preparation for the past
河原での戦いの後、俺達は一旦家へと戻った。
居間の布団では未来がすやすやと寝息を立てて寝ている。
リザの魔法で傷は回復したものの、精神的に相当なストレスを受けたのだろう。
俺とリザはその横で未来の寝顔を見守っていた。
「リザ……」
「はい」
身体をリザの方に向け頭を下げる。
「……ありがとう」
「いえ…そんな。とんでもありません。どうぞ頭をお上げ下さい」
リザにそう諭されたが、俺は黙って頭を下げ続ける。
それほど俺はリザに対して恩義を感じていた。
「元はと言えば、私のせいですから……」
頭を上げない俺に、リザが辛そうな声を出す。
「……そんな事はない。お前がいなかったら今頃、未来は……」
想像もしたくない。その言葉の先は続けられなかった。
俺の世界とリザの世界が繋がった詳細についてはわからない。
だがそれはリザが意図した事ではないし、リザが俺達を助けてくれた事は
明らかな事実だ。善意には感謝をもって応えなければならない。
そんなやり取りをしていると、未来が少し苦しそうな息づかいを始めた。
「……アイちゃん……」
未来が呼ぶその名に、胸がチクリと痛む。
「セナさん……未来さんが呼ばれている方は……」
「…………」
返答ができない俺にリザの顔色が曇る。
「……すみません。余計な事を伺ってしまったようで……」
「いや……」
リザが悪いのではない。俺が話せないだけだ。
古くからの付き合いの仲間達にも改まって話した事はない。
母と一緒に映っている妹の写真を見る。
あれから長い月日が流れた。
もう誰かに話してもいい頃だろうか。
コイツになら、未来の命を救ってくれたリザになら話してもいいのかもしれない。
「……妹の事だよ」
意を決し、言葉を紡ぎ出す。
「もう昔の事だよ……」
俺は目を閉じ、昔の記憶を辿り始めた。




