊れた壁の方に向き直ると、中から人狼が首をひねりながら出てきた。
改めて、間近に見る人狼の大きさに戦慄を覚える。
狼というよりもはやヒグマに近い。
―先ほど噛み砕かれた豚の生首が頭に浮かび上がる。
肉食獣に狙われるという、本能の恐怖が腹の底かわき起こり、背中に冷たい汗が流れた。
……この腕輪の力で、本当に止める事ができるのだろうか……。
こちらの逡巡と恐怖を見抜いたのか、人狼が地を蹴って飛び掛かってきた。
(…速い!!)
予測外の速度で間合いを詰めてきた人狼が目前に迫り、獣の剛腕が俺の身体を撃ち抜いた。
「くっ!!」
吹き飛ばされた俺の身体が、体育館の壁に激突する。
(……跳びすぎたか……)
力に逆らわないよう後方に跳んだが、力の加減がわからない上に化け物の腕力も乗って、吹き飛ばされる形になってしまった。
力は上がっても、頭の認識や感覚が追いついていない……。
人狼を見ると、体の向きを入口に殺到している生徒たちの方へと変え、飛び掛かる態勢に入っていた。それを見た生徒たちが悲鳴を上げる。
慌てて人狼の下に向かうが、この距離じゃ間に合いそうにない……!
「爆閃煌 (ライティング・スパーク)」
突然聞こえた声と共に、人狼の目の前で閃光のような輝きが爆発した。
「グオオオオッ――――――!!」
人狼が顔を覆い、苦悶する。
(……なんだ今の光は?)
声のした方を見ると、そこにはリザが立っていた。




